第15話 騎士爵は、帝都に赴く。
皇帝陛下からのマムへの直電を受けた後、僕、リーヤ、マム、キャロリン、そしてヴェイッコはマム通勤用のポータルを通って帝都へ向かった。
なお、今回ヴェイッコが前回アンティオキーアでの事案から追加メンバーなのは、御遺体搬送用のストレッチャーを運んでもらっているからだ。
「皆様、急な招集お疲れ様です」
城内に入ると陛下の側近アレクと、もう1人待っていた。
「ルカさん、お久しぶりです」
「タケシさん、あの節はお世話になりました」
フォルの幼馴染にして陛下の密偵、キツネ系獣人と魔族種のハーフ、ルカがそこに居た。
「もしかして今回の犠牲者も『草』関係者なんですか?」
「タケ様、詳細は遺体安置所でお話します」
アレクは周囲をちらりと見た。
「すいません、軽率でした」
「タケ、時々バカになるのじゃ!」
リーヤに、肘でどんどんされる僕であった。
……もう少し警戒しなきゃだね。
僕は、数日前にヒロと話した事を思い出した。
◆ ◇ ◆ ◇
「タケ、異世界帝国で旅行する際の注意点何か無い?」
それは対戦中の音声チャットでの話だった。
「え、いきなり何! あっぶなーい!」
僕の重量級レーザー機体に、ヒロの操縦する青い大きな剣を振りかぶった機体がダッシュ攻撃で襲い来る。
斬撃をジャンプキャンセルで回避した僕は、硬直したヒロの機体にバズーカーを叩き込んだ。
「ひえぇ。タケは、相変わらず重量級とは思えない挙動だぁ!」
その後は、ノーロックレーザーをヒロの移動先に置いた僕の勝利だった。
「ふぅ。今度から大事な話は戦闘中以外にしてくれない、ヒロ?」
「ごめんごめん、言い出すタイミングが無くて。で、教えてはもらえる? 業務上の秘密じゃないよね」
「うん、そのくらいならお安い御用だよ」
ヒロの話によると、まもなく上司のヤナギハラと一緒に帝都まで行く事になったそうだ。
移動手段は、ケラブセオンPMSCの所有するハマー。
米軍の使っている高機動装甲ジープ「ハンヴィ」の民間向けモデルらしい。
……ウチの4WD車は国産だから小さいけど、さすが外資系は予算からして違うね。
「あれ、道中の道案内とかは?」
「そこは、PMSCの人が分かっているって言ってたよ。帝都での宿舎もPMSCが準備してくれてるし」
……ふむ。つまりケラブセオンPMSCは、帝都まで既に行っている訳だね。要注意情報ありがとね、ヒロ。
「僕も日本製の4WD車で帝都までは行った事あるけど、途中は川やら山やらあって大変だよ。宿場町を上手く利用しないと野宿の可能性もあるんだ。PMSCの人がいるなら山賊とか怖く無いだろうね。僕達はゴブリンに襲われたけど」
「え、本当にゴブリン居るんだぁ! で、どうやって倒したの?」
「うーん、守秘義務事案だけど簡単に言えば、どんどん撃って最後はドーンって感じ」
僕の話を喜ぶヒロ。
彼に全部話せないのが実に辛い。
普通でも公安の仕事は家族にも話せない、その上ヒロは敵になりかねない会社の社員。
特に上司のヤナギハラ、彼が僕には嫌な感じに思えた。
……まさかヒロを撃つなんて事はしたくないよぉ。
◆ ◇ ◆ ◇
「こちらが発見された遺体です」
城内地下倉庫の一室に僕達は案内された。
そこには既に皇帝陛下がおられ、布に包まれた遺体に対して黙祷をしていた。
「陛下、この度は……」
マムが陛下に貴族向け挨拶をしようとすると、
「エレンウェ、今は礼儀等どうでも良い。彼女の事を頼む」
そう言って不機嫌気味な陛下は、お供の方を連れて倉庫から出て行った。
……ん! 彼女だって?
「アレクさん。もしかして今回亡くなった方は、陛下もご存じの方なのですか?」
「ええ、市内の情報を扱ってくれていた女性です。グレータ・オリアーリ」
アレクが遺体を覆っていた布を取り払うと、そこには額に銃弾を受けた壮年女性が居た。
「あ、この人は!」
ヒト族の中年オバちゃん、陛下との時代劇ごっこの際に陛下と話していた女性。
彼女が、そこに永眠っていた。
「此方も覚えておるのじゃ。かわいそうになのじゃ」
「拙者も祈るでござるよ」
リーヤやヴェイッコも彼女に対して黙祷をした。
「彼女ですが、市内の路地裏にて遺体で発見されました。彼女が発見された路地から異国風の男性が数人出てきたという報告も受けています。なんでも花火のような音も聞いたと」
僕は、可哀想な女性の傷跡を見た。
「これは! キャロリンさん、接射されていますよね?」
「ええ、発射残渣と火傷の跡から間違いないです」
彼女の傷跡は裂けており、丸い円状の火傷の跡、そして周囲には黒いものが付着していた。
キャロリンが彼女の身体をざっと確認すると、複数個所の骨折に爪の欠損も見られた。
「おそらく暴行を受け路地に押し込まれた後、銃口を付きつけられて射殺されたのね。惨いことをするわ」
キャロリンが、ざっと殺害状況を説明する。
「分かりました。では、すいませんが彼女の事を宜しく御願い致します」
「はい、承りました。皆、彼女の敵討ちするわよ!」
「アイ、マム!」
僕は、女性を拷問をして非情に殺した犯人を許せない。
おそらく僕と同じ地球人である彼らを。
……ヒロと敵対する事になるのかなぁ。
「ワシ、グレータ殿を助けられなかったのじゃ。悔しいのじゃぁ!」
チエちゃん、お気持ちは嬉しいのですが、いかな魔神将でも無限に救える訳でもないでしょ?
優しいチエちゃんだから、気に病むのも分かりますが。
「今回はワシが助けられる可能性もあったのじゃ。次の機会には必ず全員助けるのじゃぁ!」
ありがとうね、チエちゃん。
作者としても殺したい訳じゃないですから。
「そこは分かっておるのじゃ! では、明日以降ワシはがんばるのじゃ!」
では、明日の更新をお楽しみに。




