第43話 可憐に戦うエルフ姫様!
「デビット様。わたくし、リタ・フォン・エスターライヒがアルフ星、代表代行をさせて頂いています」
わたし達の星アルフに攻め込んできたデビット操る巨大要塞。
それを前にわたしは、交渉を始めた。
もちろん、この会話は地球のチエお姉ちゃんへも送っているし、コウタお兄ちゃん達は、急いでこっちに来てくれている。
「報告にありました、辺境伯の義妹さんですね。こちらの王族というも聞いています。さて、姫様は私に降伏して下さりますか?」
都全体に広がる、要塞の巨大スピーカー越しに聞くデビットの声。
わざわざ、神聖語、いやドイツ語で話すのがイヤらしい。
「その前にお聞きしたい事がありますの。デビット様は宇宙平和と簡単に申していらっしゃいますが、どのようなプランがあっての事でしょうか? より良いプランでしたら、協力も可能ですし」
わたしは、考えを纏めやすく難しい言葉を沢山知っている日本語でデビットに話しかけた。
……ここで少しでも時間稼ぎするの! 皆の避難もまだだし、コウタお兄ちゃんもチエお姉ちゃんも急いで来てくれているの。なんとかして、デビットの興味引くの!
「私が平和を広める方法ですが、まずはこの尖鋭要塞アバドーンによる『砲艦外交』です。姫様なら抑止力の意味はご存じですね。このような強大な軍力の前に、賢い民は私の元へ来るでしょう」
デビットは、ペラペラと得意げに話し出した。
……上手く、『餌』に食いついたの!
「私の『善意』に気が付かず、要塞に攻撃をするような……。そう、先だっての魔神の様な愚か者は、要塞の力で殲滅させます。そうすれば、宇宙は賢い争いを嫌うものだけの世界となるのです!」
「なるほど、デビット様の考えは分かりました。しかし、宇宙は広い。その要塞アバドーンが無敵でも、同時に数多の星々には現れる事は不可能です。その間の悲劇は、どうお考えですか? 更に要塞のような巨大な力では、無辜の民が巻き込まれる事もあるでしょう。それに対しても、どうお考えですか?」
わたしは、イジワルな質問をしてみる。
実際、どんな王様でも宇宙全体は見通せない。
魔神王様でも、チエお姉ちゃんでも、それは無理だ。
チエお姉ちゃんは、いつもニュースを見ては自分が助けられなかった人達の事を悔やんでいる。
無敵の魔神将でも、知らない人々は助ける事が出来ない。
なのに、デビットはそれが可能とでも思っているのか?
「それは仕方が無い事、宇宙平和には必要な犠牲です。私は女帝様によって、魔力と長寿を賜りました。それでも全知全能ではありません。なれば私の思想に従う者達を増やし、賢い彼らによって宇宙隅々まで平和とするのです!」
実に傲慢で、自分が正しいと思い込んでいるデビットの考えに、わたしは怒る。
御貴族様モードで表情は一切変えないが、まるで神にでもなったかのようなデビットに対しての怒りが止まらない。
……チエお姉ちゃんは、助けられなかった人々を思ってよく泣いているの。なのに、デビット。貴方はそれを仕方が無い、必要な犠牲と言い切る。それが許せない!
「おっしゃる事は理解しました。しかし、仕方の無い事と言い切るのはどうなのでしょうか? それとそのご様子では、デビット様が支配する世界に自由が無いように思えますが……」
「自由ですか? 自由というのは聞こえが良いですが、その実、許されないものです。各々が自由勝手にすれば世界は壊れてしまいます。そうならないために、私が支配する者達には私の考えのみに従ってもらいます。全宇宙は私と同じ考えとなるのです!」
想像以上にデストピアな世界を望むデビット。
世界を救う為には、全て自分が思うがままに動く世界であれ。
・
・・
そんな世界なんて、いらない。
不完全かもしれない。
争いも絶えないかもしれない。
でも、皆で笑いあい助け合い、そしてふざけあえる優しい世界であってほしい。
わたしは、マユお母さんやマサアキお父さん、ショウゾウおじいちゃん、ウタコおばあちゃん、カツヤおじちゃん。
そしてコウタお兄ちゃん、ナナお姉ちゃん、チエお姉ちゃん、アンズちゃん、アキト君、それにお爺様、ルーペット。
みんな一緒の世界じゃなきゃ、イヤだ!
「では、それが嫌だと言う人はどうなさりますか? それを家族の誰かが思っていたら? 全ての人々が違っていますのに?」
「それは悲しいですが、処分させて頂きます。危険思想を持つ者は、例え家族でも当局に通報して頂きます。そうすれば罪の連座は行いません。違いこそが悲劇の始まりなのです。全部、私と同じになれば良いのですよ」
ぶちり!
わたしの頭の中で怒りが爆発する。
……もう我慢できない。ごめん、お兄ちゃんたち。わたしぃ、時間稼ぎ出来ないよぉ!
「分かりました、デビット様。わたくしは、貴方の思想に同意いたしません。確かに宇宙に平和をもたらす考えは素晴らしいですわ。しかし、宇宙はそこに住む民のもの。王がそれを全てコントロールするのは、傲慢! ましてや家族内で争うのは本末転倒! そんな貴方をわたくしは、完全否定しますの!!」
わたしは、シマッたと思いながらも、デビットにタンカを切った。
「姫様! 私、一生姫様に付いていきます!」
「姫様、バンザイ!」
城内や街中から、ナゼかわたしを褒め称える声が聞こえる。
「ほう? 姫は自分の愚かな考えで、星を滅ぼすのですか?」
「あら? わたし、そんな事を言いましたかしら? まさか、デビット様はわたくしが恐いのですか? 先ほどから聞いていれば、わたくしを味方にするのに必死ですもの」
わたしは、デビットを煽る。
「まさか! 確かに姫は、強大な魔力持ちと聞いています。しかし、魔神族すら退ける、この無敵要塞に勝てますか?」
……策にのってきたの!
「そうですねぇ。では、わたくし1人の攻撃、そう一撃を撃って何もなければ、わたくしの負け。アルフはデビット様のものになりますの。これで宜しいかしら?」
「ええ! 面白い申し出、お受け致します。それは誰の血も流れぬ平和な解決方法ですから」
……やったの! わたし、頑張るの!!
◆ ◇ ◆ ◇
「姫様、無茶は勘弁ですよ。いくら姫様がスゴイってあの要塞と、お1人で対決するなんて……」
「姫様が頑固で無茶するのは、今に始まった事ではありませぬ。地球のご家族のご影響でしょうか?」
「リタ。さっきも言ったが、自分が思うようにしなさい」
皆が皆、わたしを心配してくれるのがとっても嬉しい。
「だいじょーぶ。これで時間稼ぎできたから、後30分くらいでお兄ちゃん達、ここに来るよ。だから、わたしが負けてもだいじょーぶ。もちろん負ける気なんて一切無いもん!」
わたしの中には、今は温かい思いで一杯だ。
ここでわたしが、要塞を倒せば皆が幸せになれる。
……オンナは度胸だもん!
そして、わたしはバルコニーに向かう。
多くの人々がわたしの事を心配そうに見てくれる。
「ごめんなさい、皆さん。わたくしの我がままで皆さんにご迷惑をおかけするかもしれません。でも、必ずわたくしが、リタ・オカモト・フォン・エスターライヒが皆さんを守ります!」
「おー! 姫様ばんざい!」
「頑張れ、姫様!」
わたしは、皆の声援を受けて、マサトお兄ちゃんに作ってもらった魔法少女杖を、空中要塞に向ける。
「デビット、行きます!」
そしてわたしは、今までで最大の魔力を杖に込め、放った!
「リタ殿、もう少し待つのじゃ! ワシ、絶対に間に合わせるのじゃ!」
チエちゃん、リタちゃんは大丈夫です。
絶対に皆を守ってくれますよ。
「そう作者殿が言われようとも心配なのじゃ! タケ殿、リーヤ殿も心配で一緒に来てくれているのじゃ!」
という事で、明日以降は、再びタケ君視点の話に戻ります。
では、明日の更新をお楽しみに!
「心配なのじゃぁ! 心配なのじゃぁ!!」




