第4話 集う戦士たち! 作戦会議
「ん!」
急に周囲が明るくなり、僕は眩しくて眼を覆った。
「ここは何処なのじゃ!」
「うっそー! おかーさん、あれってコロッセオだよね?」
リーヤやメイの声がある事から、全員同じ場所に転送されたのだろう。
僕の目前には巨大なローマ風な構造物が、どんと鎮座している。
……最後にチエさんが念話で言ってたのは、アレだよね。つまり、コロッセオそっくりの闘技場内で僕達が戦うという事か。あまり気乗りしないなぁ。
チエは、転送前に念話で優勝者の願いを何でもかなえると言っていた。
といっても、おそらく不老不死とか世界征服とかは出来ないだろうし、ここの面子でそういう下品な願いを言うものは誰も居まい。
精々、何か欲しい物をプレゼントして欲しいってくらいだろう。
こういう僕も、今欲しいものはあまり無い。
あるとすれば、リーヤの夫として相応しい力くらいだ。
「ほう、タケ殿の望みはリーヤ殿の夫として相応しい力とな。うみゅう? ワシが見た感じでは、タケ殿は、既にほぼ持っておるのじゃ! 後は、自信くらいなのじゃ!」
知らぬ間にチエは、僕の横に現れてアドバイスしてくれる。
「タケや、此方タケと幸せな家庭を築きたいのじゃ! それが願いなのじゃ!」
リーヤは僕を見え上げて、得意げに宣言する。
……なら、僕がすべき事は、リーヤさんの為に戦うことだ。
「はい、では僕はリーヤさんが戦う上で苦手な相手を全部倒します。そして、後はリーヤさんに任せます!」
「タケぇ!」
リーヤは、嬉しそうな顔で僕に抱きつきに来た。
……こうなったら、絶対に勝ちに行く! さあ、全員を見てリーヤさんの不得意そうな相手を探すぞ!
「あ、チエさん。確認しますけど、戦闘フィールド内では何やっても怪我もしないんですよね。じゃないと僕、狙撃も出来ません」
いくら、リーヤとの幸せの為とはいえ、仲間に銃弾は撃ち込み難い。
更に本来ではオーバーキルの25mm弾の使用も今回大丈夫らしい。
戦闘用メニュー画面を見ると僕の技は、接近戦:拳銃、中距離以降:狙撃銃、隠し:手榴弾、必殺技:狙撃グレネードとなっている。
「そこは安心なのじゃ! 武器はワシが作ったダミーじゃからな」
「ありがとうございます。では、早速作戦を練ります。リーヤさん、ちょっと作戦会議です。インチキくさいですが、僕達の望みは同じ。なので、共同作戦しましょ!」
「うんなのじゃ!」
マム辺りが、僕達の方を笑いながら見ている気がしているけど、気にしないでいこう。
周囲を見ると、コウタもナナも居ない。
どうやら先ほど話したようにお留守番のようだ。
……良かったぁ。いくら攻撃力が同じ扱いでも、あの2人には誰も絶対勝てないもの。もしかして、それで2人は除外したのかな?
「身重のナナ殿を巻き込むはずなかろうて。コウタ殿には母様の足止め時間稼ぎを頼んだのじゃ! ここまで大規模なイタズラは久しぶりなのじゃ。母様にバレる前に終わらせるのじゃ!」
ブルブル震え上がるチエ。
マユコに怒られるのが怖いのなら、最初からイタズラしなきゃいいのにとは思うが、それが出来ないのがイタズラ魔神なのだろう。
僕は、仲間達、そして可哀想な犠牲者(?)たちの特性を考えて作戦を練り、リーヤにこそっと耳打ちした。
◆ ◇ ◆ ◇
可哀想な被害者グループその1、メイ達は妙に嬉しそうだ。
話だと元の世界へ帰る目処がたったのと、最近運動不足とかで暴れたいらしい。
「おにーちゃん、これで優勝したら願いが適うっていうの! わたし、おにーちゃんとあまあましたいのぉ!」
「それ、俺に頼めば済む話じゃないか? まあ、俺は強い人と戦えるだけでも十分だけどな」
「らーら、ていこくたおして、へいわをとりもどすの!」
「あーちゃん、メイ、ラーラちゃん。今回はわたくし、勝負に出ますの! 邪魔したら貴方達も倒すわ! マユコさんの若さ、絶対何かヒミツあるの! 永遠の若さを得るのよ!!」
……あーあ、すっかり欲望に呑まれちゃっているよ。特にタカコさんは危険かもね。マユコさんの秘密ってあれ絶対特異体質でしょ? それ言うならマムとかリーヤさんの方が寿命長いと思うんだけど。
接近戦主体と思われる面子を見て、僕は作戦を練る。
そして、もう一組の犠牲者グループが到着した。
「あ! コウタくん、コヨミさん!」
「コヨミ殿なのじゃ!」
僕達の姿を見て近づいてきた犠牲者その2、一緒にハロウィンに戦ったコウタとコヨミに僕は挨拶した。
……そうか。辺境伯と名前被るのもあって、今回お休みだったんだ。
〝それはメタな理由じゃが、そのとーりなのじゃ!〟
魔神からの説明念話があるが、今回は気にしないでおこう。
〝タケ殿は、いつもイケズなのじゃぁ〟
うん、放置プレーだ。
〝ワシ、放置プレイも好みなのじゃ!〟
ああ、無視だ。
相手していたら話が進まない。
僕は幼女魔神将を放置して、コウタ達と話した。
「あはは……お久しぶりです……」
「こ、今回も大変だね……」
お互い苦笑しながら挨拶をする。
「相変わらず小っちゃいなあ」
「その台詞、コヨミ殿にそのまま返すのじゃ!」
そして毎度の様に恒例のお約束をしだすコヨミとリーヤ
イラスト:池原阿修羅さま
……まったく困った事だよね。
どうやらコウタも同じ意見の様で、僕の顔を見て肩をすくめた。
「ところで……今回の件、詳しく教えていただけますか……?」
「うん、そうだよね……」
コウタから状況の説明を頼まれたので、僕は分かる限りの説明をした。
いかな僕と戦う運命であるが、何も情報も無しに戦わされるのは別の意味で可哀想だから。
……チエさん、ちゃんと説明しておいてよぉ!
「『かくかくしかじか』という事なんだ。多分、有名なゲームだからコウタくんも知っているとは思うけど、あの色々なゲームのキャラが一堂に会して、バトルロイヤル形式で闘うあのゲームだよ……」
「え、ええ、それは知っていますが……それと今回とどう関係が?」
……まあ、理由なんて普通分からないよね。チエさんとは1年くらいの付き合いだけど、未だにその行動は理解の範疇を斜め上にぶっとぶしね。
「それが……チエさんがそのゲームに大層ハマっちゃって……せっかくだからと『みんなで大乱闘するのじゃ!』という号令の元、あれよあれよと色々やらかしちゃって……」
僕はゲームの設定を話す。
といっても、こう話せとチエに頼まれたから。
……面倒くさいけど、説明役頼まれたからしょうが無い。まあ、嘘じゃないしね。
〝タケ殿、助かるのじゃ。他所様の子達には、念話が通じにくいのじゃ〟
「他所」ってどこなんだろうとは思うけど、コウタ達に通じにくいのならしょうが無い。
そう僕は後ろめたく思いながら説明を続けた。
「ええと、チエさんがお正月の〝おふざけ〟で企画したことは分かりましたけど……武士さんもエレンウェさんも、珍しくそれを止めたりしなかったんですね?」
「っ!?」
コウタは実にクリティカルの質問をしてくる。
「……武士さん?」
いい辛いが話すしかない。
「……や、やっぱり気づいちゃったよね……実は今回のこのバトルロイヤル、優勝者には賞品として、チエさんが『どんな願いでも一つだけ叶えてくれる』んですよ」
「ええ!?」
驚くコウタ。
「それに僕達も突然連れてこられたから、停める暇も何も無かったんだよ。チエさんを止められるのって、義母さんのマユコさんくらいかな? 功刀さんでも無理だしね」
僕は、もうしょうがないと諦めている。
だからこそ、リーヤの勝利は絶対にしたい。
「ほ、本当に願いを叶えてくれるんですか!?」
「うん……君も知ってるだろ? チエさんのデウスエクスマキナという名の『ご都合主義』を。といっても限界はあるだろうけどね」
ああ、もうしょうがない。
あの悪魔に巻き込まれたら最後、オモチャにされるんだ。
「……そういう訳で、この闘い、僕とリーヤさんは本気で勝ちに行くつもりだよ」
だからこそ、僕は宣言をする。
リーヤを勝ち残らせる為に。
「「「その話、乗った!」」」
するとコウタの後ろにいたコヨミを含む3人の女性が叫ぶ。
コヨミ以外は僕は知らない人だが、あの雰囲気なら戦闘系の方々だろう。
「よっしゃ! せやったらこのウチが、全員倒して賞品ゲットや! ……そんで、白雪姫城を貸し切りにしてもろて二人っきりの結婚式を……(ボソッ)」
「んふふ……いっそのこと、上代くんをピンクから略奪してやるわ……(ヒソヒソ)」
「ふふ……上代くんと永遠の師弟関係となって、大学から私生活まで一緒に……(ポツリ)」
聞こえる限り、全員コウタが欲しいらしい。
もちろん用途は異なる様だが。
少し羨ましい様にも思うが、僕が今守るべきはリーヤのみ。
「だから、君達にはせっかく来てもらって悪いけど、勝たせてもらうよ?」
「は、はあ……」
僕の宣言に、あいまいな答えのコウタだった。
「作者殿、辻褄あわせすまんのぉ。ワシ、サンボン殿のところで頑張ったのじゃが」
別の意味で頑張りすぎですよ、チエちゃん。
まあ、タケくんが戦う理由ってリーヤちゃんの願いや幸せをかなえるくらいでしょ。
元々欲深くも無いし、今は幸せですし。
「そうじゃな。コウタ殿は、戦う理由があまり無い様じゃがな」
元々戦闘職でもないんですから、そこはしょうが無いでしょう。
では、18時更新の続きをお楽しみに。




