第15話 新米保安官は、幼女奪還作戦を立案する。
闇の中、連れ去られるリーヤの姿が見えた。
「あ! リーヤさん!!」
僕は、ベットから跳ね起きた。
「あれ? ここは、……。そうだ、リーヤさんを取り返しに行かないと!」
僕はベットから降りようとした時、激しい痛みが僕の身体を襲った。
「痛って――!」
僕は、右腰から足を抱える。
それは僕が拳銃で自傷したものだ。
傷跡は、包帯とテープ・保護フィルム等で応急処理がなされているのが見えた。
……キャロリンさんが手当てしてくれたのかな? 湿潤治療っぽいフィルムも貼ってある。縫うにはちょっとややこしい傷だからかな?
「やっと起きたでござるか、タケ殿!」
「ヴェイッコさん、今何時? 僕はどのくらい気絶してたのですか?」
僕の顔を心配そうに覗き込むヴェイッコ。
「今は、朝の8時でござる。ちなみに一番寝坊助だったのはタケ殿でござるよ」
……くそぉ、リーヤさんがあんな目にあったのに、僕だけ呑気に寝ていたのかよぉ。
「あ、リーヤさんはどうなったのですか?」
「すまんでござる。あれから逃げるユーリをギーゼラ殿が追跡したのでござるが、下町のスラム付近で見失ってしまったでござる」
ユーリは長身かつスピード型の魔族、それを言ったら悪いけど短足でスピードに欠けるドワーフ族のギーゼラが追いつくのは難しい。
「拙者なら鼻と足で追いついたかもでござる。ギーゼラ殿を向かわせた拙者の判断ミスでござるよ」
「いや、魔法に長けた魔族相手だもの。魔法耐性が無いヴェイッコさんじゃ返り討ちにされた可能性もありますよ。で、領主ご夫妻はご無事なんですよね」
僕はヴェイッコを慰めた。
あれだけのツワモノだ、生半可な攻撃・追跡では返り討ちに合う。
隠密行動が出来て、対魔法戦もできるギーゼラでなくては追跡すらも難しいだろう。
「もちろん無事でござるよ。後、バカのイワンも屋敷に籠ったままなのを確認してるでござる。イワンの屋敷へはリーヤ殿は運ばれていないでござるよ」
とても痛い拳銃弾を3発も、碌な防具も無しに身に受けたユーリ。
出血の具合からして、致命傷に近い重傷を僕はユーリに確実に負わしている。
ならば、そう遠くへは行けまい。
更に貢物を渡す主人が動いていない。
「だったら大丈夫かな。主への貢物だから、リーヤさんを傷つける心配は無いですよ。それに主がこの街に居る以上、近所の隠れ家に忍んでいるに違いありませんね」
僕は半分眠ってた頭を動かすべく、パンと両方の平手で顔を叩いた。
……ここで、僕が気持ちで負けたらお終い。気合入れてリーヤさん奪還計画立てなきゃ!
「よし、じゃあ腹ごしらえして作戦会議です。『腹が減っては戦はできぬ』。マイナス思考にならないように行きましょう! 後はリーヤさん取り返したら勝利なんですもの」
僕はヴェイッコに肩を貸してもらい、食堂へ向かった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ザハール様、奥様。せっかく自分が付いていながらお嬢様を誘拐されてしまい、申し訳ありませんでした。宜しければ自分に汚名返上の機会をお与え願えませんでしょうか?」
僕は食卓に座るザハール、エカテリーナに深く礼をした。
「それを言うなら、実の父たる私が無能にも先に倒れていたんだ。タケ殿は対魔能力が低いにも関わらず、自分を傷つけてまで意識を保ち、アヤツに一矢報いてくれた。おかげでアヤツはリーヤを誘拐する以上の事、我らの殺傷までは出来なかったのだ。それだけでも十分だよ」
「ええ、まさか一番魔法に弱いタケ様が、あの悪鬼に一撃を与えてくださったのです。後はリーヤさえ無事に帰ってきたら万事、事も無しですわ」
領主夫妻の表情は暗く、目元に深い隈が見える。
おそらく娘が心配で満足な休息が取れなかったのだろう。
しかし、そんな中に僕の事を心配して励ましてくれている。
……この恩義には必ず報いなければ。
「タケ、いえ、モリベ保安官。昨日はわたくしの不手際で申し訳ないことをしてしまったわ。ごめんなさい」
「マム、そー格式張って僕を持ち上げなくても良いですよ。不甲斐なかったのはお互い様です。まだリーヤさんは無事です。早くリーヤさんを取り返しましょう」
僕は、顔色が同じく優れないマムを労った。
あんなバケモノ相手、マム一人では危なかっただろう。
「それを言うなら、途中でリーヤんを見失ったアタイの責任さ。もっとアタイが早く走れたら……」
「ギーゼラさん、それは言いっこなしです。誰も無いモノねだりしてもしょうがないですもの。あるモノ使って勝ちに行きましょう!」
普段の元気さが無いギゼーラ。
僕はいつもの元気娘を見たいから、ギーゼラを明るく励ました。
「あれ? そういえばタケっち、どうしてりーヤんが無事だって分かるんだい?」
ちょっと調子を戻したギーゼラが僕に疑問を聞いてきた。
「それは、このキスマークのおかげですね」
僕は意識して左頬、リーヤがしてくれたキス跡付近に魔力を込めた。
すると、何も無かったはずのキス跡が虹色に光りだした。
「このキスマークが光っている間、リーヤさんは生きてますよ」
「えー、それは契約のキスマーク!!」




