第2話 騎士爵は、辺境伯のお手伝いをする。
「では、タケシ君、リーヤちゃん。宜しく頼むよ」
「はい、了解しました。閣下」
「はいなのじゃ!」
僕達は東京の岡本家に呼ばれて、辺境伯と会った。
因みに、移動はポータムから僕が良く運転している4WD車。
念のために日本の車検も通してナンバープレートも貰っている。
「タケシくん、その閣下っていうの辞めてくれない? 俺、確かに辺境伯爵の位持って領主なんてやっているけど、普通の日本人だよ?」
「えー、神殺しのコウタさんが普通なら、誰が普通なんですか?」
今日はチエもお留守なようなので、僕はコウタを少しからかった。
「そりゃそうだけど、くすぐったいんだよね。それにタケシ君も騎士爵だから爵位持ちだよね?」
「そうなのじゃ! タケは此方の婚約者なのじゃから、もっと偉そうにしても良いのじゃ!」
僕の横に座るリーヤは、僕の袖をひっぱる。
「僕のは、あくまで勲功としてですし、保安官としての身分でもありますから。あ、そういえば忘れていましたが、コウタさんが僕を保安官職に任命して下さったのでしたね。あの節は、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそザハール様を救ってくれてありがとう。あの時はザハール様と相談して決めたんだよ。リーヤちゃんが信頼する子なら大丈夫だろうという話だったんだけど、実際会ってみて正解だったと今も思うよ」
僕と寄り添うリーヤを見てウインクをするコウタ。
この度量と深みが英雄である事なのだろうと、僕は思った。
◆ ◇ ◆ ◇
「では、こちらの自動車にお乗り下さいませ」
今日、僕達は功刀モエシア辺境伯からの依頼仕事をしている。
ポータムへのお客2人を、東京から自動車にて送迎を行うのだ。
「うむ、宜しく頼む。そちらのお子さんは異世界人なのかい?」
「はい。わたくし、モエシアとは北隣になりますアンティオキーア領主次女のリリーヤ・ザハーロヴナ・ペトロフスカヤと申します。今回は皆様の通訳兼護衛として参っております」
僕にリーヤの事を聞いたのは、リーヤが日本語を解しないとでも思ったのだろうが、リーヤは貴族令嬢らしい笑顔をうかべ日本語で直接答えた。
「それは! 子供と言って申し訳ない、お嬢様。私はケラブセオン・エンタープライズ、アジア支社日本支店の柳原と言います。お父様にも宜しくお伝え御願い致します」
「いえいえ、このような身でありますので、誤解なさるのもしょうがありませんわ。お気になさらずに」
少し頭が薄くなった中年男、柳原はペコペコとリーヤに頭を下げた。
もうひとりの男性、おそらく僕と同い年くらいの青年は、妙に僕の顔を見ている。
……流石に、今日はリーヤさんも御貴族様モードだよね。まあ襲われる心配も殆ど無いけど、魔法探知に魔法戦闘が出来るリーヤさんと銃撃戦対応の僕が居れば、大抵の襲撃も対応できるし。
「では、出発します。短い間ですが、異世界帝国モエシア領ポータムへの旅をお楽しみ下さいませ」
僕達の今回の任務は、多国籍企業ケラブセオン・エンタープライズのメッセンジャーをポータムの辺境伯との会見へ送迎・護衛する事。
……コウタさんと会うのなら都内の岡本家で出来るけど、一応異世界帝国の領主様なんだから、向こうの領主館で会うのがいいだろうね。なまじ、日本人同士だからって舐められた事されても困るし。
異世界帝国の立場で取引をする以上、日本人同士だと甘い顔を見せるわけにもいかない。
だから、その線引きとして態々ポータムの領主館で会うことにしたのだろう。
◆ ◇ ◆ ◇
「功刀辺境伯様、本日は御時間を頂き、ありがとうございます。私はケラブセオン・エンタープライズ、アジア支社日本支店、営業部異世界担当課長の柳原と申します。こちらは部下、第二係長の石川と言います」
ポータムの領主館、応接間にて名刺交換の後、会談が始まる。
ポータム側にコウタ、ナナの夫妻に魔族種の事務官。
背後に警備役として、僕とリーヤの2人が立つ。
「今回、功刀様にお願いしたいのは当社と皇帝陛下との間を取り持っていただきたいのです。先だって帝国内の法が代わり、地球との取引は全部陛下を通すことになりました。ここは同じ地球人の閣下に御願い致したく参りました」
いかにもな営業スマイルを欠かさない柳原。
それとは違い、落ち着きがない石川。
相対称な2人、特に石川の顔を見て僕は過去彼に会っていたような気がしてきた。
……うーん、どこかで見た顔なんだよねぇ。いつ会ったんだろうか? ここ数年じゃないよね。もっと前、もしかして子供時代だったのかな?
僕は、警備業務を半分に記憶の海に潜っていった。
「そうですか。でも私は地球生まれで日本国籍持ちですが、今は帝国の貴族の1人、領民に責任のある立場のものです。簡単にほいほいと陛下へと話を通すわけには参りません。まずは、どういう利が帝国にあるのか説明を御願いします」
きっぱりと陛下への取次ぎを断るコウタ。
帝国が大損をするような取引をする気は無いと言い切る。
……かっこいいなぁ。僕がリーヤさんの補佐をする時は、こうやって帝国も守らなきゃならないんだ。
記憶の海から顔を出した僕は、言い返されて驚く柳原の顔を見た。
「で、では、以下の資料を見てください。石川、資料を出すんだ」
「は、はい!」
びっくりした様子で資料をカバンから出す石川。
そのおどおどした様子が、僕の記憶と結びついた。
……あ! もしかしてヒロ、広君なのか?! 確かに石川姓だったし!
「こちらをご覧下さい。当社は『ゆりかごから墓場まで。宇宙から捌くの戦場、そして全ての家庭まで』をコンセプトとしております。こちらには手付かずの資源、そして未知の生物が居ます。それを一部輸出して頂ければ、こちらからは科学技術やインフラの導入のお手伝いが出来ます」
柳原は一生懸命プレゼンをするが、コウタは硬い表情のまま。
ナナに到れば大きなお腹をなでつつ、柳原を睨む。
その視線に石川は、なおびくびくしている。
……ヒロ、中学校に入る前にご両親の仕事の都合で引っ越したんだよね。確か中京方面だったっけ?
ヒロ、彼は小学校時代の僕の親友、僕が助けた「イジメられっ子」。
リーヤにも話した事件の後、僕とヒロ、イジメっ子たちは悪友として良く一緒に遊んだ。
ヒロとは趣味もあって、良く対戦ゲームも遊んだ。
……ヒロは、軽装甲高機動型の操縦が上手かったよね。
しかし、案外早く別れは訪れた。
地元の巨大製紙会社社員だったヒロの父、関連会社の部長になるとかで、ヒロが中学へ入学する直前に家族全員で引越しをすることになった。
そして涙ながらの別れの際、お互い再会する時に立派になっている事を誓った。
その後もヒロとは定期的に年賀状やメールなどで定期的に連絡を取り合い、僕が最後に聞いたのは外資系会社に入社したとの事だった。
……まさか、こんな事で再会できるなんてね。後で、こっちから話そうかな?
僕は苦笑しつつ、ヒロの様子を見た。
「ほう、タケ殿の友人とな。タケ殿が軍師になるきっかけの事件の時のイジメられっ子なのじゃな」
ええ、彼のエピソードも意味があった訳です。
これからの彼の行動も注目してくださいませ。
「つまり『チェーホフの銃』、登場人物に意味はあるということじゃな?」
ええ、そういう事です。
「後付ではあるまいな? 何か怪しいのじゃ?」
そ、そこはご勘弁を。
創作のテクニックと納得くださいませ。
「実に怪しいのじゃ。まあ、後から辻褄が合えば問題ないのじゃ。そこいらは『デウスエクスマキナ』たるワシがなんとかするのじゃ!」
ということで、明日の更新をお楽しみに。




