第23話 エルフ美女は、敵拠点を強襲する!
「こちらCP、アルファ、ブラボー、チャーリー! どうした!? おい、連絡しろ!」
「一体どうなった? 状況を報告しろ!」
ケラブセオンPMSC、異世界派遣隊、隊長ヘイデン・スレイドは作戦オペレーターに叫ぶ。
「先ほどから各員からの連絡が途絶えました! アルファ、チャーリー分隊からの映像データは、全員何かによって固められてます。彼らのライフデータは死亡状態。ブラボー分隊からは生存反応はあるものの、うめき声しか通信機から聞こえません。映像データも地面を写すばかり。爆発音は遠くに聞こえますが、銃撃音も聞こえません」
オペレーターの前にあるモニターには、何かで固まった隊員、そして火災らしい灯りに照らされている地面しか映っていない。
「ほんの数十秒で何が起こったんだ!? まさか待ち伏せにあったのか!?」
「確認中ですが、カンパニー職員からも連絡ありません。映像を確認したところ、アルファ、チャーリー分隊及びカンパニー職員は建物内から発した蒼い光に呑まれて全滅、その直後ブラボー分隊は狙撃を受けて倒されたもよう」
ヘイデンは、オペレーターからの報告を受け、青い顔をする。
同じく、横に居て報告を受けたCIA工作員のアランも椅子から動けない。
「ヘイデン殿、どうする? もし待ち伏せにあったのなら、ここも安全では無いぞ?」
「そうです! ヘイデンさん。急いで逃げましょう!」
ヤナギハラも驚きを隠せない顔で、アランと同じく撤退をヘイデンに提言した。
「そうだな。一時撤退……」
ヘイデンが撤退を宣言すると同時に、爆発音と銃声が響いた。
「今度はナンだ!」
「正面玄関からエルフ女が突っ込んできましたぁ!!」
◆ ◇ ◆ ◇
「なんか煩いなぁ。今日はどうしたんだろう?」
ヒロは、事務所3階の部屋で眠れぬ夜を過ごしていた。
階下は、どたどたという足音と英語で話す声が0時前から響いていた。
そして、しばらくして静かになったと思ったら、また騒がしくなった。
周囲の声に耳を澄ましていると「バケモノが……」とか「逃げるぞ!」とかいう悲鳴に近い男たちの声が聞こえた。
「一体何があったんだろう? まさかモンスターでも現れたんだろうか」
ヒロは、もしもの事を考え移動しやすい服に着替える。
「PMSCの人が危ないなんて、まさかドラゴンとか?」
あまり危機感が無いヒロが冗談半分に呟いた瞬間、轟音がして建物が大きく揺れた。
「地震? いや、今のは爆発だぞ」
そして今度は銃撃音が始まる。
「うわぁ。こんなところで死にたくないよぉ!」
ヒロは、思わず頭を抱えてしゃがみ込んだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「さて、皆さま。抵抗は無駄ですわ! 武装解除して投降なさるなら、命の保障を致しますが、なお抵抗なさるのでしたら……」
美しいエルフ女戦士が細身の剣をブンと振るうと、衝撃波が発生して部屋の壁に大きな穴が開いた。
エルフ女の周囲にはアサルトライフルを構えた狼男、黒いボディスーツに身を包みショットガンを油断無く構えたドワーフ娘がいる。
そして後方には、古風な鎧に身を固めた騎士が身の丈と大差ないくらいの盾を装備して沢山並んでいた。
爆発後、銃撃戦が行われたのは数秒。
あっというまに戦闘が終わり、エルフ女を先頭にオペレーションルームに沢山の帝国騎士団が流れ込んできた。
「わ、分かった。まず話し合おう。我々は文明人なのだ。お嬢さん、何か我々に対して誤解なさってはいないですか?」
ヤナギハラは、脂汗を流しながらエルフ女にセールストークを始めた。
「何が誤解なのかしら、ウチの事務所襲っておいて? 先に武装解除しなさい! あと10秒以内に武器を手離さないのなら……」
「わ、分かった。全員武器を手放すんだ! ヘイデンさん、アレンさん、ここは一端言う事を聞くのです!」
「ああ、しょうがあるまい。各員武装解除!」
「私は外交官ですから、関係ないですよ」
ヘイデンは部下達に命令をするも、アレンは慌てず外交特権を持ち出す。
「さあ、それはお話し次第ですわ。カンパニーの小役人さん?」
しかし、エルフ女性、エレンウェ・ルーシエンは美貌をスゴイ笑みで満たした。
◆ ◇ ◆ ◇
「こちらCP、フォルですぅ。マム、事務所強襲に成功。全員逮捕に成功したそうですぅ。PMSCの戦闘員が数名怪我をした様ですが、命に別状はないとの事。マム大暴れの映像をどうぞ!」
僕達は監視塔から降り、騎士団の方々が怪我人を運んだり燃えた車輌の後片付けをしているのを見ている。
「うわ! マム、先手からいきなり剣圧衝撃波でドアふっ飛ばしですかぁ。そして一気に間合いに踏み込んで、死なないけどものすごく痛い突き技で歩哨を無力化。そのまま一気に雪崩れ込みとは、豪快っていうか無茶するっていうか。罠とかあったら死んじゃいますよぉ」
「そうなのじゃ! いかな空のヤサ強襲とはいえ、無茶するのじゃ!」
「センパイ。とにかく自分は真面目に仕事します。皆様の敵にならぬよう、ボリス様にもお話しておきますぅ」
イルミネーターに映し出された「マム大暴れ」は、奇襲としては大成功だったとは思う。
しかし、大胆すぎて僕には真似できない。
……歩哨の前にふらっと姿を現して、いきなり大技でドアごと歩哨をふっ飛ばすなんて怖すぎ。手加減しているから誰も死んでいないけどぉ。
マムの暴れっぷりは、先日見たマユコ大暴れを僕は連想した。
「そうだ、リーヤさん。凍り付けの人達、どうやって回収しましょうか?」
「なんじゃ、タケ。此方は、タケが回収方法まで考えておったと思ってたのじゃが? アレは、一気に解凍するしか方法を此方は知らぬのじゃ」
「えー、しまったぁ! 敵兵の回収方法を考えてなかったぁ!」
一気に解凍をすると暴れる敵兵もいかねない。
この後、僕は深夜で申し訳ないながらコウタ経由でリタ姫から呪文の上手い解呪方法を教えてもらった。
「タケ、案外バカなのじゃ。でも、そういうタケも、此方は大好きなのじゃ!」
「マムも怖いのじゃぁ。あの技は連弾衝撃波なのじゃ! 母様が教えたに決まっているのじゃぁ!」
チエちゃん、それホント?
まったく怖いお姉さん達だこと。
「しかし、アレンは外交特権を使うとはのぉ。どう聞いても偽名じゃが、どう対処するのじゃ? 」
そこはマムと陛下の腕の見せ所かと。
アメリカ本国とは喧嘩をしたくないけど、舐めてもらっても困りますからね。
なお、アラン・スミシーとはジョン・ドウ(名無しのゴンベ)と似ていて、架空の映画監督名として使われています。
「うむ、明日の更新が楽しみなのじゃ!」
では、明日正午に!




