第5話 騎士爵は、事件を推理する。
「では、捜査会議をします。キャロリンから解剖結果、タケから科学調査結果を御願いしますね」
捜査室の会議室に全員が集まり、捜査会議が開始される。
今回の案件は皇帝からの勅命、全員の気合の入り方も違う。
「では、アタクシから。ガイシャ、イザッコ・バッティさんですが、死因は肝臓等の損傷による出血性ショック。原因は、背中から受けた2発の銃弾によります」
正面スクリーンにガイシャのCT画像、及び撮影された傷跡が見える。
「銃の種類とかはタケに任せますが、体内重要臓器へ2発の銃撃を受けています銃創が致命傷です。河川から息がある状態で発見されたとは言いますが、治療呪文の助けがあったにしても異常なまでの生命力。陛下へなんとしても情報を届けたいと思った一念だったのでしょう」
キャロリンは端正な顔を曇らせた。
「続いて、僕から銃弾について報告を致します」
僕はキャロリンに変わって説明を始めた。
「イザッコさんの体内、盲管銃創から発見された2発の銃弾ですが、地球製のものでした」
銃創、医学的には射創というが、貫通したものと銃弾が体内に止まった盲管状態、かすった擦過射創などがある。
ユーリがリーヤを誘拐する際に昏睡呪文を防ぐ為、僕が自分を撃ったのは、擦過射創になるのだろう。
「弾丸は.45口径の拳銃弾、体内での変形具合からホローポイント弾と推定されます。弾に残った線条痕は現在日本の科捜研へ問い合わせていますが、今のところ該当する拳銃はありません」
先端に穴が開いたホローポイント弾は着弾後体内で花が咲くように変形をして、大ダメージを与える。
そして銃には弾を安定させて飛ばすために銃身に螺旋の刻み、ライフリングが掘り込まれていて、そこを弾が通る際に跡が刻まれる。
「此方、地球のドラマで勉強したのじゃ! 銃毎にライフリングが違うから、弾に刻まれる跡は銃毎に違うのじゃ!」
「はい、リーヤさんの言う通りです。過去、犯罪などで使用されていた銃であれば線条痕は登録されていますが、今回は該当する銃は見つからないと思います」
「それはどうしてなのじゃ?」
リーヤは、僕が銃は見つからないと言ったのを不思議に思う。
「今回の案件、おそらくPMSCか地球西側の情報機関、軍特殊部隊の仕業だとは僕は思います。なぜなら、.45口径の拳銃は西側特殊部隊が使うことが多く、亜音速弾なので消音器とも相性が良いんです。更に殺す気満々のホローポイント弾使ってますしね。日本のヤクザって線も完全否定はしませんが……」
軍で拳銃を使う事は、通常あまりない。
普通は将校クラスが護身用に9mm系拳銃を持つくらいで、戦闘員はアサルトライフル、最近では短めのカービンアサルトを使う。
拳銃を多用するのは、僕達みたいな刑事や潜入活動が多い特殊部隊、情報局員などか、ヤクザさん。
弾数がどうしても少なくなるが、消音器と相性が良く打撃力も強い.45口径は、米国を中心に愛用されている。
更に言うなら、軍用はフルメタルジャケット弾を使うはず。
……刑事でも、9mmとか.40SW弾で装弾数いっぱいの拳銃を使うのが、最近の主流だけどね。
「つまりタケは、今回の犯人は地球の組織関係者と思うのね」
「まあ、確定ではありませんが、拳銃の入手からして少なくとも地球の手が入っていると思います」
マムは僕に犯人像を聞くが、僕は想像の範囲での答えを出す。
「そして、これからが重要証拠です」
僕はパソコンを使ってメインスクリーンに映し出された映像を変えた。
「これは何でござるか?」
「アタイにはなんか、ガラス球みたいに見えるけど?」」
ヴェイッコとギーゼラは画面上にモノに首を傾げる。
「これですが、イザッコさんの胃の中から発見されました。詳細はキャロリンさんから御願いします」
「ええ、宜しくてよ、タケ。このガラス球、中空になっているのですが、ガイシャの胃の中から発見されました。おそらくは、死ぬ前に秘密、証拠を守る為に飲み込んで隠したものと思われます」
キャロリンは、モザイクだらけの映像でガイシャの胃からガラス球を摘出しているのを見せる。
「アレクさんからの情報では、『草』の方々は秘密保持の為に死の危険の前には、このガラス球になんらかの情報を入れて飲み込むそうです」
命がけで入手した情報を届ける為に、自らの身体を使う。
その強い意思に、僕達は報いる必要がある。
「ここからは僕が説明します。ガラス球ですが、直径1.5cm程度、中は中空で今回は羊皮紙の破片が入ってました。それがこれです」
僕はパソコンを操作して羊皮紙の拡大画像を表示する。
「何か暗号でござるか?」
「此方には分からないのじゃ!」
羊皮紙には、意味不明の記号らしきものが書かれている。
まったく読めないので、皆は訳が分からないという顔だ。
「僕もおそらく暗号だとは思いましたので、現品と映像をアレクさん宛で送っています。『草』で用いる暗号であれば、何か意味があるでしょう。調査結果は以上です」
「お疲れ様でした、キャロリン、タケ。後は、この情報及び御遺体を陛下宛で送って事件は一端の終了。此処から先は陛下の指示待ちね」
「はい」
何か釈然とはしないが、現状の情報では犯人は分からない上に、相手が地球の組織であれば、うかつには動けない。
こと米国辺りが敵になれば、帝国と密接な関係のある日本にも問題が発生する。
「此方、面白くないのじゃ」
「ええ、僕もそうですね」
リーヤの膨れっ面を見ながら、僕は今後の事を心配した。
……何が起こるんだろうか? 嫌な感じがするよ。
「ふむ、.45口径とはのぉ。アメリカンでは一番人気の銃弾らしいのぉ。規制で銃の装弾数が10発になっておった時期も.45口径なら元々10発以下じゃから売れておったし」
ストッピングパワーがどうのという話はありますが、流行からは離れてますね、チエちゃん。
といって9mmじゃ少しパワー不足、.40SWじゃパワー有り過ぎ。
.357sigは一向に売れず。
結局、9mmの弾数多目ってのが解決案になっているそうな。
まあ、拳銃って結局は護身用で、警察以外は戦闘用では無いですからね。
「そういえば、自衛隊の採用拳銃はSigからH&Kになったのじゃな。SigP220は重いし大きいし、9発しかないのじゃ。1970年代の銃じゃからしょうが無いのじゃがな。今度のH&K VP9 SFP9 Mは2014年の銃、ポリマーで15発も撃てるのじゃ!」
自衛隊は自動小銃も更新しましたし、やっと装備更新された感がありますね。
「では、明日の更新を楽しみにするのじゃ!」




