第31話 騎士爵は、死を覚悟する。そして舞い下りる美幼女!
「コブラ相手じゃ、どうしようもないよぉ」
僕は思わず愚痴る。
僕達の頭上に細長い戦闘ヘリ、AH-1コブラが迫る。
こちらに対空ミサイルが無い事、そして囚人を回収するUH-60ブラックホーク汎用ヘリを守る為に通常よりもかなり低空へと迫っている。
「タケ、あれかなり不味いの?」
「ええ、あれを生身で倒せるのは、僕達の中ではチエさんかリーヤさんくらいです。僕では大砲あっても難しいです」
「ワシ、特攻するのじゃ!」
焦る仲間達の中、チエは戦闘ヘリへと突っ込もうとする。
しかし、そんな事をする時間を与えず、ヘリの前面に搭載されているM197 20mmガトリング砲のターレットが動き、チエたちを狙う。
赤外線監視装置FLIRの前では、隠れていても無駄なのかもしれない。
「あ、シールドが優先なのじゃぁ!」
「わたくしも!」
チエとマムが魔力シールドを展開するも、その直後に20mm砲弾が毎分600発以上の速度で彼女達の上に振りそそいだ。
3秒間隔のバースト射撃で発生するブーンというガトリング砲の駆動音とシールドで砲弾が弾かれるバチバチ音が響き、チエ達の周囲は硝煙で覆われる。
「このままじゃ削り殺されちゃう!」
僕は、撃たれているチエの方へあえて近付き、居場所がばれるのも覚悟で、いちかばちか唯一の弱点、稼働中のガトリング砲基部を狙う。
……ガトリング砲とターレットの隙間を!
「いけぇ!」
僕は、徹甲弾を3連射した。
僕が撃った弾は狙った場所へと吸い込まれた。
ガキン、とガトリング砲から異音が発生し、砲撃が止まる。
「よし、上手くジャムった!」
比較的信頼性が高いM197といえど、弾詰まりは発生する。
回転している銃身とモーターの間に異物が詰まれば、故障もするだろう。
「あ! もうダメだぁ」
しかし、ヘリは落ち着いて背後へと下がりながら高度を上げ、今度は機首を下げて、僕達が居る監獄へ羽端に吊るされている武器を向ける。
円柱状の兵器、おそらく70mmハイドラロケット弾。
そして対戦車ミサイルのTOW。
あれらを撃たれたら、いかなチエでもシールドでは守りきれない。
僕も一緒に吹き飛んでしまう。
「くそう。ワシが分身する隙もないのじゃぁ! 万事休すなのじゃぁ」
そんな中、銃撃がやんだ中庭に着陸した汎用ヘリにサイボーグ兵に護衛された囚人達が搭乗し、飛び上がる。
……ああ、もうこれまでなのか。もう一度リーヤさんの顔を見たかったよぉ。
僕は死を覚悟して無駄だと思うも、戦闘ヘリのコクピットを狙撃銃で狙った。
「タケぇぇ!」
そんな時、蝙蝠の羽を持ち緑に輝く魔力光に包まれた幼女が、高速で戦闘ヘリへと飛びかかった。
◆ ◇ ◆ ◇
「うみゅぅ、心配じゃ。心配なのじゃぁ!」
わたくしは、先ほどから胸騒ぎが止まらない。
このままでは、もうタケと会えない気がしてならない。
……此方、じっとしていられないのじゃぁ。
「リーヤさん。心配なのは分かりますが、すこしはじっとしていてください。貴方のタケはそんなに弱くないですわ。サイボーグ兵士くらいは、さっきまでの様に倒しちゃうわ」
「そうでござるよ、安心するでござ……? キャロリン殿、この音はエンジン音ではないでござるか?」
キャロリンは、苦笑いでわたくしを寝ているように押さえつける。
そしてヴェイッコも安心させようとするも、途中で何かの音を聞いたらしい。
……此方では聞こえない……! いや聞こえるのじゃ!
「キャロリン、これはヘリのエンジン音では無いかや?」
「ええ、それもこれは二種類!?」
キャロリンが空を見上げる。
わたくしの眼にも太目のヘリと細長いヘリの二種類が監獄の上へと向かうのが見えた。
「え! あれはコブラ! 皆が危ないわ!!」
コブラ、わたくしは確か異世界自衛隊アニメでその名前を聞いた。
自衛隊でも使われている戦闘ヘリの名前だと。
「タケ、此方行くのじゃぁ!!」
わたくしは、腕に刺さっている点滴の針を力任せに抜き、野戦病院を飛び出した。
「リーヤぁ!」
「危ないでござるぅ!」
後ろからわたくしを呼ぶ声が聞こえたが、わたくしの頭の中にはタケの姿しか無い。
「タケぇ!」
わたくしは、羽を限定解除して空に飛び上がる。
すると戦闘ヘリは、ある場所をガトリング砲で撃っていた。
「た、タケは何処じゃ!? あ、あそこなのじゃ!」
急いでいるのか、タケの身は身隠しのマントから大半が出ていた。
そしてタケは、ヘリに撃たれている場所のすぐ横から戦闘ヘリへと射撃をした。
タケの射撃で砲撃は止まるも、戦闘ヘリは上昇後退をして距離を稼ぎ、機首を斜め下に向けた。
……あれは、ミサイルを撃つつもりなのじゃ!
「タケぇぇ!」
わたくしは、全身を魔力フィールドで包み、戦闘ヘリへ突撃した。
……今の此方の魔力量では、ハイパーモードも出来ぬ。接近して、アレをやるのじゃ!
わたくし最大の火力を誇る呪文。
それは「永久凍結地獄」同様、リタ姫から教えてもらったもの。
指先から出る桃色の魔力ビームで、すべてを貫き切り裂く必殺技。
それは、地球は英国に伝わる伝説の騎士王、彼もしくは彼女の持つ魔剣の名を持つ。
「いくのじゃぁぁ!」
ヘリのパイロットが、わたくしが機体へと接近するのに気が付く。
パイロットの視線がわたくしへと向き、高度を上げ逃げようとするも、もう遅い。
「タケを、虐めるなぁぁ!!」
わたくしは、突撃するようにヘリへと腕から体当たりをし、右拳から魔力を放出した
「『えくす・かりばー』!!」
大量の出血をした状態の体調から、魔力不足で放った桃色の光の剣。
それは、リタ姫のように地上を薙ぎ払ったりはしない。
ただ、眼の前のヘリをまっぷたつに切断するだけだ。
ガガガと異音を立てて機体の後部と前部が両断されたヘリが墜落していく。
そんな中、ふとっちょのヘリは急いで中庭から飛び上がり逃げる。
「逃がさないのじゃ! あ……」
わたくしは、逃げるヘリに追撃をしようと思ったが、眼の前が急に暗くなった。
◆ ◇ ◆ ◇
「タケを、虐めるなぁぁ!!」
僕がもう死を覚悟した瞬間、戦闘ヘリへと体当たりするリーヤを僕は見た。
「『えくす・かりばー』!!」
そして彼女は大きく呪文を吼え、その魔力は戦闘ヘリを一撃で両断した。
「り、リーヤさーん!」
僕はもう一度見たかった顔を、愛するリーヤの顔をはっきりと見た。
彼女は僕の為に傷身に無理をして、一人で戦闘ヘリを撃破したのだ。
「ああ、リーヤさん……」
僕は頬に涙が流れるのを感じた。
「あ! 危ない!」
しかし、リーヤは空中で急に姿勢を崩し、地面へと向かって落ちだした。
「リーヤさーん!!!」
その瞬間、再び僕の視界が白黒になった。
すべてがスローモーションに見える中、僕は全力で走り出す。
しかし、僕の眼にはリーヤが僕から遠い場所を落ちていき、地面へと激突するコースが見える。
……ま、間に合わない!
「ほい! ワシの目の前で悲劇は起こさせないのじゃ!」
チエの声が聞こえた。
全ての音すらもスローになって歪んでいるのに、チエの声は僕にはっきりと聞こえた。
ぽよん!
リーヤが落下していく先の空中に小さなトランポリンが現れる。
そしてリーヤは、それに弾かれて軌道を変えた。
そう、僕の元へと飛んでくる軌道へと。
「あ、よし!」
僕はリーヤの着地点へと到着し、脚を踏みしめる。
愛するリーヤをしっかりと受け止める為に。
「り、リーヤさん!」
僕の視界は色を戻す。
そして、僕が広げた手の中へとリーヤは飛び込んできた。
「あ、あいたぁ」
僕は、勢いを殺しきれずに尻餅を打った。
……ああ、この感触は間違いないよ!
僕の手の中には、小さくて可愛い幼女が居た。
そう、僕が最も愛するリーヤが。
「あ、あれ? 此方どうなったのじゃ? た、タケ、タケ、タケぇ!!」
意識を取り戻したリーヤは僕に抱かれているのに気が付き、僕にしっかりとしがみ付き、泣き始めた。
「リーヤさーん!!」
そして僕もリーヤを抱きしめて泣いた。
「ふぅ、とりあえずは助かったのじゃ。リーヤ殿には助けられたのじゃ!」
チエちゃん、お疲れ様でした。
しかし、ナイスアシストです!
「ワシがキャッチしても良かったのじゃが、ここは愛するもの達に任せるのが良いのじゃ。ワシ、エンターテイメンターなのじゃ! まあ、今回はHD撮影をする余裕がなかったのじゃが、ワシの記憶から映像を引き抜くのじゃ!」
あ、やっぱり記録は取るんですね。
「タケ殿とリーヤ殿の結婚式に上映するのじゃ! 後は2人にプレゼントして生まれるであろう子孫に2人の馴れ初めからを見せるのじゃ!」
悪趣味だけじゃないのが、チエちゃんの良いところですね。
「そうなのじゃ! ワシは幸せ以外は見とう無いのじゃ! さて、事件はこれで終わるまい? 囚人達にバトラーには逃げられたのじゃ。何か起こるのは間違いないのじゃ!」
ええ、そうですね。
ってなんでチエちゃんが老兵士がバトラーって知っているんですか?
「あ、しもうた! では、明日の更新を楽しみにするのじゃ!」




