第9話 リーヤ、犯人を逮捕に行く!
「これは、一体どーなっておるのじゃぁ!」
「拙者、怖いでござるぅ」
「アタイ、気分悪くなりそー!」
「キャロリンさん、お手柔らかに御願いしますのぉ」
わたくし達はキャロリンは運転する「自動車」という乗り物に乗っている。
「まだ全速力では無いですわ。いくら4WDとはいえ、石畳ですから」
キャロリンは皆の不平をあまり気にせず、前をじっと見ながら楽しそうに何か操作をしている。
ガタガタと揺れながら、自動車は馬車以上の速さで街中を一路貴族街へと進む。
時々、轢かれそうになる人を見つけては、キャロは何処からか音を出して警告をしている。
「これが『自動車』なのかや!」
「ええ、地球で使われています乗り物ですの。馬も無しに速く荷物や人を運べるわ。ギーゼラさん、窓を開けて外の空気を吸うと楽になるそうよ」
「あいい、マムぅ」
「拙者も窓開けるでござる。で、一体どーやって開けるでござるぅ!」
「はいはい、開けますからちゃんとシートベルト締めて外に落ちないようにしてね」
運転席にキャロリン、横の席にヴェイッコ、後にはマム、わたくし、ギーゼラが並んで座っている。
キャロは何か操作をして、全部の窓を開けた。
「もうすぐ到着するから頑張って!」
「あいぃぃ」
「此方、眼が廻るのじゃぁぁ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「マルッチェラさんは、どちらにいらっしゃいますか?」
「彼女でしたら、先ほどニルデさんと一緒に海岸にある倉庫の方へ行きましたわ」
マムは、店舗で業務再開準備をしていた従業員に話を聞いた。
「ニルデさんは、どういう方かしら?」
「従業員の中でも古株の女性です。今はこの店の店長をしていますわ」
……此方のカンがビンビンするのじゃ。ニルデが家督第二候補なのじゃ。人目が少ない海岸の倉庫とは危ないのじゃ!
「マム!」
「ええ、リーヤさん! 皆、今度は海岸の倉庫街へ走るわよ!」
「おー」
「またなのぉ。もーゆるしてぇ」
……ギーゼラ殿ほどでは無いのじゃが、此方もキツイのじゃぁ!
◆ ◇ ◆ ◇
「お嬢様、これが地球からの荷ですわ」
「ありがとう、ニルデさん。中身は開けないと分からないわよね。リストでは女性下着らしいけど」
倉庫の2階にマルッチェラとニルデが居る。
20歳そこそこで若さに溢れるスリムなマルッチェラ、方や更年期を向かえ太り体格が良いニルデ。
親子程の歳の差がある2人。
ニルデはずっと店の繁栄を願って20年以上働いてきた。
しかし、店主は自分では無く、娘に店を継がそうとしていた。
……こんな、服飾のイロハも知らない小娘に店は渡せないわ。
ニルデは、ある晩店主と言い争った。
「社会経験の薄いお嬢様ではいきなりお店を継ぐのは無理ですわ。まずわたしがお店を継ぎ、その後でならかまいませんが」
「だから、経験を積ませる為に地球人街に支店を開かせようと思っているんだよ。向こうなら治安も良いし、地球人のファッションを見るのは勉強になるはずだ。もうこの話は終わりだ。明日も早い、早くお帰り」
店主は、娘に支店を任せると言う。
今まで長く仕えてきたニルデでは無く。
「ば、バカにするなぁ!」
自分を否定されたと思ったニルデは、自分に背を向けた店主の頭を調度品で殴った。
そして、トドメに荷造り用のロープで首を絞めた。
ニルダは店主を殺害後、汚物や凶器を窓から放り出し、室内用の荷車に店主の遺体を載せて運んだ。
そして滑車を使って、倉庫に店主を吊るした。
後は、証拠になりそうなものを始末し、他の従業員にも自分が店主に会っていた事を口止めをした。
「どうしてまだ葬式にならないのさ。早く終わっちまえば、本店はわたし、支店は小娘。そしていつか、わたしが店を乗っ取れるのに……」
「あら、ニルデさん。何か言いましたか?」
「いえ、何も。お嬢様」
「なら、いいわ。では、そろそろお店に帰りますか?」
つい小声で愚痴を呟いてしまったニルデ。
彼女の前をマルッチェラが歩く。
そして階段に差し掛かったとき、ニルデの頭に闇が囁く。
……ここで背中を押せば、事故扱いで小娘を殺せる。そうすれば店はわたしのもの!
ニルデの手が階段を下りるマルッチェラの背中に伸びた時、
「ニルデ! 辞めるのじゃ!」
幼子の声が倉庫に響いた。
◆ ◇ ◆ ◇
「ニルデ! 辞めるのじゃ!」
わたくしは、自動車が止まると同時に飛び出して、倉庫のドアを魔法で吹き飛ばした。
そして、ニルダがマルッチェラを突き落とそうとしている場面に間に合った。
「え?!」
「何で今!?」
ニルデ、マルッチェラ共に驚き、動きが止まった。
「ニルデ、貴方にはアダーモ・フラーキ殺害の嫌疑が掛かっています。大人しくわたくし達に同行しなさい!」
わたくしに追いついたマムは、捜査室の警察手帳を見せて、ニルダを追い詰める。
「ニルデさん、これはどういう事なの!」
「それは……、こういう事です!!」
ニルデはマルッチェラを押さえ込み、隠し持っていたハサミを彼女の首に突きつけた。
「ど、どうして……」
「それは、わたしに店を継がせないアダーモが悪いのよぉ!! アンタら、一歩でも動いたらコイツを殺す!」
わたくし達は、動けなくなった。
◆ ◇ ◆ ◇
「この時は皆、魔法以外遠距離攻撃が無かったのじゃ! せめてヴェイッコが拳銃を持っておれば、簡単にカタが付いたのじゃ!」
「それはしょうが無いですよ。僕でも人質付きの犯人を撃つのは大変ですもの」
わたくしは、せっかくだからとタケの膝の上に座っている。
……此方、まだ小さいから抱いてはもらえぬが、逆にこういう事がしてもらえるのじゃ!
「そういう事もあるから、今日は訓練しているのよね。ブルーノーさん、撃つときは必ず敵を無力化すること、殺さなくても良いから反撃をさせないようにね。人質やわたくし達に害をさせてはならないですのよ!」
「はいです」
マムは、まだブルーノーをオモチャにしているらしい。
「リーヤさんも念のために練習しておいてね」
「分かったのじゃ!」
……此方、さいこーの気分なのじゃ!
わたくしは、頭をタケの胸にこすり付けた。
「リーヤ殿、今回はとことんタケ殿に甘えておるのじゃ」
周囲も、こういう甘え方なら認めていますからね。
流石にキスとかはダメですけど。
「恋する乙女なのじゃな。ということで、今日は2本立てなのじゃ! 番外編、バレンタイン話を読むのじゃ!」
では、この後バレンタイン話をお楽しみくださいませ!




