第4話 リーヤ、仲間と、どう接して良いのか分からない
「ドナートが亡くなった後、此方は成長を止めてしまったのじゃ。もう家の中では、此方を子供として扱ってくれる者は居なくなってしもうたのじゃ」
「確か20年くらい前の話ですよね。僕が幼稚園くらいの時、そんな事になっていたのですね」
わたくしは、タケと手を繋いで皆の中に加わった。
「リーヤちゃん、貴方とドナート様の事は、わたくしから皆に話しましたの」
「うむ、ちょうどタケともそのことを話しておったのじゃ!」
「ワシ、泣いたのじゃ!」
マムは慈母の表情で、わたくしとタケを迎え入れた。
他の皆も温かい表情だ。
しかし、1人の魔神は妙な事に泣き顔をしている。
「チエ殿、いつのまにここに来たのじゃ?」
「『舞台裏』でリーヤ殿の過去話を聞いて、悲しくなったので会いに来たのじゃ!」
相変わらず謎な会話をする魔神将チエ。
しかし、愛情深い彼女には多く助けられているのも確かだ。
「で、今度はいつタケ殿とキスするのじゃ? さっきのキスシーンは、もちろん撮影済みなのじゃ!」
しかし、泣き顔を急にニタニタ顔に変え、ハイビジョンカメラを持ち出すチエ。
前言撤回、この魔神はデバガメでもあったのだ。
「此方を付けねらうパパラッチは勘弁なのじゃ!」
「じゃって、最近は色々あってナナ殿には近づけないので、ワシ遊び相手が居らぬのじゃぁ」
妊娠しているのを公的にはまだ秘密にしている辺境伯婦人ナナ。
コウタとナナも、チエには昔からずいぶんと助けられ、可愛がられ、そして存分に弄ばれたと聞く。
「もう勘弁なのじゃぁ!」
わたくしの叫びが射撃場へ広がった。
◆ ◇ ◆ ◇
「リリーヤ様は、中央の魔術学校を2年程で早期ご卒業なさったと聞いていますの。古代魔法をお使いになられるのですか?」
「ええ、異端とされながら素晴らしい研究をなさっていた教授に教えていただき、数多くの術を覚えましたわ」
わたくしは、15年程前、中央帝都にある古代魔術研究学校へ入学した。
それはドナートが居なくなった実家が更に居づらいものになったのもある。
更にもう一つの悲しい別れもあった。
わたくしの魔力量は魔族種としても多い方で、その為に力技で多くの術を行使できた。
それは学校での学習にも役立った。
そして、学校内部でも異端と言われた教授に師事を受け、熱を扱う術の極意、地球の言葉で言うところの「エントロピー」を学んだ。
「では、わたくしも戦力としてリリーヤ様を扱わさせて頂いて宜しいのですか?」
「ええ、此方の力を使うのじゃ!」
「え、今ナニを言われたのですか!?」
「い、いえ。わ、わたくしの力で宜しければ、どうぞお使いくださいませ」
わたくしは、教授の事を思い出して、つい慣れた古語で話してしまった。
教授、専門は精霊術だったが、普通の古代魔法も使う人だった。
もう孫がいてもおかしくない程の高齢であったが、独身で独り身。
わたくしは、教授にまるで孫娘の様にずいぶんと可愛がってもらった。
この教授の話し方がドナートとまたよく似ていたのと、ある男の子との出会いと別れがあって、しっかり普段の会話口調が古語調になってしまったわたくしなのだ。
「では、こちらへどうぞ。事務室に全員では無いですが、捜査室のメンバーが居ます。残り2人は、まだ訓練中だったり、地球の学校在学中なのですが」
くすくすと、わたくしの顔を見て笑うエレンウェ。
どうも、わたくしの中を見透かされているようで、でもその視線はとても温かいので、どう反応してよいのか分からない。
……もしかしてエレンウェ様は、お父様からわたくしの、此方のことを全部聞いておるのかや?
「では、ご紹介しますの。こちらが捜査室のメンバーです」
わたくしの前に2人の女性、そして1人の男性が居た。
「始めまして、リリーヤ様。ワタクシは、地球はアメリカ合衆国出身の医師、キャロリン・ジョスリン・ショーネシーと申します。捜査室では検死・司法医担当ですの。この出会いに感謝致しますわ」
長身、茶色に近いブロンド髪、茶色の眼、ピンクがかった白い肌の地球人女性医師がわたくしに挨拶をした。
彼女、ポータムに住むヒト族とは顔形や肌の色がやや異なり、かなり美形に見えた。
後に彼女はアイルランド系移民の末裔だと、わたくしに教えてくれた。
「せ、拙者は北方、氷狼族出身のヴェイッコ・スシ・カルヒ、階級は巡査長でご、ござるぅ」
妙に緊張した長身の狼男、獣人族でも獣より、銀と白黒の毛皮に狼の顔を持つ、まだ若そうな男は、言葉につまりながら敬礼をわたくしにした。
……此方、いやわたくしは、種族で差別なぞという低俗な事はしませんわ。しかし、大半の貴族、魔族種は獣人族をケダモノ呼ばわりをします。それを心配しているのでしょうか? しかし、こ、いえ、わたくし程ではないですが、妙なナマリですこと。
「彼は、由緒正しい騎士・戦士の家系のものなの。ここに来たのは個人的事情があるのだけれども、優秀な子よ」
エレンウェは、にこやかに狼男を紹介する。
その様子に、彼女も獣人差別なぞしないと思えた。
「あ、アタイはライファイゼン出身、ドワーフ族のギーゼラ・マルレーネ・ギンスターって言います。階級は巡査。お嬢様におかれましては、お会いできて、こ、光栄でございますです」
わたくしよりも少し背が低い、しかし立派な体格で胸も大きく手足も太い。
褐色の健康そうな肌、こげ茶色の髪と眼の元気いっぱい若いドワーフ娘。
……確か、ライファイゼンは、ここに来る途中にあったドワーフ族の住む鉱山の町なのじゃ、いえ、なのでしたわ。この方、成人したかどうかの若さですわね。
彼女も、狼男同様かなり緊張してガチガチだ。
……おそらくお2人とも貴族階級の方とお話するのは初めてなのでしょう。不敬と思われないように頑張ったのでしょうね。まあ、此方は少々気にしないのじゃ! いえ、わたくしは何も気にしませんことよ。
「ギーゼラさんは、ドラーフ族にしては珍しい精霊術師なの。同じ女性として、また同じ術者として仲良くしてあげてくださいね」
「お、おねがいしますです!」
ペコリと頭を下げるギーゼラ。
「皆様、わたくしはアンティオキーア領主次女、リーリヤ・ザハーロヴナ・ペトロフスカヤと申します。春の女神の訪れる頃、皆さまにお会いできましたのを感謝致しますわ。といいましても、ここでは後輩、何一つ分からぬ身ではありますので、ご教授宜しく御願い致します」
わたくしは、貴族らしい笑顔で挨拶をした。
「ちょ、こ、こちらこそ、でござるぅ」
「お、おねがいします!」
狼男とドワーフ娘は、慌てて深くお辞儀をした。
「ええ、宜しく御願い致しますわ」
キャロリンは、そんな2人をくすりと笑って、華麗に礼を返してくれた。
……皆、良いヒトに見えますが、こんな異種族ばかりの場所で此方大丈夫なのかやぁ。いえ、大丈夫なのでしょうか?
わたしは、地をどうやって出さずに仲間達と付き合っていくのか、内心の焦りを見せずに笑みで返答をした。
◆ ◇ ◆ ◇
「もしかして、あの時キャロリンはマムに此方の事を……」
「ええ、聞いていましたわ。だから、おかしくて笑いそうなのを我慢していましたの」
「わたくしも、リーヤちゃんが頑張って猫を被っているの、笑わないようにするので、必死だったわ」
キャロとマムは、大笑いでわたくしをからかう。
「マム、なら拙者やギーゼラ殿にも教えてくだされ」
「うん! アタイ、御貴族様にどう話していいのか、困ったもん!」
ヴェイッコやギーゼラはマムに文句を言う。
「だって、もし聞いていた話が間違いだったら大変な事になるでしょ? 御貴族令嬢、お怒りでご乱心なんて、わたくしイヤだわ」
「なるほど、リーヤさん。随分無理していたんだねぇ」
マムは、なおも笑いながら、わたくしを見てからかう。
タケは大声で笑わないものの、にんまりとわたくしの顔を見る。
「ワシ、コロコロ表情が変わるリーヤ殿を見るのが面白いのじゃ!」
チエは、なおもニタニタ顔でわたくしを撮影する。
「じゃから、昔話は、とっても恥ずかしいのじゃぁ!!」
「なるほど、この時リーヤ殿が魔術学校で学んだ教授が、第3章の騎士団内密室殺人事件の犯人アンニア殿の師匠だったわけじゃな」
ええ、頑張ってリーヤちゃんの年表作って考えました。
しかし、こちらから物語の中、チエちゃん、大忙しですね。
「そこはワシの能力を使えば無敵なのじゃ。最近は『こよみ』殿の作者の脳内にもお邪魔しておるのじゃ!」
あまり他所様にご迷惑掛けないでね。
「ワシ、便利屋じゃから、どこでも出張するのじゃ! コラボ希望の方は作者殿に頼んでもらえれば、ワシ何処にでも参上するのじゃ!」
はあ、この子にも困ったモノです。
では、明日の更新をお楽しみに。




