第6話 悪意は、多次元世界をも馳せる!
「では、2人から『プロジェクト・ベシレート』の進行具合を聞こう。まずは、ソフィア君から、姫について」
夜のリコリス号、最上階ラウンジにデビットは、バトラー、ソフィアを従えて報告を受けている。
「はい、デビット様。リリーヤ姫ですが、現在は精神状況も以前よりは安定しています。ただ、時折は枕を濡らしている様です」
「そうか。で、レオニードは、まだ姫に対して強引に関係を迫っているのかい?」
「いえ、以前わたくしが、実力行使をして以降は大人しいものですわ」
「そうか、ふふふ。ソフィア君、君に姫の事を頼んで良かったよ。今後とも姫周辺の事を頼むよ」
「はい、お任せ下さい」
美人秘書ソフィアからの報告を受けて、機嫌良さそうなデビット。
「姫の行動如何では、プロジェクトの成功確率も随分と違うからね。しかし、最初はレオニードを動かす為のコマとしてしか価値を求めていなかったから、牢獄襲撃時に死んでも構わないつもりだったけれども、あの優秀さに多大な魔力量。是非とも我が物にしたいよ」
「流石にそれは、例えデビット様でもわたくしが認めませんですの。あの姫は、そう簡単には我々の言う事を聞かないですわ。ヘタに手を出せば、お構い無しに船ごと何もかも吹き飛ばされますわよ」
ソフィアは、恐々した顔でリーヤの「力」を話す。
「おお! 怖い、怖い。しかし、レオニードも哀れだな。地球人に寝取られたのだからな」
「女として言わせて頂ければ、惚れる相手は外見だけでは無いですもの。自分の一生を託しても構わないと思える相手に惚れますわ。あのタケシ君とやら。外見は坊やですが、バトラー様にも傷を付けるほどのツワモノ。妬みと怨念だけのレオニード様とは格が違いますの。彼には、今後も人質として以上に監視は必要と思います」
「ええ、私も彼には指を飛ばされた敵は討ちたいです」
「分かったよ、バトラー。ちゃんと君には今後チャンスを与えよう。今しばしは、待っておいてくれ。では、バトラー。そちらの報告を」
「はっ!」
変わってバトラーから報告がされる。
「まず、プロジェクト1『生命の実』。姫様とレオニード、そして実験対象の魔族種の方々のDNAデータにより、彼らは元々は地球人、スラブ系の者であったことが分かりました。名前がロシア語由来であったのも、その名残でした」
「そうですか。で、彼らを魔族種へと変貌させたのは、ナニですか?」
「はい。彼らが古より伝える伝承では、魔神と呼ばれる高位存在体により、彼らの力を授かったとあります。おそらく、その時点でDNAの書き換えにより今の姿と魔力を得たと思われます」
バトラーからの報告を興味深そうに聞くデビット。
うって変わってソフィアは、表情を一切変えない。
「では、今後とも魔族種の秘密の調査を続けてください。最終的には、その高位存在との接触も考慮に入れましょう」
「はい。高位体召喚には、ゲオルギネス財団の残した研究結果が役立つと思われます。次はプロジェクト2『アイアンゴーレム』。こちらは、金属魔術による冶金技術の高度化、及び既存ゴーレム等の解析から人工知能・オートバランサーの小型化が進行中。まもなく試験初号機がロールアップします。借り組みされた機体、零号機では、義体化兵との模擬戦でも勝利しています」
「うむ。魔法を使うバトルスーツや無人ロボット兵器が完成すれば、もはや我が社の製品が市場を圧倒するだろうね」
二足歩行兵器の問題として、2足に全重量が掛かる為、クローラ走行の戦車よりも移動問題が発生する。
フィクションでは重量軽減化技術などを駆使することで、戦車に対して市街戦では優位だとしている。
異世界の魔術には重量軽減化の他、魔剣製造ノウハウとしての冶金魔術、更に無人兵器としてのゴーレムもある。
それらを導入した新たなる兵器開発に、ケラブセオンは手を出したのだ。
「プロジェクト3『魔道義体化兵』。テストとして、実験対象を用いて第零号を作成しました。彼が欠損していた右手を義体化、その上でゲオルギネス財団で過去研究をしていました下級魔の憑依固定及び脳内インプラントを行いました」
「ほう、それはかなり盛り込んだ実験だね」
「はい。彼、トニーは自分の腕を吹き飛ばしたタケシに私同様強い恨みがあり、その情念の強化も成功しました。基本、義体化兵には脳内インプラントでの精神コントロールを行っていますが、そのおかげでトニーは我々が扱いやすい手駒になりました」
悪魔の所業とも言える人体実験を、なんでもない様に説明するバトラー。
「他の実験対象ですが、ヨシフはスルコフ公爵へお返しするので、失われた四肢の義体化のみの処置を段階的に実行中。他3名には脳内インプラントまでは行っています」
「では、3人については魔術関係の実験に参加してもらおう。ヨシフについてはリハビリ終了次第、レオニード経由で公爵へとお返ししよう。これで、公爵、皇帝代行への恩を売れるよ。今後とも新たなる兵士の強化を頼むね」
「はっ! 米国陸軍からも義体化兵が簡単に対処された事で、魔法と科学の併用について研究結果を早く渡せとの要求が来ています」
「そこは、当社のPMSCでの運用試験次第と答えておいてくれ。では、2人とも今後とも頼むぞ!」
「御意!」
一年前の事件を利用して邪魔者達を追い落とし、新社長へと成り上がったデビット。
彼の野望は、更に広がる。
「さあ、世界を我らが手の中に! ゆりかごから戦場まで。全ての人々の一生を我らの商品とするのです!」
芝居がかった様子のデビットであった。
「ワシ、デビットが怖いのじゃ! 彼の野望が何処までのものなのか、そして何が原動力なのか一切底が見えないのじゃ! 悪党共が自業自得で滅びるのは勝手じゃが、リーヤ殿は絶対に守るのじゃ!」
チエちゃん、こっちに態々来なくても大丈夫ですよ。
そんな余裕あったら、ちゃんとリーヤちゃん守ってあげてくださいな。
「大丈夫なのじゃ、こっちが分身体で、あっちが本体なのじゃ! せめて分身くらいは息抜きしたいのじゃ。他にも色々と動いておるのじゃからな!」
チエちゃん、頼みますから物語は壊さないでね。
「了解なのじゃ。しかし、デビットは封印された伯母上を呼びかねないのじゃ! 実に困ったのじゃ!」
それ、ネタバレじゃないですか?
「あ、しもうたのじゃ。では、後は作者殿に任せるのじゃ。ばいならー!」
では、明日の更新をお楽しみに。




