第7話 リーヤ、猫かぶりがばれる
「では、貴方が御遺体を発見されたのですか?」
「はい、朝になっても食事に顔を出さないので、不思議に思い探しましたところ、倉庫で……」
マム、そしてわたくしは被害者の娘マルッチェラに遺体発見時について聞き込みをしている。
話を聞く相手が女性という事もあって、マムとわたくしが担当になっている。
なお、ヴェイッコとギーゼラは、店の従業員達や近所の方々に聞き込んでいる。
「それは大変でしたわね。で、誰が御遺体を降ろしましたか? 貴方1人では無理ですわよね」
「ご近所の方々を呼んで縄を切って下ろしました。まだ助かると思って。でも、既に父は冷たく固くなっていました……」
「それは、悲しい事ですわ。お悔やみ申します。で、遺書はあったのでしょうか?」
「いえ、ありません。あの元気いっぱいの父が自殺を選ぶなんて絶対ありえませんわ」
マムは、柔らかい口調ながら事件について詳しく聞いている。
詳細に状況を聞きながら、どこか矛盾点や違和感が無いのか、詳しくメモをしている。
……すごいのじゃ! 此方では、こうもは聞けないのじゃ。
わたくしは、神妙な顔をしつつマムの聴取を勉強した。
◆ ◇ ◆ ◇
「では、捜査会議を致します。まずは、ショーネシー検死官から解剖結果を御願いします」
「はい、マム。では、正面スクリーンをご覧下さい」
それぞれ集めた情報を元に操作会議が行われている。
まずは、キャロリンからの遺体状況から。
「これは、なんじゃ?」
「アタイ、びっくり。地球のドラマみたい!」
「拙者も驚きでござる。ここでも地球と同じ事ができるのですな」
会議室正面にある板が、遺体の様子を表示した。
普通、こういう場合帝国内では手書き模写をする。
しかし、眼の前の板にはまるで肉眼で見たままの様子が映し出されている。
「これは地球科学を使いまして撮影をしました映像です。今後、こういうものを活用しますので、皆さん頑張って勉強してくださいね」
マムから補足説明がなされる。
「では、御遺体の様子ですが、頚部、首に縄が締まった跡、索条痕があります。しかし、観察するとその跡が二重になっていますし、紐を剥がそうと足掻き引っ掻いた跡、吉川線が見受けられます」
キャロリンが画面上に赤い点を使って説明をしてくれる。
「これは、どういう意味かしら?」
「はい、マム。普通自殺による縊死の場合、縄の後は一回分だけです。なぜなら、首が締まった後には死んでますから、やり直しはありませんよね。それに引っ掻いた時点で他殺ですわ」
…… 確かに死んでしまえば、締めなおす事はありえないのじゃ。それに足掻くのは自分から死を望んだ人ではあり得ないのじゃ。
「では、誰かが先に被害者を締め殺したという事なのかしら?」
「はい、リーヤさん。その通りですわ。お見事でございます」
わたくしが答えを言うとキャロリンは嬉しそうに答えた。
「遺体の眼には点状出血、また喉の奥の舌骨が骨折していましたから、絞殺、絞め殺されたのは確かです」
「では、犯人は先に絞め殺した後、遺体を吊るしたということね」
後にわたくしは、絞殺遺体の状況を医学的に勉強して知ったが、眼や喉に絞殺の証拠が残るらしい。
「はい。そうですわ、マム。他に頭部に外傷があり、頭蓋骨折と軽度ながら脳内出血がありました。おそらく何か鈍器で殴って、トドメに絞め殺したのが死因でしょう」
「で、糞便が遺体発見現場に残されていないという事は、殺害現場は遺体発見現場では無いのね」
キャロリンが遺体を調べることで、どんどん犯罪の様子が見えてくる。
……すごいのじゃ! 科学とやらの力を使えば、事件の様子が分かるのじゃ!
「ええ、マム。そこは、現場を確認すれば確実ですが、もう証拠は無いでしょうね。あと、胃の内容物、食べたものの消化具合から食事後2時間が死亡時刻とは思われます。こちらは、保存魔法の効果が分からないので、あくまで推定ですけど」
「朝には遺体が冷たかった事と夕食は娘さんと一緒だったという事から、そこはおおむね正しいと思うわ。では、夜の間に何者かにガイシャは襲われて絞殺され、死後倉庫で吊るされたのね」
どんどんと明らかになる事件、わたくしは感動をしている。
……此方、こんな世界があるとは知らなんだのじゃ! 科学、地球、恐るべしなのじゃ。敵に回ると怖いのじゃが、味方なら心強いのじゃ!
「では、今度は拙者達からの報告でござる。まず事件当夜のアリバイでござるが、娘殿、従業員、それぞれ第三者によるアリバイはないでござる。従業員同士は、お互いに一緒に居たとは話しているでござるが」
今度はヴェイッコから、聞き込み情報の報告が行われる。
アリバイ、事件時にガイシャを殺せない場所に居たかどうかの事。
どうやら、店の関係者にはアリバイが無いらしい。
「それと、事件当夜について近くの住民からは、いつもと変わった事は無かったとの事でござる。争うような音も聞かなかったと」
「つまり、内部犯行の可能性があるって事かしら? 従業員同士がお互いのアリバイを言うのが怪しいわね。争う前に後から後頭部をガツンかしら」
……お互いに庇いあっているのかや? 確かに怪しいのじゃ。
「マム、その可能性は高いと思います。あと、御遺体を調べましたところ、被害者の体重は約80kg、だいたいリーヤさん2人半分くらいの重さかしら。娘さん1人で絞め殺すのも、吊り上げるのも不可能ね」
「こ、此方のたいじゅーを、どうしてキャロリンが知っておるのじゃぁ!!」
「あら、ごめんなさいね。アタクシ、部隊の医療関係も兼ねているから、全員の身長体重くらいは把握してますわ」
キャロリンは、わたくしを遊ぶように試したのに、まんまとひっかかったわたくし。
貴族令嬢の立場を忘れて、地の言葉で叫んでしまった。
「リーヤさん、そろそろ無理しなくても良いですのよ。貴方の御話し方や性格、もう全員分かっていますから」
わたくしは、慣れた古語口調で皆に話してしまった事にマムの指摘で気が付いた。
……しまったのじゃ! 此方、バカにされるのじゃ。嫌われるのじゃ!
しかし、わたくしの予想に反してマムは、わたくしを温かい目で見る。
他の仲間達も、ニヤニヤしながらだけど、決してわたくしを馬鹿にした風ではない。
「わ、わたくし……」
「もー、リーヤっち。アタイらの前で賢ばる必要は無いんだよ!」
「そうでござる。拙者達は仲間でござる。リーヤ殿は、やりたいようにしたら良いでござる」
……どうして、どうして皆は此方に優しいのじゃ! 此方、御貴族で領主令嬢じゃぞ。ちゃんと丁寧な言葉使いせねば、バカにされる立場なのじゃぞ!!
「ごめんなさいね、リーヤさん。アタクシ、貴方を試すような事をして。貴方の事情はマム経由で聞いてますわ。お家で孤立化して大変だったのですね」
キャロリンは、わたくしに近付き、そっと頭を撫でてくれる。
「ここの皆、色んな事情があって種族の普通な仕事に就けずに困っていた子達ばかりなの。だから、リーヤさんの複雑な事情も他人事じゃないわ。まるで自分の事の様に理解してくれて、ずっとリーヤさんが心を開いてくれるのを全員で待っていたの」
マムは、わたくしをそっと抱きしめてくれる。
「こ、此方、怖かったのじゃ。こんな変な娘、バカにされると思っていたのじゃぁ!!」
わたくしは、大きな涙を溢した。
「リーヤ殿、とうとう化けの皮が破れたのじゃな。でも良い事なのじゃ。捜査室の面々はタケ殿も含めて良い子達なのじゃ。皆、悲しい事情があってもへこたれずに正しい道を進んでおる子達なのじゃ!」
ええ、作者から見ても、全員良い子ばかり。
チエちゃん含めて、自慢の「我が子」です。
「皆を代表してワシが礼を言うのじゃ。ワシら、作者殿がおらねば形にならなんだのじゃ。作者殿のおかげで世界に羽ばたいておるのじゃ!」
ちょっとくすぐったいですねぇ。
でも、だからと言ってチエちゃんは、他所で悪さしないでね。
「それはサンボン殿に言うのじゃ。ワシはサンボン殿の言う通りに仕事しただけなのじゃ!」
はいはいです。
では、明日の更新をお楽しみに。




