第4話 検査技師は、先輩の家に行く。
「ようこそ、我が家へ!」
「ようこそぉ!」
今日、僕はマサト先輩の御宅、高層マンションへお邪魔している。
マサト先輩の横には娘、チナツが居て、一緒に僕を歓迎してくれた。
「先輩、これ、どうぞです。チナツちゃん、お出迎えありがとう。来年小学校だって? しっかりしているよね」
僕はお土産に買って来たお菓子の詰め合わせを先輩に渡した。
「ちーちゃん、お姉ちゃんだもん!」
「あらあら、まだ皆にナイショでしょ? タケシ君、いらっしゃい。気を使わなくてもイイのに」
マサト先輩の妻、コトミも出迎えてくれた。
眼鏡美人、まだどこか学生っぽい雰囲気をも残す若奥様だ。
「こんばんわ、コトミさん。え、……という事は!」
「うん、今4ヶ月目かな。つわりも落ち着いて来たところなんだ」
「おめでとうございます!」
僕は3人に祝福をする。
「ありがとう、タケシ君。もうアタシ、アラサーなんだけど高齢出産にならなくて良かったわ。まあ、マユコさんみたいな例もあるけどね」
すっかり幸せそうなコトミを見て、落ち込んでいた僕も幸せな気分になった。
……確かマユコさんの次女のアンズちゃんって、ナナさんより14歳くらい歳下だったっけ?
「さあさあ、玄関口でいつまでも居ないで、中へどうぞ! 今日はすき焼きパーティだよ!」
「すきやーきー!!」
マサト先輩の声に続けてチナツが嬉しそうに叫ぶ。
「はい!」
僕は、すき焼きが準備されているであろうリビングへ案内された。
◆ ◇ ◆ ◇
「かんぱーい!」
僕は久しぶりに誰と楽しい夕食を食べる。
「ちーちゃん、お肉欲しいの!」
「はいはい、これをどうぞ! 貴方もこれね」
「コトミさん、ありがとう。タケシ君も遠慮しないで、どんどん食べてよ!」
「ありがとう、ありがとうございます……」
僕は温かい食卓に、思わず涙をこぼした。
僕が目指した、世界を温かい食卓で満たす夢。
それすらも、僕はすっかり忘れていた。
「おにーちゃん、痛いの? 痛いの痛いの、とんでけー!」
泣いている僕の手に、小さな手をかざしてくれるチナツ。
その優しさがとても暖かい。
「チナツちゃん、大丈夫だよ。すいません、先輩。せっかくの楽しい夕食に水を差しちゃって」
「いいよ、タケシ君。今日は無礼講。どんどん食べて嫌な事吐き出しちゃおうよ」
「そうよ、溜め込んでいても良い事は無いわよ!」
「はい!」
僕は、いつも以上に沢山食べた。
こんな食事はリーヤと分かれてから初めてだった。
◆ ◇ ◆ ◇
「まだぁ、ちーちゃん起きてるのぉ」
「ダメダメ。さっきからお船漕いでるよ。お兄ちゃんは、また来てくれるから、おやすみなさいしましょ?」
「うん! おにーちゃん、おやすみなさい!」
「チナツちゃん、おやすみなさい」
コトミに抱かれて子供部屋に行くチナツ。
すっかり僕に懐いてくれて、いろんな冒険話をさせられた。
「タケシ君、お疲れ様。小さな子のパワーすごいでしょ。僕もいつもアップアップだよ」
「いえいえ。リーヤさんと一緒だった時の事思い出して楽しかったです。というと、リーヤさんは子ども扱いしちゃダメなのじゃ! って怒りそうですが……」
マサト先輩は、僕にビール缶を差し出す。
「実は、今日はその事もあってタケシ君を招待したんだ。僕がチエちゃんと組んでいるのは、もう知っているよね」
「はい、リタ姫のアイテムとかイルミネーターシステムにも係っていると聞いてます」
僕はマサト先輩が一口ビールを呑んだのを見て、自分の缶を開けてビールを呑んだ。
……今日はビール苦いな。
「チエちゃん情報では、そろそろ動きがありそうなんだ。で、近日中にタケシ君はマユコさんの家に行って、作戦に参加して欲しいんだよ」
「え! もう、そこまで動いているんですか! あ、でも、そんな事、ここで話すのは危ないです。僕にはずっとケラブセオンの監視が付いてます。チナツちゃんまで危険に晒しちゃいますよ!」
マサト先輩は、チエが作戦、おそらくリーヤ奪還計画を実行している事を話すが、僕は周囲の監視がマサト先輩を巻き込むのを心配する。
「そこは大丈夫。このマンションはチエちゃんがオーナーだから、ちゃんと防音、そして防犯体制もしっかりしているんだ。現に彼らはマンションの玄関近くで待機中だね」
先輩は、タブレットを操作してマンション監視カメラの映像を写す。
そこには、どう見ても怪しい2人組がこちらをきょろきょろ見ている。
「誰の眼も無いと安心しているの、ダメだよね。でも、これで安心して話せるよね。元々僕達の関係は職場の先輩後輩。お互いの家に訪ねても不自然じゃないし」
どうやら、先輩もタダモノではなかったらしい。
チエやコウタ辺境伯の関係者は、魔法が使えなくても普通じゃない。
「貴方。ちーちゃん、寝かしつけてきたわ。あー、ビール良いなぁ。アタシ、しばらく呑めないのにぃ。タケシ君、無事にリーヤちゃんを奪還した後にアタシにビールオゴリなさい! その代わり、おねーさんは全力で協力するわ!!」
「はい!」
僕は温かい2人の夫婦の心遣いに、また涙した。
「あらあら。すっかり泣き虫になったのね、タケシ君。リーヤちゃんも泣き虫だったのに感染したのかしら」
「かもですね。ははは!」
僕は泣きながら笑った。
「マサト殿には今回も助けられたのじゃ。ワシはタケ殿の近くには居らぬから、タケ殿の心は守れていないのじゃ!」
チエちゃんはリーヤちゃんを守るので必死ですものね。
でも、ちゃんとマサト君も守るようにしているのは偉いです!
「ワシ、身内を守るのには手加減しないのじゃ! まあ、安めじゃがちゃんとした価格でマンションを売ったのじゃがな」
オーナーがチエちゃんなら、大安心ですよね。
「ワシ、頑張っておるのじゃ! 資金運用もお手の物なのじゃ!」
はいはい、チエちゃんは偉いです!
「では、次はコトミ殿による情報開示じゃ。ブックマークをして待っておるのじゃ!」
では、また明日!




