第3話 検査技師は、猫娘と再会する。
「タケシ君、本当に大丈夫かい? このところすっかり変だよ。事情は全部分かっている。正直僕では話を聞くくらいしか出来ないけど……」
「ありがとうございます、伊藤さん。僕もなんとかしないとは思っていますが……。あのポータムでの日々は夢だったんですかねぇ」
休憩時間、僕はマサト先輩に引っ張られて、科捜研にある休憩室へ連れて来られた。
マサト先輩はコウタ辺境伯の古くからの友人なので、僕の事情は全部分かっている。
「僕が言える事は、リーヤちゃんとタケシ君の事は夢じゃなかった、という事だよ。今、僕もコウに色々動いてもらっているんだ」
「え! マサト先輩、ソレ危ないです!」
「あ、やっと名前で呼んでくれたね。大丈夫、危ない事はリタちゃんの時から一杯係っているもの。科捜研の後輩で、コウの元部下の泣く姿は僕、見ていられないよ!」
僕が思わず顔を上げると、マサト先輩はまるで子供みたいな笑顔だった。
「あ、ありがとうございます……」
僕は、マサト先輩がおごってくれたコーヒーに涙をこぼしてしまう。
「まあまあ、泣かないでね。そうだ、フォルちゃんから連絡あったよ。今日、こっちに遊びにくるって言ってたけど、タケシ君会ってきなよ! 上には早引けしたって説明しておくね!」
僕はマサト先輩にお膳立てされて、あれよあれよと言う間に科捜研から追い出された。
「あ、タケお兄さん!!」
僕が科捜研の玄関を出たとき、そこには可憐な猫娘、フォルが居た。
「ふ、フォルちゃん!」
僕は路上にも係らずに思わずフォルに抱きつき、その肩で泣いた。
「もう、泣き虫おにーさんですねぇ。寂しかったですかぁ? わたしじゃリーヤお姉さんの代わりは出来ませんが、話くらいは聞きますよぉ?」
「ふ、フォルちゃーん」
僕は、僕よりも随分小さな猫耳美少女に抱きつき、周囲の視線を気にせず泣いた。
◆ ◇ ◆ ◇
科捜研の2階からマサトは、タケシがフォルに抱きついて泣いているのを見ていた。
もちろん、同じく見ている同僚達には事情を説明はしている。
タケシの評判を落とさない為に。
「タケシ君、随分と無理しすぎだよね。さて、僕も動きますか。コウやマユコさん、チエちゃん、一杯連絡しなきゃ。コトミさんにも頑張ってもらおうか!」
マサトは、楽しそうな顔をして情報端末を操作した。
◆ ◇ ◆ ◇
「ごめんね、フォルちゃん。往来のど真ん中で男が泣くなんて」
「いえいえ。全部、リーヤお姉さんを隠したアイツらが悪いんですぅ」
落ち着いた僕を連れてフォルは、近所の喫茶店に入った。
「あれ、フォルちゃん。リーヤさんが何処に居るのか知っているの?」
「ううん、ケラブセオン関係の場所に居るらしいって話しか知らないのぉ」
僕は、リーヤが消えた日からケラブセオンの関連施設を調べた。
日本国内には、そう沢山ケラブセオンの施設がある訳でも無く、貴族令嬢を長期間宿泊させられる施設は無い。
関係しそうな高級ホテルにも当ってみたが、それらしい情報は入らなかった。
「僕も調べたけど、リーヤさんの足取りは掴めないんだ。リーヤさんの姿を見れば必ずSNSとかで反応ありそうなのに、全然無いし」
「そうだよねぇ。わたしぃ、今でも写真撮られるの多いしぃ」
そう苦笑しながら言うフォルに、ひと言って撮影を頼む喫茶店の客。
お店の方からも御代は良いから、店主と一緒に写真に入ってくれと言われている。
「だから、僕はリーヤさんは、あの船、リコリス号にいるんじゃないかって思っているんだ」
「確かにぃ、あそこなら隔離しつつ、もてなせますよねぇ」
フォルが今も人気者なのを見ながら、僕はリーヤの事を思い出す。
「でも、一介の検査技師の僕では、何も出来ないのが苦しいんだ。今、リーヤさんがどんな思いであそこに閉じ込められているかって思ったら……」
「心配ですよねぇ。でもリーヤお姉さんが少し羨ましいかなぁ。こんなにも心配して、愛してもらえるのはオンナノコ冥利に尽きますぅ」
僕が苦しそうにしているのを見かねたのか、フォルは僕を茶化す。
「え?」
「大丈夫ですぅ。わたしも色々動いてますし、コウタお兄さんやチエお姉さんが何もしない訳ないでしょぉ。もう少し待ってあげてくださいね」
まだ中学生くらいにしか見えかねない童顔なフォル。
彼女は、僕の両手をそっと覆い、慈母の表情で待ってと言ってくれた。
「そうなんですか? 最近、チエさんと連絡取れないんだけどぉ」
「それはねぇ……」
フォルは僕の手をしっかり握る。
〝今、タケお兄さんには沢山の監視が付いてますぅ。コウタお兄さん関係のお兄さんを守る公安さん、政府筋の公安、そして敵ケラブセオンの……〟
真面目な顔のフォルから接触念話が飛んできて、僕はびっくりした。
……フォルちゃん、いつのまに念話なんて覚えたの?
〝わたしぃ、マユコお母さんのアパートに弟と一緒に下宿しているんですぅ。だから、皆から一杯教わってるのぉ〟
どうやら、捻くれて立ち止まっていたのは僕だけらしい。
周囲は、色々リーヤや僕の為に動いてくれていた。
〝どうもケラブセオンはお兄さんをリーヤお姉さんへの人質にしているっぽいのぉ。で、今も怪しいヒトが近くにいるよぉ〟
僕は思わず周囲を見たくなるが、理性で我慢した。
〝でも安心してね。今は主にルナお姉さんがお兄さんをしっかり警護しているのぉ。お国の公安もお兄さんが警察関係だから、一応は守るつもりっぽいけど、アテにしないほうが良いかもぉ〟
……確かに国家間の話だと、僕の存在は芥子粒だもんね。
〝ケラブセオンも日本を敵に回したくないから、今のところは監視だけで、交通事故で……って事は無い……とイイよねぇ〟
……フォルちゃんもすっごく勉強したんだね。交通事故で暗殺なんて常套手段だし。
「ということだから、タケお兄さんはしっかりするのぉ! 今はマサトお兄さんの言う事ちゃんと聞いてお仕事頑張ってねぇ!」
「うん、フォルちゃん。今日はありがとう。僕、頑張るよ!!」
僕は、再度誓う。
絶対、リーヤを取り戻すことを!
「フォル殿、すっかりお姉さんになったのじゃ! タケ殿とどっちが歳上か分からぬのじゃ!!」
まあ、チエちゃん。
タケ君を虐めないでくださいな。
一生懸命、リーヤちゃんの居場所を探して、手詰まりになっちゃったんですからね。
それに、タケ君にちゃんと連絡しないチエちゃんも悪いですよ?
「それには事情があるのじゃ。タケ殿に早く動かれるとタケ殿の安全が守れないのじゃ。もうすぐデビット達は大きく動くのじゃ。その隙を突いて大逆転をするのが、ワシの作戦なのじゃ!」
それでチエちゃんはリーヤちゃんの警護兼ねて潜入捜査している訳ですね。
「そういう事なのじゃ! タケ殿を放置しすぎるのも可哀想なのじゃ! そろそろタネ明かしするのじゃ!」
では、明日の更新をお楽しみに!!




