第35話 帝都強襲 その4:暴れん坊皇帝2!
「この扉の向こうが、玉座でござるよな」
拙者達は城内を堂々と進み、玉座の間まで来た。
途中、兵士達が数回拙者達の前に来たが、拙者がパンと天井に向けて銃を撃つと、誰も彼も逃げていった。
……タケ殿が銃火器の恐ろしさを皆に教えた効果があったでござる。拙者、雇われ兵士殿達は撃ちたくないでござるよ。
「案外と楽勝でしたわね。案の定、途中にあった寝室は空でしたし」
公爵が寝ていたと思われる寝室は、ベットが大きく乱れていて、誰かが慌てて出て行った様子が見られた。
「エレンウェ、油断は出来ぬぞ。この扉の向こうに魔術師を沢山準備させていて、扉を開いた瞬間ドカンというのもあるぞ」
「陛下、良い読みですね。私なら更にもっと仕掛けましょう。ただ、そうくると分かっていれば、こちらの術師で対応可能です。ご安心して、陛下は公爵をどう煽るのか、台詞を考えておいてくださいませ」
マムは油断はしないが、気を抜いている。
そんな様子に戦い慣れない陛下は、緊張をしている。
アレクは、そんな陛下を安心させ緊張を解す様に話した。
「うむ。そうだな。其方達は、余の盟友にして最高の仲間なのだ。余は大船の乗ったつもりで行くぞ!」
「はい。泥舟にならないようにいきますわ。リタ様、行きますわよ!」
「ええ、マム様。わたし、本気でいきまーす!」
陛下に仲間と言って貰えた嬉しさから、皆に笑顔が広がる。
……拙者もいくでござる。しかし、姫が本気だすと、城がなくなりそうなのは、どうなのでござろうか?
「では、行くわよ! リタ様、シールド展開! ヴェイッコ、撃って!」
「おうでござる!」
拙者は、40mm榴弾をグレネードガン、ダネルMGLから豪華な扉目掛けて撃った。
◆ ◇ ◆ ◇
「本当に、ヤツラが玉座に攻めてくるのか?」
「はい、既にスダレンコフ子爵の配下が接敵をし、全滅しております。その後も兵士達を多数倒して、上階へ上ってきていますので、間違いありません。なお、皇帝も同行しているのを確認しております」
玉座に座る皇帝代行ミロン・パーヴロヴィッチ・スルコフ公爵。
早朝、側近達に無理やり起こされたからか不機嫌な様子で報告を側近から聞くが、威厳も無く王冠を被る髪も酷く乱れている。
「なあに、オヤジ。コッチは、これだけ魔術師を揃えて待って居るんだ。扉を開けた瞬間、皇帝ごとチリ一つ残さずに消し飛ばせるさ」
四肢が銀色に輝くヨシフ・ミロヴィッチ・スルコフ子爵。
彼は玉座の前に立ち、その前に立つ8人もの魔術師を指揮する。
「今度は絶対に皇帝の息の根を止めてやる! そして、オレの手足を吹っ飛ばした地球ザルも、まとめてぶっ殺す!」
怒りに燃えるヨシフ、彼は手足を義体化させる事になったタケを逆恨みしている。
「まもなく敵が扉を開けます! 術者、準備!」
透視の術を使っている者が、敵接近を告げる。
「さあ、こい!」
しかし、扉は開くのではなく、弾け飛ぶ。
次の瞬間、ヨシフ達に閃光と爆音、爆風が襲いかかった。
「な、なにぃぃ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「次いくでござる!」
扉を吹き飛ばした拙者は、居並ぶ唖然とした表情の術者たちを目視した後、彼らに向けて煙幕弾を1発、そして後はゴム散弾型のグレネード弾を4発連射した。
「ぐぎゃ!」
予想外の攻撃で浮き足立った術者達が、拙者の攻撃で倒れ伏すのが煙幕すら見通せるイルミネーターから見えた。
「推して参ります!」
「私も!」
そんな煙幕中にマムとアレク殿が突撃する。
拙者は武器を軽機関銃に持ち替え、まだ立っていた術者や騎士達の脚を撃つ。
……拙者、タケ殿程では無いが練習して、近距離なら殺さずに倒せるようになったでござる!
「ち、ちきしょー!」
そんな中、四肢を義体化させたヨシフが、マム目掛けて獅子の様に飛びかかった。
「あら、そんな程度?」
しかしマムは、さらりとヨシフの豪剣を自らの細剣で受け流す。
「なんで、大人しくオレに切られないんだぁ!」
挑発されて激怒するヨシフ、しかしマムは余裕の構えだ。
そして、剣だけでは無く、義足などから飛び出してくる暗器すらひょいと避けては切り落とす。
「陛下、わたくしがコイツ抑えて置きますから、ごゆっくりどうぞ」
「他の兵達は、私にお任せを!」
「うむ。任せたぞ、エレンウェ、アレク。ミロン、そしてこの場にいる者達よ! 『余の顔を見忘れたか!!』」
陛下は、ドヤ顔で某暴れん坊な将軍様の名台詞を吐いた。
……あれ、陛下くらいしか使えないネタでござる。そこだけは、羨ましいでござるよ。
拙者は残る敵兵を殺さない程度に撃ち倒し、銃口を公爵へ向けた。
「うぬぬ。見忘れる筈無かろう、ミハイル! 先祖代々の恨み、そして帝国を台無しにしたオマエの顔を!」
玉座から立ちあがり、陛下を指差し激高するミロン。
「ほう、では今其方らが行っておる事も理解しておろう! 余を暗殺せしめ、帝国を我が物としようとは笑止千万!」
「何が笑止だ! オマエがやった事で多くの貴族が被害を被った。武勇ある者達が活躍の場を失い、職すら失ったのだ!」
ミロンは、保守派らしい理屈で陛下を責める。
「確かに武勲を持つ者達には不平もあろう。そこを考えきれなんだ余も悪い。だが、ちゃんと話もせずに余の命を取りに来るとは愚か者め。其方らが公金横領をし私利私欲を肥やしておったのを、ある程度黙認しておったのが甘かったのだな」
「ぐぬぬ。そこまで知っておったのか。ますます生かしてはおけぬ。なれば、こうだ!」
ミロンは陛下に言い負けた時、懐から笛らしきモノを取り出し吹いた。
「何を吹いた? 余には何も聞こえぬぞ? 追加の兵士でも読んだか?」
「陛下! 今のは犬笛でござる。タケ殿が言う超音波でござるよ!」
獣人族である拙者の耳には、魔族種やヒト族には聞こえない鋭い音が聞こえた。
「確かに呼んだぞ、最強の『兵』を!」
「ぎゅわぁぁ!」
玉座の奥にあるバルコニーから、すさまじい叫び声が聞こえた。
「なんと、龍でござるか!」
玉座の向こう、バルコニーから数匹の龍、そして飛龍達が早朝の帝都の空を飛ぶのが見えた。
「なるほど、地球で飛龍が暴れたのに公爵も一枚噛んでおったのじゃな? ケラブセオンとの裏取引の材料にしたのかや?」
そういう事です、チエちゃん。
ファンタジー世界最強のモンスター、ドラゴン。
それを目の前に陛下達やマムはどうする?
「そんなのリタ殿の前では無意味なのじゃ。さて、リタ殿がどう料理するのか、明日が楽しみなのじゃ!」
あーん、チエちゃんってば、ネタバラシしないでよぉ。
「では、ブックマークなぞ募集しておるのじゃ!」




