第3話 騎士爵は、古き友と再会する。
「とにかく、話は聞かせてもらいました。此処から先は、内部で相談した上で、陛下にお話しを通すかどうか決めさせて頂きます」
辺境伯、コウタはケラブセオン・エンタープライズの柳原に言い渡す。
「今日は長い会談お疲れ様でした。わたくし共は下がりますから菓子や茶など用意しておりますので、しばらく御休み下さいませ。あ、警備の方も別室でどうぞ」
ナナは柔らかい笑顔で、僕達に休んで良いと話す。
……もう安定期なんだろうけど、大きなお腹で大変ですね、ナナさん。
「石川さん、良かったら少しあちらでお話して良いでしょうか?」
僕はコウタ達が去った後、石川に話しかけた。
もし僕の記憶が正しいのなら、彼は親友ヒロのはずなのだから。
「はい、えっと守部さんでしたっけ? 柳原さん良いですか?」
「ああ、いいぞ」
僕はリーヤが睨むのを横目にして、石川を準備された別室へと連れて行った。
「どうして私を別室に呼んだのですか? 何か問題でもあったのですか?」
おどおどとした態度の石川。
……不安な時に、指を回すそのクセ。間違いないよ!
「石川さん、幼少期に四国に住まれていましたよね? というか、お名前はヒロシさんですよね?」
え? っという顔の石川。
「え、どうして? っていうか、まさかタケ? タケなのかい?!」
……やっぱり!
「うん、やっぱりヒロだ! 久しぶり! 13年ぶりくらいになるのかな?」
「そうだったんだぁ。僕も何処かで見た顔だって思っていたし、苗字も一緒だったから、まさかなんて思っていたんだ!」
僕達は手を握り、ぶんぶんと振り合った。
「タケや、どういう事なのか。此方に説明をしてくれないかや? 昔の知り合いの様じゃが」
そんな僕達の様子を茶を飲みながら、嫉妬したような顔を見せるリーヤ。
ヒロに気をつかって日本語で話す余裕くらいはあるみたいだが。
……リーヤさん、男性にまで焼餅を焼かないで下さいな。
「あ、リーヤさん。すいませんです。リーヤさんは母さんから聞いていますよね、僕がイジメっ子と戦った話。あの時僕が助けた子がヒロなんです!」
「あ、そういう事なのかや! ヒロ殿、此方はタケの婚約者なのじゃ! 今後ともよろしく、此方の事はリーヤちゃんと呼ぶのじゃ!」
僕が苦笑しながらヒロを紹介すると、リーヤはニパーっと笑顔になり、ヒロに日本語で自己紹介をし出した。
「え、こんな小さな子が婚約者? っていうか、タケは日本の科捜研勤務だったよね? いつのまに、異世界で働いているの??」
ヒロは困惑した顔をする。
……あ、科捜研に勤務したまではメールしてたけど、そこから先はヒロには連絡していなかったよ!
「最初から説明するね。実は『かくかくしかじか』で、……」
僕は科捜研に就職した後の事を、ヒロに説明した。
「そ、それは大変だったねぇ。リーヤさん。タケ、こいつは僕の大恩人なんですよ。今後ともタケの事を宜しく御願いします」
「任せておけなのじゃ! 此方がタケの事を一生守るのじゃ!」
頭を下げて僕の事を頼むヒロに対して、胸を手でどんと叩きドヤ顔のリーヤ。
実に微笑ましい眺めである。
「で、ヒロの方はどうなんだい? その歳で係長なんてすっごく出世しちゃっているよね」
「うん、結構大変だったけど英語検定やら異世界共通語の会話、実務法検定に営業士、いっぱい資格取ったんだ。お陰で女の子とは縁が無いけどね。そこはタケの方が羨ましいよ。こんな可愛い彼女が一緒なんだからね」
リーヤの方を向いて彼女を褒めるヒロ。
彼も僕同様、華奢で喧嘩なんてもってのほか。
インドア派だったので趣味もあってゲームを良く一緒に遊んだし、本や漫画も貸しあった仲だった。
「こ、此方恥ずかしいのじゃぁ」
僕は、赤面して羽をパタパタさせるリーヤを横目で見ながら、話を続ける。
「しかし、何の縁があるか分からないけど、ヒロが異世界帝国との交渉役だなんてね」
「うん、僕もびっくりだよ。あ、でも偶然とはいえ僕とタケの関係は、商談とは一切関係ないよ。というか、関係させちゃダメだよ。本当に大事な話なんだから」
生真面目なヒロは、自分から僕との関係を商談には使わないと言ってくれる。
「そうして貰えると助かるよ。僕も下っ端とはいえ一応皇帝陛下直属の保安官な帝国貴族だし、リーヤさんに到れば領主次女。この立場があるし、異界技術捜査室としての立場もあるんだ。まあ、お互いに損しないようにするくらいの手助けくらいならOKだけどね」
「タケの友なら、此方の友と同じ。此方も助けられる事は助けるのじゃ!」
僕は自分の立場を説明しつつも、出来る事は協力すると話す。
だって、親友が悲しむ姿はあまり見たくは無いのだから。
リーヤも一緒に助けようと話してくれるのは嬉しいことだ。
「ありがとう。その気持ちだけでも嬉しいよ。でも、職権乱用とか不正を疑われてもイイ事は無いから、お互い商売抜きでね」
「うん、こちらこそありがとう!」
それから、僕達はゆっくりと、これまでにお互いに今までにあった事を話し合った。
もちろん守秘義務のある事抜きで。
◆ ◇ ◆ ◇
「今回の話、十分検討の余地がありますので、良い話になる事もあるかと思います。また連絡を致しますので、お待ちくださいませ。では、お気をつけてお帰り下さい」
辺境伯夫婦に見送られて、僕が運転する自動車でケラブセオン・エンタープライズの2人はポータムを去る。
「守部さん、今回はありがとうございました。辺境伯様とお話しできただけでも十分収穫がありました。聞くところによるとウチの石川とは古い友人だったとか。今後とも宜しく御願い致します」
帰路の途中、ヒロの上司、柳原は下手に出て僕に話しかけてきた。
「自分としましては公私混同は出来ません。石川さんとは友人としての付き合いはさせて頂きますが、商売に関してはノータッチとさせて頂きます」
「わたくしも、隣領主の娘ですが、今回は警護役。父への話は、今回は考えさせて頂きますわ」
僕とリーヤは、柳原に対して一線を引いた態度を見せた。
柳原、その表情から裏が見えないのだが、僕のカンがビンビンと反応している。
……コイツ、油断ならないな。笑顔見せていても眼が笑っていないんだよ。ヒロなら信用するけどね。
それにヒロが危ないことに巻き込まれるのもイヤだ。
「そうですか。仕方がありません。確かに公務の方にご無理は申せないですね。石川、お前も気をつけた付き合いをするように」
「はい」
柳原の表情、特に決して笑わない眼が怖いと僕は思った。
◆ ◇ ◆ ◇
「タケ、ヒロ殿は危ないかもなのじゃ! あのヤナギハラとやらは実に信用ならぬのじゃ!」
ヒロ達を最寄り駅まで送った後、僕達はポータムへと帰る。
その途中、リーヤはボソリと話した。
「リーヤさんも、そう見ましたか。ええ、僕もそこは心配です。定期的にヒロとは連絡とって見ますね」
僕は何も起きないことを祈りながら、帰路を急いだ。
「何も起きないはずは無いわな。作者殿、ここから話はどう展開するのじゃ?」
チエちゃん、そんなの言えるはず無いでしょ?
もう少し待ってくださいね。
「しょうがないのじゃ。ワシは勝手に動くのじゃ。作者殿には迷惑掛けないのじゃ!」
本当ですか?
物語を破綻させないで下さいね。
「その辺りの加減は分かっておるのじゃ! では、皆の衆、ブックマーク等して待って居るのじゃ!!」




