第13話 魔神将は、驚愕する! そして現れる魔神女帝!
「では、こちらの魔法円の中へどうぞ」
デビット、レオニード、そしてわたくしは、地下の防爆壁が分厚い実験場へ案内された。
「今から、封印された魔神の召喚を行います。3人は所定の位置へ。皆様は防寒着をどうぞ」
もっさりとした歩き方で魔族3人が試験場の中心部、円が描かれた場所の周囲に立つ。
「デビット殿。彼らは皇帝へ反逆した者達ですよね。一体どうなっているのですか?」
レオニードは、青い顔をしてデビットに聞く。
「ええ、その通りです。レオニード殿。彼らには実験の一環で脳内へコントローラーを埋め込みました。魔力実験の良いサンプル、モルモットでしたね」
ヤニーナ・チェーホヴァ女男爵、フェドセイ・ゴズロフ男爵、ニコライ・グリャーエフ子爵の3人、眼線がうつろな彼ら、文字通りのモルモットになっている。
その様子を聞いて、更にレオニードは顔を青くした。
……悪党の末路とはいえ、哀れなのじゃ。しかし、彼らを贄にして何を呼ぶのじゃ? ワシは一切聞いておらぬぞ。
「デビット様。わたくし、今回の実験で何を行うのか一切聞いておりません。危険なモノを呼ばれるのなら準備が必要です!」
「あ! ごめんね、ソフィア君。キミには伝え忘れていたよ。今回召喚を行うのは、過去、地球人を魔族種へと変えた魔神なんだ。魔族の伝承に、かの存在の記述があって、例の吸血鬼は失敗例なんだそうだ」
……なんじゃと! 封印された魔神となると、母上と覇権を争って、最後には閉鎖宇宙へと追放された伯母上では無いかなのじゃ! それは危険なのじゃぁ!
「デビット様、それは危険です。デビット様が吸血鬼やバケモノにされてしまう危険性もありますし、暴れないという保障も無いです!」
「ソフィア君、キミは心配症なんだね。大丈夫、こちらには色々と準備しているからね。さあ、実験開始だ!」
「了解です。では、3人。呪文詠唱を!」
120度間隔で円周上に立つ魔族3人、何かの呪を唱えだした。
……中心にあるのは何なのじゃ? うん? あ! クラインの壷なのじゃ! そうか、あれを使って強制的に閉鎖空間へのゲートを繋ぐのじゃ!
3人から大量のマナが噴出すのが、ソフィアには見えた。
そのマナはクラインの壷へと吸い込まれ、徐々に試験場の気温が下がりだした。
そして紫電が試験場内に走る。
「なるほど、空間のエントロピーすら吸うから気温が下がるんだね。次はどうなる?」
デビット達や試験スタッフが居る魔法円は、冷気や紫電、マナの嵐を防ぎ輝く。
……魔法円の使い方が実に正しいのじゃ。彼ら、どこから調べたのじゃ? ワシ、怪しげな団体は全部叩き潰したのじゃが?
創作では魔法円の中に魔物を召喚する例が多いが、本来の魔法円は術者を守るバリアーの役目。
そういう西洋魔術の基本を知る誰かが今回の裏に存在するのかもしれない。
……薔薇十字騎士団やらテンプル騎士団、黄金の夜明け団の残党あたりは、こっぴどく絞めたのに、まだ悪党が残っておったのかや? どうして魔術師共は世界平和に力を貸さぬのか? このネクラ共が!
わたくしは、術者達にも母様達のような優しい人々が居るのを思った。
「はい、予定ではまもなくゲートが開くはずです。あ、開きました!」
円の中心に置かれたクラインの壷が割れ、漆黒の球が現れた。
「あれがゲートか?」
「はい、まもなく封印されている閉鎖空間と繋がるはずです」
魔力を吸われている3人は、膝を付き立って入られなくなっている。
しかし、なおも呪文の詠唱をやめない。
……哀れな贄なのじゃ。
「お! なんだあれは?」
デビットが叫んだ時、漆黒の球から靄のようなものが飛び出し、ヤニーナに絡みついた。
「ひぃぃ!」
ヤニーナは詠唱をやめて悲鳴を上げるも、すぐに声を出さなくなる。
霧が触手と化して彼女を締め付けているのだ。
そして彼女を漆黒の球へと引きずり込む。
「な、何が起こっているのですか?」
「どうやら、魔神は生贄、栄養を欲しがっている様です。彼女がそのエサになったようですね」
怯えるレオニード。
ヤニーナはすっぽりと漆黒の球に引き込まれた。
「ぎゃぁぁ!」
ヤニーナの悲鳴が試験場内で響く。
そして、漆黒の球は割れ、中から全長2mを越える半神半蛇の異形なモノが現れた。
「わらわを呼び出したのは、おぬしたちかや?」
異形な女性神は、異世界語を話した。
「はい、そうであります。異界の女神様」
デビットは恐れを一切感じさせない声で、女神に話しかけた。
「封印されていたわらわを開放してくれたのについては礼を申す。かれこれ数万年以上封印されておったからな。さて、何が望みじゃ? 何の用も無く、わらわを起こすはずもあるまいて?」
妖艶な女神、いや魔神は流暢に英語を話しだした。
……しまったのじゃ。本当に伯母上を呼び出してしもうたのじゃ。ワシ、逃げなきゃ殺されるのじゃぁ。
「ほう、その女。いや、今は良いか。さあ、わらわに望みをいうのじゃ!」
一瞬わたくしの方を見た魔神は、すぐに視線をデビットへと変えた。
……ワシの事なぞ、どうでも良いという事なのかや? 恐ろしいのじゃ。母上に匹敵する力なのじゃ!
「では、我々に『生命の実』、不老不死の力を授けてくださいませ。過去に彼らの先祖へと与えたように」
デビットは、近くでへたれしゃがみこんだレオニードを指差した。
「ふむ。美味しいところだけ盗んで、わらわを封印させた者達の末裔じゃな。同じ事をオマエ達がしないとも限らぬ。しばらくオマエ達と行動を共にさせてもらえぬか。現世、この星は面白そうなモノが多そうじゃ」
わたくしの方をもう一回見て、デビットへと「商談」する魔神。
……一切隙が無いのじゃ。ワシ、もう終わりなのじゃ。
「分かった。条件を飲むよ。これから僕と貴方はビジネスパートナーだ。宜しく頼むよ」
「面白い男だな。気に入ったぞ。さて、わらわは起きたばかりで空腹じゃ。ここの2人も喰ろうて良いか?」
「どうぞ、貴方様のお好きなように」
「では、頂くのだ!」
魔神は両手を伸ばし、召喚用の円周に居た2人の魔族を掴み、一瞬で引き込んだ。
そして大口を開けて、物理的に入らないはずの2人を悲鳴も上げさせず、一気に飲み込んだ。
「ふむ、不味いな。最初の女の方がまだマシだったぞ。まあ、当分はこれで問題あるまいて。さて、デビットとやら。わらわの事は女帝、エンプレスと呼ぶが良いのじゃ!」
わたくしは、実験を停められなかった事を後悔した。
よりにもよってデビットは、魔神女帝を味方につけたのだ。
今後の作戦の計画、いやそれどころかわたくし自身の安全すら危うくなってしまった。
「では、女帝様。こちらへどうぞ」
「うむ」
わたくしの前を二足歩行、普通の人間サイズへ身体を作り変え、魔法で作った豪華なドレスを身に纏う女帝が通る。
「ソフィアとやら、今後とも宜しくな。ああ、そなたの母にも宜しくと伝えるのじゃ」
わたくしは、恐怖でガタガタと身体を震わせた。
「こういう事じゃったのかや! ワシ、怖いのじゃぁぁ!」
ええ、チエちゃん。
この辺りの話はずっと前から伏線張ってましたよ。
「でも、これではリーヤ殿の奪還が不可能になったのじゃぁ!」
確かに難しいとは思いますけど、チエちゃんの事を誰にも話さないし、見逃してくれてますよ?
「伯母上の事は少しだけ聞いたのじゃが、残虐で気まぐれじゃったのじゃ。それと面白い事があれば、自分に不利でも遊ぶと言う事なのじゃ。どうやら、ワシの事を見抜いて面白くなると思ったのじゃぁ!」
なら、それを利用するしかないでしょ?
頑張ってね、チエちゃん。
「あー! ワシ、今まで作者殿を遊んだのを仕返しされたのじゃぁ! しょうがないから、やってやるのじゃぁ!」
では、明日の更新をお楽しみにね。
ブックマーク、評価待ってますね!




