第30話 砂塵吹き荒れるエリア51!:その8 迂直の計
「さて、デビットや。どうするのじゃ?」
「ええ、降参なさりますか、ミスター・ウォン」
わたくしはリーヤ殿の横に立ち、デビットが母様達に囲まれている姿を見ている。
既にこの建物周辺の兵士達は完全に無力化されていて、全員凍っている。
「それは、こちらの台詞です。貴方達は、私の会社や米国政府へ多大な被害を与えています。それは違法では無いですか?」
しかし、デビットは直ぐに飛び出しそうなバトラーを制止して、今も余裕の表情だ。
どちらかというと、横に居る国務長官辺りがビクビクしている。
「それは、別働隊の結果次第ですわ。あら、上手く言ったようね。チエちゃん?」
「ほいなのじゃ!」
母様が合図をしたので、もう一人のわたくしがイルミネーターを操作する。
すると、デビットの目前にあるモニターに映像が表示された。
「ほう?」
◆ ◇ ◆ ◇
「ふっとべ!」
妙な剣、いや太刀を青年が振るう。
太刀の金色な斬撃が空中を飛び、青年の周囲を囲っていた魔物達がバラバラに吹き飛んだ。
「さあ、死にたい奴から掛かって来い! しっかし、ここは昔マユ姉ぇがふっ飛ばしたのに、また再開するなんてねぇ。な、すーさん」
「はぁ、毎度思うがコウタの家系のネーミングセンスには困ったものだ」
青年コウタは、文句を言う知性魔剣を肩に担ぎ周囲を見回す。
ここはケラブセオンの秘密研究所、コウタの周囲には研究所の警備兵も居るが、誰も彼に近付くどころか銃口すら向けない。
「コウ兄ぃ、ちょっと暴れすぎだよ? あ、またコウ兄ぃって言っちゃったの、ボク」
「ナナさんこそ、暴れすぎですよ。みーんな伸びちゃってますし」
女子大学生っぽい娘を日本刀を持つ和風美女が窘める。
娘の周囲には沢山のタイルが浮遊しており、周囲には警備兵達がピクピクしながら転がっている。
「ごめんなさい、アヤメさん。ボク、最近はアキトの世話でじっとしていたんだもの。今日くらいは暴れたいの」
「しょうがないですよ、アヤメ様。ナナ様はお母様になられても、いつもこんな感じですし。後は、こちらでフォローしましょうねぇ。さあ皆様、抵抗は無駄ですわよ」
「ひぃぃ!」
アヤメに謝るナナ、そして周囲を警戒しながらフォローをする、たおやかな表情の女性魔神将「調」。
警備兵や研究者達は、魔神の姿を見てすっかり怖がっていた。
「アヤメ室長、サーバに侵入できましたぁ!」
コウタ達の背後、研究所のメインフレームへと繋がる端末を操作していた蜘蛛娘がアヤメに向かって報告をした。
「き、貴様達は一体何をしているんだ! ここは我らケラブセオンと政府の共同研究施設だぞぉ!」
剥げ頭、白衣の中年男性が吼える。
「そんなの、ここでの非道な極秘研究の暴露に決まっているじゃない? 室長、ウチのサーバーに接続かんりょー。データの転送を開始しますね。CPマサトさん、御願いします」
「な、なんだとぉ! やめろ! やめるんだぁ!」
剥げ男が飛び出してくるも、ナナの操るタイルが彼を弾き飛ばした。
そしてコウタは魔剣を、尻餅をつく男に突きつけた。
「ひぃぃ!」
「アンタ達が今までやってたのと同じ事をアンタにやっても良いんだぞ? 俺はこれでも異世界帝国の辺境伯で領主様さ。アンタ達が異世界の人々に手を出していたのなら、俺は許さないぞ!」
コウタは怒りを込めて男、おそらく研究所長らしき男を脅した。
「兄貴、俺もソイツら燃やそうか?」
倒した魔物達を荼毘に付すタクト。
彼も怖い表情で研究者達を見る。
「コウタさん。これ酷すぎてお子様には見せられない内容ですよぉ」
「そうか。ルナちゃん、ありがとね。じゃあー、ここの連中は全員同じ事味わってもらおうかな?」
「ぎゃー!」
研究者達の悲鳴が大きく響いた。
◆ ◇ ◆ ◇
「で、どうするんですか、お嬢さん方?」
中継される映像を見ても、一切動揺を見せないデビット。
「あらぁ! わたし、もうお婆ちゃんなのに、お嬢さんって呼んでもらえたのぉ! ありがとう、デビット様。貴方達の研究内容を世界中へ公開しますのよ。もう既に一部はネット上に拡散していますわ」
母様はデビットにお嬢さんって呼んでもらえたのが嬉しいのか、妙に舞い上がっていた。
「そうなるとウチも終わりだね。なら、女帝様どうしましょうか? 見せしめと仕返しに姫でも襲いますか? それとも……」
デビットは個人の情報端末を見て、母様の発言が事実である事を確認した。
そして、デビットは冗談だと思うが、ふざけながらリーヤ殿を襲う事を言ったので、わたくしはリーヤ殿の前に立ちはだかった。
「そうじゃのぉ。じゃが、それは面白くも無いし、簡単な話でもないようじゃ。姫、いや、其方は誰なのじゃ?」
しかし、魔神女帝はデビットの冗談を聞き流し、リーヤ殿をきりっとした眼で見た。
「いつ言われるのでしょうかと思っていましたが、まだわたくしの正体を見抜けなかったのですか、姉上?」
「ま、まさか! 小妹なのか!?」
「そうですわ!」
リーヤ殿は姿を変える。
強大な魔力を放つ、下半身が蛇の女性魔神、魔神女王、母上へと。
ただ、本来の姿からは小さい分け身ではあるが。
「姉上、昔の仕打ちは謝罪します。ですので、無関係な人々を巻き込むのは辞めていただけませんか?」
「魔神女王とは思えぬ甘さよのぉ、小妹よ。過去の冷徹なオマエは何処にいったのだ?」
魔神最上位種の2柱がにらみ合う。
その魔力のぶつかり合いに、わたくしは吹き飛ばされそうになるも、母様が捕まえてくれる。
「チエちゃん。あ、その姿のときはソフィアちゃんだったかしら? 早く分け身を戻してパワー回復したらどうかしら?」
「はい、そうさせていただきますわ」
「了解なのじゃ!」
わたくしは、幼女姿のわたくしと合体をした。
「わたくしとて、昔のわたくしではいられませんわ。女王として何が魔神全体にとって有益か考えた結果なのです。わたくし、この星の方々を敵に回す危険性は犯したくないですもの」
「ほう、あの弱虫ながら策士であったオマエがそう言うのかや。確かにこの星の民は面白いのじゃ。一人ひとりは弱いかと思えば、集まれば強い。更に文化とやらも興味深い。簡単に滅ぼすには、もったいないのは同意じゃ」
女王と女帝は魔力をぶつけ合いながらも、表面上はにこやかに話し合う。
「はぁ、これは困りましたね。女帝様もこれでは動けない。レオニードも倒され、私の手勢や米国も動けない上に、私の『悪行』も世界に後悔されてしまいました。では、しょうがない。今回は失敗したという事ですね」
「……ええ、なので大人しく投降して欲しいですの、デビット様。わたしもこれ以上は米国と喧嘩したくないですわ」
デビットは負けた割には、あっけらかんとした態度だ。
母様も簡単な結末に、唖然としながらもデビット達に投降を促す。
……あまりにあっけない上に、妙に往生際が良すぎるのじゃ。これは何かあるのじゃ!
「では、当初の予定通り撤退しましょう。バトラー、女帝様、アソコへ行きますよ」
「おい、私はどうなるんだ! このままでは政界から追い出されてしまう!」
デビットは撤退準備をするも、国務大臣は慌てふためいていた。
「デビットめ。ワシらに勝つ気が無かったのかや?」
チエちゃん、お疲れ様です。
そこは、どうなんでしょうねぇ。
なんらかの打開策があるのかもしれませんよ。
「うむ、注意するのじゃ。では、明日の更新を待つのじゃ!」




