第36話 帝都強襲 その5:必殺 お仕事人!
「どうだ! この龍の群れにオマエらはどうする? そんなマメ鉄砲や剣では倒せぬぞ!」
背後を飛び交う龍の群れを、自慢げに拙者達に見せ付ける公爵ミロン。
「なるほど、地球の東京や『うみほたる』での事件も其方らが暗躍しておったのか」
「そうか。オマエは、あの場にも居たのか。つくづく目障りなヤツラよ。ああ、その通り。ケラブセオンから頼まれて龍達を送ったのだ。代わりに龍達を自由に操る方法と操れる龍を貰ったのだ!」
ミロンは自慢げに自らの悪行を語る。
……どうして世の中の悪役ボスは、自分の悪行を自慢げに話すでござるか? 時代劇やアニメでも毎回話すでござる。
「なれば、其方らを罰する罪が増えただけの事。無関係な地球の民をも傷付けた罪はゆるさん」
「なれど、この龍の群れを相手にどう戦う? 今、我に手を出せば龍達は帝都を容赦なく襲うぞ。そして、……」
「きしゃぁぁ!!」
バルコニーの前に真紅の龍が現れる。
「この火龍をどう倒す? さあ、我の前に土下座をしろ! そして命乞いをせよ!!」
ミロンは、皇帝代行とも思えぬ下劣な手を見せる。
……皇帝代行が帝国市民を人質にして、皇帝を脅迫するでござるか。 実に情けないでござるよ。
「あらまあ。下品な者の親も下品なのね」
マムは、爽やかな顔でミロンを見下す。
マムの足元には、四肢を完全に破壊されて芋虫状態になったヨシフが転がる。
「このメスババァがぁ!」
「あら、下品な事をいう口は誰かしら?」
マムが剣を一振りすると、ヨシフは剣先から発生した衝撃波に吹き飛ばされ、ミロンの横をすごいスピードで飛び去り、壁に激突した。
「まったくマユコさんが同じ事言われていたら、貴方死んでましたよ?」
シレっとマユコさんの恐ろしさを言うマム。
……マムも十分怖いでござるよぉぉ。
「さて、この状況ですが……。リタ姫、御願いできますか?」
「そうだな、余もそう思っていた。姫、他所の星の争いに巻き込んでしまってすまぬ」
「いえいえ。陛下にはナナお姉ちゃんやコウタお兄ちゃんがお世話になっていますし、わたしの星とも国交樹立でもお世話になってますから、お気になさらずに。それにおにーちゃんなら、喜んでお節介しちゃうと思うもん」
「な、何をオマエら言っておる? そこなるエルフ。確かに魔力がすごいらしいが、所詮は人間の身。龍に勝てるはずも無い!」
マムと陛下は、事態収束にリタ殿に支援を頼むが、自分の存在を無視されたミロンは、なおも自らの優位を示す。
「ドラゴンさん。わたし貴方を殺したくないの。逃げてくれないかしら?」
リタ姫は、魔法少女風な杖をバルコニーの向こうに飛ぶ火龍へ向ける。
「ぎしゃぁぁ!」
しかし火龍は、火炎交じりの息を姫目掛けて吹きかけた。
「しょうがないのね。じゃ、これ見て考えてね。よいしょ!」
龍の火炎を完全に防いで、何も無かった様なリタ姫は、可愛い掛け声で杖から小さなピンク色の魔力弾を発射した。
「ぎぃ??」
魔力弾は火龍のすぐ横をかすめ、最強の鎧たる龍鱗を簡単に弾け飛ばした。
そして魔力弾は、帝都の空中を飛ぶ龍達の中心で大きなピンク色の爆発をした。
その爆風で、龍達は空中から叩き落される。
王宮のガラスも全部粉々に割れ飛んだ。
……リタ姫、やり過ぎでござらんか? 恐るべしは乙女の力でござるよ
「ぎぇぇ!!!」
リタ姫の攻撃が防御出来ない事を理解したらしい火龍は、傷から血を流して急ぎバルコニーから逃げる。
また地上に落ちた龍達も、一目散に帝都から逃げ出した。
「そうそう。皆仲良くするのが一番なの。もう人間に騙されて悪い事しちゃダメだからねぇ!」
魔法少女杖を振って、龍達にバイバイするリタ姫。
その様子を見て、完全に腰を抜かしたミロン。
「ど、どうして? 龍達は我の命令以外は聞かぬはずなのに?」
「それはな、根源的な恐怖の前には精神支配も無効ということだよ。リタ姫、もう少し手加減できぬか? 帝都の皆に迷惑だぞ」
「ごめんなさい、陛下。貫通力重視の最低パワーで撃ったのですが、ちょっと手加減間違えましたの」
テヘという感じで可愛く陛下に謝るリタ姫を見て、ミロンは恐怖する。
「あ、あれで最低……」
「ですので、投降なさることを提案しますわ、閣下。あ、それに今から放送も始まりますの」
マムが投降宣告をした直後、帝都内の有線放送スピーカーから陛下の声が聞こえだした。
「早朝早々、皆にご迷惑をおかけして済まぬ。余、いや私はミハイル・ウラジーミロヴィッチ・オルロフである。私が不在の間、民草の方々、そして帝国運営を行ってくれておった事務方、更に治安維持をしてくれた兵士、騎士の方々に礼を申す……」
「な、なんだと! 一体何が起きておる? ミハイルはここにいるのに?」
「あら? ミロン閣下は、ご存じありませんでしたか? 去年もこの手を使いましたの。既に城内の放送施設は我々で掌握済み。そこから帝都内、そして領内や地球へ向けて陛下の肉声をお届けしますのよ」
放送は、ミロンの悪行についての話となっている。
「現在、皇帝代行をしておるミロンは、以前から私服を肥やし無駄な戦争を起こし多くの民を苦しめておった。更に今回皇帝暗殺をもくろみ、私は一時死線を彷徨った……」
「お、終わりだぁ。我の悪行がぁぁ!」
ミロンや彼の周囲で呻く兵士達、そして狼狽する側近、事務官達は、放送内容を聞いて自分達の敗北を理解した。
「おじさん達、悪い事している自覚あるなら、最初からやらなきゃいいのにね」
「そうだな、姫。政治は綺麗ごとではすまぬ。清濁併せ呑む必要があるのは姫もご存じであろう。しかし、王たるもの、民を率いる際、民を無視し、あまつさえ人質になぞしては決してはならぬ。王と民は一心同体。どちらも大事なのだ。賢き姫なら、この事を良き経験として、よりよい国を作ってくれると思うぞ」
「はい。良きお言葉、ありがとうございます」
姫は頭を抱え呻くミロンを見て、悲しそうな顔をする。
陛下は、そんな優しい姫を見て、王たるものの心構えを伝えた。
……帝王学でござるかな? 拙者のような者には分からぬでござるが、陛下やリタ殿なら良き国を作ってくれると思うでござるよ!
こうして拙者達の帝都強襲は無事、誰一人の命を奪うことなく、無血(?)制圧に成功した。
これも事前に準備を行ってくだされたチエ殿、そして御自ら戦場に出てきてくだされた陛下、他多くの仲間達の努力の賜物だ。
「では、ミロン閣下他の方々には、安全な場所へとお送り致します。ここ城内にいらっしゃいましたら、暴徒達に殺されてしまいますわ」
マムはそう言って、後からやってきた神殿付きの神聖騎士団の方々と一緒に主犯達を捕縛していた。
「リタ様は、お急ぎ地球へお帰り下さいませ。マユコさん達も無事に勝利なさったとの事。祝勝会が行われるそうですわ。わたくし達は後処理を行ってから、地球へは参りますの」
「はいです。皆さん、お疲れ様でした。また、今度一緒に遊びましょうね!」
リタ姫をポータルまで送った後、マムは拙者達を見て微笑む。
「皆、わたくしの可愛いコ達。今回はよく頑張ったわ。これからも帝国や地球の皆を幸せにしていくためにいきますわよ!」
「はい!」
拙者達は笑いあった。
「あれ、何か忘れていない? アタイ、誰か他にも居たような気がするんだけど?」
「誰だったで、ござるか?」
「他にもいましたでしょうか?」
なお事態が大体落ち着いた翌朝まで、城内で凍りついたままのブルーノ達をどうするのか、拙者達は完全に忘れていた。
「しまったでござる! 呪文の解呪が出来るリタ殿やリーヤ殿は、地球でござるぅ!!」
「これで帝都での作戦はおしまいなのじゃ! 誰も失うこと無く全ての作戦で勝利したのじゃ!」
チエちゃん、お疲れ様でした。
これで物語も無事終えられますね。
「そうかや? 作者殿は、まだ何か企んでおろう? 『チェーホフの銃』、デビットが残って居るぞ」
やはり気が付きましたか。
ええ、本当の意味でのラストバトルが残っています。
「では、どう来るのか楽しみにしておるのじゃ! 読者の方々もブックマークなぞして、楽しみに待っておるのじゃ!」
では、明日の更新をお楽しみに!




