第34話 帝都強襲 その3:闇を切る! 帝国犯科帳
「アレク殿、何かおかしくないでござらんか? 城内がここまで静かとは思わないでござる」
「確かに一の鐘が鳴れば下働きの方々が普通動きはじめますが、今日は静かですね」
拙者達はギーゼラ殿達から別れて、今は城内を静かに移動をしている。
現在位置は、隠し扉がある地下の倉庫から1階を移動中。
目指すは上層階の皇帝代行の公爵がおわす寝室。
そこで公爵の身柄を押さえられれば、拙者達の勝利だ。
しかし、拙者達の耳には何の音も聞こえず、人が動く気配も無い。
一階には厨房も存在するから、この時間で誰も動いていない事はありえない。
「これは罠では無いでござらんか?」
「余もそう思えてきたぞ」
「そうねぇ。そんな気も……。あら、ヴェイッコ。貴方の予想通りね。それに、あまり会いたくない『敵』ね」
拙者達の目前に、多数の騎士達、魔術師達が現れる。
そして背後にも同様の兵士達が現れ、石弓を拙者達へと向ける。
「陛下、マム殿。投降してください。私は貴方方を傷付けたくないのです」
拙者達を囲む兵の先頭に、見知った顔が居る。
「ブルーノ。貴方、代行側に寝返ったのですか?」
「マム、そんな訳無いでしょ? 私の雇い主、ボリス様の命令です」
「あら、でもわたくし達が代行を襲うって話を上へ流したんでしょ? ネット会議中に貴方が盗み見していたのは、チエさん含めて知っていましたから。しかし貴方が日本語の聞き取りが出来る様になっていたとは、お見事ね」
マムはブルーノを虐める目つきで、からかう。
「そ、それは仕事でしょうがなくです。日本語はマジで勉強しましたから。で、投降なさってくださりませんか? 私の権限で皆様をどこかに安全にお逃がしますから」
「あら、それはお優しい事で。でも、わたくし達に暗殺者を送る代行ですもの。逃げた先に死が待っていてもオカシク無いですわ」
「そうでござる! 拙者、推して参るでござる!」
ブルーノ個人としては拙者達と戦いたくない様だが、拙者達には勝利しかない。
……死して屍拾うもの無しでござるよ!
拙者は、愛用の軽機関銃の銃口をブルーノへと向ける。
「ブルーノ殿、コレの威力は知っているでござるよな? 痛いではすまぬでござるよ?」
「ええ、十分知っていますから、ヤなんです。正直、逃げたい気分ですけどねぇ。宮仕えは辛いです」
「ふむ。では、ブルーノよ。ボリスに伝えよ。ここで余を害すれば容赦はせぬぞ、と。どうせ、この会話も今聞いて居ろう、ボリス? そろそろ岸を決めぬと滅びるぞ」
陛下は、わざわざ前に出てきてブルーノへと、更に上司の子爵へ圧を掛ける。
「すいません、ボリス様と少し話します。ボリス様、これは不味いですよ。これ、私が相手だから手加減してもらっているだけです。このままじゃウチの兵士全滅ですよ。それにアノ『魔女』、リタ姫もいらっしゃいます。ウチに勝ち目なんて無いですよ!」
ブルーノは携帯型情報端末を使って上司らしき人物と話し出す。
こちら帝国でも上級貴族なら、すでに携帯端末を使っていて不思議でもない。
実際、陛下やザハール様も使っていて、よく直電でマム達を困らせている。
なお、魔女と言われて、リタ姫はぷんすかしている。
「おい、これはどうなっている?」
「オレに聞くなよ。あのエルフ娘がリタ姫なのか。オレ、死にたく無いぞ!」
拙者達を囲む兵士達にも動揺が広がる。
どうやら、ボリス殿が拙者達の戦力を見誤っていたのだろう。
……まさか、ワザとブルーノ殿は情報を全部流さなかったでござるか? それはそれで不味いと思うでござる。
〝情報の大事さを、まだ理解しておらなんだか。全部終わったら折檻と鍛えなおしなのじゃ! あ、皆の衆。地球側は無事に作戦終ったのじゃ! タケ殿がかっこよかったのじゃ!〟
チエが念話でツッコミ通信をしてくれ、それに合わせてフォルがイルミネーターに情報を表示してくれた。
……タケ殿、ロボ操縦とはカッコいいでござる! 拙者も今度乗りたいでござる!
「はい、はい。分かりました。しかし、そう都合良くとは……? はい? それは私に死ねと言っているのでは? え、誰か犠牲にならないと、公爵に顔合わせできないってですか! あ、通信切らないで! もし、もしもし!」
通信が終ったブルーノ殿は、とても疲れた表情をしていた。
「あのー……」
「全部言わないで良いわ、ブルーノ。貴方達捨て駒にされたのね。可愛そうに」
「はいです」
マムは慈愛の表情でブルーノを見る。
拙者も、会話内容を大体は理解している。
……中立派にいるのには、非情でなくてはならんのでござるか? 部下に死ねと言うとは……。
ブルーノの後ろの騎士達すら動揺が隠せない。
背後の兵士達も石弓を既に下ろしている。
「ふむ。では彼らは全員死んだことにすれば、余が貰い放題だな。皆よ、薄情な子爵に従う事は無いぞ。今、この場で余に従えば、今後の事の全て、責任を持つぞ! どうだ?」
「陛下、しかし誰かが死ぬ必要があるのでは?」
「そこはだいじょーぶなの。陛下、わたしヤッてイイよね?」
陛下とブルーノの会話に、加わるリタ姫。
……拙者、結末が見えたでござるよ。なむなむでござる。
「よし! まかせたぞ、リタ姫」
「任されましたぁ。皆、仲良く凍ってね。全部終わったら、ちゃんと解凍するからねぇ。いくよ! 『永久凍結地獄』!!」
リタ姫は容赦なく周囲の兵士達、ブルーノも一緒に呪文を叩き込んだ
「ちょ、これはぁ」
「うふふ。喰らった人達がどうなるか見ているから安心できるでしょ。全員凍って寝ておいてね」
氷に包まれていくブルーノは慌てるも、マムはその様子を嘲笑する。
……マム、ブルーノ殿が裏切ったのを怒っているでござる。後が大変でござるよ。なむなむでござる。
そして全員が氷の棺に囚われた。
「しかし、何時見ても見事よな。因みに、殺傷モードの凍結呪文もあるのであろう、姫よ?」
「はい、陛下。範囲系の『絶対零度』とか個別系の『氷結烈波』でしたなら、何も残りませんわ」
「聞くだけで怖い呪文でござる。確か日本でワイバーンを倒した呪文でござるな」
「ええ。あの時は、ちょっとやり過ぎましたの」
恥ずかしそうに微笑むリタ姫。
手加減一発で大岩砕く、まさに姫の事だと思う。
「では、後は堂々と玉座に向かいましょうか。向こうは待っていらっしゃいますし。そろそろ放送も開始しますわ」
「はいでござる!」
拙者達は、うらめしそうに凍るブルーノ達を見ながら上階に上がった。
「宮仕えは辛いのじゃ。理不尽な命令でも上に従わねば、ならぬのじゃ!」
作者もお役所勤務なので、上の理不尽さは理解してます。
今の直属の上2つまでは全員長く一緒に仕事にしていますので問題無いし、部下には理不尽な事言わないように注意してはいますけど。
「過労死問題に取り組む厚労省が、国会開催中には午前様も当たり前の過労では問題ありなのじゃ! 何処も大変なのじゃ!」
ほんと、何処も大変ですね。
と、愚痴っていてもしょうが無いです。
では、明日の更新をお楽しみに。




