第8話 新米捜査官は、事件に出会う!
「では、もう一度見合いの答えを聞きたい。リーリヤ、ボクと婚約してくれないか?」
イワンは、下品な顔でリーヤを嘗め回すように見ている。
今日は、再度のお見合い。
僕も前回同様、給仕の手伝い、使用人の格好をしてリーヤの後ろで待機している。
今回はザハールらのご好意で、何かあったときは暴れても良いとの確約を貰っている。
なので、錦の御旗になりそうなマムからの封書と拳銃を装備している。
……どうもザハール様は封書の中身知っているっぽいんだよね。何かあったら使っていいよって、封書見て言ってくれたし。
「前回は、ぼかして言いましたから通じませんでしたでしたのね。イワン様、わたくしは、まだ婚約をする気はございませんの。少なくとも貴方様との御縁は絶対にありませんわ」
リーヤは、普段どおりのドヤ顔で「アンタなんか、だいっ嫌い」という事を言った。
「え、今ナニを言ったんだい、リリーヤ。キミはボクと婚約するんだよね」
まだ理解していないイワンを前に、ため息をつくリーヤ。
「では、はっきり申しますわ」
リーヤは大きく息を吸って言う。
「イワン、此方は其方のような、愚鈍で間抜けで勤労の価値も分からぬ男とは、婚約も結婚もせぬのじゃ! もう其方のヒキガエルのような顔なぞ見とうも無いのじゃ! とっとと親元へ帰るのじゃ!!」
全力でイワンを拒否したリーヤ。
その様子に、僕だけでなく、その場に居たリーヤの関係者は皆、「よっしゃー!」という顔をしていた。
「な、なんでだよぉ! 今までボクの予言が外れた事なんて一度も無いんだぞ! 予言じゃあ、リリーヤ。キミはボクのお嫁さんになって沢山子供を生むんだ。これは絶対に決まっている未来なんだよぉ!」
イワンは半狂乱になり、幼子のように手足をじたばたさせて叫ぶ。
しかし、この言動は明らかに変だ。
先だっての時も、犯罪の臭いがする発言をしていた。
「今までも邪魔者は皆勝手に死んでいたし、欲しいものは全て手に入れてきたんだ。今までの妻も同じさ、欲しい女の子は全員妻になった。飽きたら何故か死んじゃったけどね」
……おい! これは自白に近いぞ。
本人に犯罪をしている自覚はないものの、不自然な事態が発生し過ぎている
この発言、今持っている多機能スマホで録音をしている。
証拠能力としては微妙だけれども、今後リーヤを守る為に使うべきだろう。
「まだ、バカいってるのかや? そこな無能なビヤ樽は。とっととここから立ち去るのじゃ! さもなくば、灰にしてくれようぞ!」
リーヤは立ち上がり、上げた右手に「火炎球」を生成した。
「ひ、ひぃぃ。そんなバカなぁ。ユーリ、これは夢なのか?」
「いえ、悲しいかな現実でございます」
イワンは後ろに立っていた老魔族に問いかける。
老魔族の目は冷たく、リーヤを凝視していた。
「大丈夫でございます、イワン様。まもなく、リリーヤ様もお立場を理解なされて、イワン様の妻となるかと思います。今日のところはお暇致しましょう。またの機会の際には必ず事情が変わっていますでしょうから」
そうユーリは言うと、ザハールの方へ向き話す。
「今日のところは帰らさせて頂きますが、必ず近日中にもう一度お伺い致します」
「あ、もう来られなくて結構。もうしばらく娘には縁談はさせませんから」
ザハールは、しっしという感じでユーリの提案を跳ね除けた。
「そうですか。では、御身お気をつけ致しますように」
そう、ニヤリとイヤな笑いをしたユーリは、まだ狂乱状態のイワンを連れて部屋から立ち去った。
「ふぅぅ。アレは一体どういうバカか? 親は一体どういう教育をしてきたんだ? ニコライ様には今度会った時に問い詰める必要があるな」
ザハールは、ため息をつき文句を言った。
「ええ、リーヤ。よく言ってやりました。あんな暗君、当家には必要ありません! ああ、タケ様が長命種であれば、即婚約を致しましたのにぃ」
……お母様! 頼みますから、そこで僕をダシに使わないで下さいな。
「うむ、此方もタケとなら考えないでもないのじゃ!」
……あれ、リーヤさん。この間と話が違いますよ。僕とは友人関係じゃなかったのですか?
「まあ、これでもうリーヤが困る話は終わりだ。茶も冷めてしまったな。新しいのを入れよう。タケ殿もこちらに座って頂けるかな?」
「はい、ザハール様」
僕は、皆から離れた場所に座ろうとしたら、リーヤの隣に座らされてしまった。
「うみゅ。タケや、よー其方の顔を見せるのじゃ。ヒキガエルを見て、気分を害したのじゃ。其方のへーぼんでのほほんとした『平らな族』の顔は、見ていて心が休まるのじゃ!」
……リーヤさん。それ、僕の顔を褒めていないよね、絶対。
そうこうしている内に、皆の前に新しく入れられた茶が並べられる。
まずは毒見としてザハールが飲むべく、お気に入りらしい柑橘の汁を茶に加えた。
……あれ、この茶の匂いって杏仁? こちらで杏茶は聞いた事無いよね。
そしてザハールの方から臭うアーモンド臭。
!!
「皆、飲んだらダメ!! ザハール様、早くカップを遠ざけて!!」
「何?」
僕は大声で叫んだ。
それを疑問に思ったザハールは茶の匂いを嗅ぐのをやめた。
「タケ殿、一体何を言っているのだ?」
「後から説明します。ザハール様、早くカップを遠くへ」
僕は椅子から飛び出してザハールの方へ走った。
「な、何が……。う!」
急にザハールは立ちくらみををしたのか、カップを取り落とし、その場に倒れた。
「リーヤさん、早く風の術でお父様の周囲を浄化して! 皆さん、茶を少しでも身体から遠くへ離して!」
「わ、分かったのじゃ!」
ザハールの周囲に風が舞う。
「リーヤさんとお母様は、ザハール様についていて下さい。僕は解毒の道具を持ってきます!」
「わ、分かったのじゃ!」
僕は宛がわれた自室へ道具を取りに走った。
……なんでシアンが茶に仕込まれていたんだ!?
事態は急展開、ここからはタケ君がリーヤちゃん達を救うべく大奮闘します。
では、これ以降も宜しくお願い致します。
応援、お頼み申します!




