第3話 新春、リーヤが楽しむ日本のお正月 前編(岡本家後日談)
「タケ、早く来るのじゃ!」
「おにーちゃん、早くはやくぅ!」
「はいはい、ちょっと待ってよぉ」
僕達はお寺でのお接待後、実家に帰って急いで寝た。
そして6時間後、玄関に設置されているポータルを通って、東京にある岡本家へ瞬間移動をした。
リーヤと妹は、振袖を着られるのが嬉しいのか、睡眠不足でも元気いっぱいだ。
僕は、2人の着替えを沢山抱えて、ひぃひぃしている。
「お帰りなのじゃ!」
「ただいまなのじゃ!」
目の前では2人の魔神将チエがハイタッチをした後、1人に合体している。
「あらまぁ!」
「母さん、チエさんのする事は気にしたら負けですよ」
その様子をびっくりして見ている母。
因みに、勝負仕様の薄紫のレディーススーツをきちんと着こなしている。
……母さんって、僕を生むまでは、凄腕のOLだったって言ってたっけ?
「明けましておめでとう、皆さん。そうだな。俺も長年チエちゃんと付き合っているけど、未だに驚かせられるしね」
「あ、コウタさん。明けましておめでとうございます。今年も宜しく御願い致します」
玄関口で立っているコウタと僕は新年の挨拶をした後、母と妹を紹介した。
「で、コウタさん達はどうして寒い中、外に居るんですか?」
「女の子達が着付けするからって、マユ姉ぇ、いや義母さんに追い出されたのさ」
「しょうがないのじゃ。ワシの話を聞きつけて、お子様達が沢山来ておるのじゃ!」
◆ ◇ ◆ ◇
わたくしは、岡本家内に義妹と一緒に入った。
「これは、すごいのじゃ!」
そこはまるで戦場の様にも、花園の様にも見えた。
「うん、凄いよね。お義姉ーちゃん」
部屋の中では3人の下着姿な乙女達を前にマユコと彼女に似た老婆が、すさまじい速度で晴れ着を乙女達に纏わせている。
「あ、リーヤおねーちゃん!」
「リーヤちゃん、来たのね!」
「あけましておめでとうございます、リーヤ御姉様」
マユコの娘アンズ、そして濃い金髪の中学生少女アリサ、おかっぱ黒髪のカナミがそこに居た。
「リーヤちゃんと、カナちゃんだったっけ? 荷物置いたら、下着姿になってね」
「さあさあ、お嬢ちゃん達。脱いだ脱いだ!」
マユコに似た老婆が、わたくし達の背を押した。
「ワシも着付け、頼むのじゃ!」
そこにチエも乱入して、更に大変な室内になった。
◆ ◇ ◆ ◇
「そうなんですか。タケシが、そんな活躍をしていたなんて」
「多分新年明けて辞令が出れば、タケシくんも警部補。立派なものよ。まあ、キャリア組よりは遅いけどね」
母は、紫色の和服を着た美女、超常犯罪対策室 室長の遠藤あやめと話す。
ダンナのタクトは、コウタと寒いのか、火炎系の術を使って遊んでいる。
それを不思議そうに見ているアリサの父親、北条ススム、彼も何か術を使おうとしていた。
……こういう時、術者はちょっと羨ましいかも。
「まあ、ウチのダンナ達はガキですけどね」
アヤメは、いい大人3人が遊んでいるのをジト眼で見る。
「タケシくん、科学の方もすごいんだよね。ウチのダンナも褒めてたし」
こちらは薄桃色のスーツを纏った科学捜査研究所の先輩、伊藤マサトの奥様、コトミ。
足元には可愛いドレスを来た幼稚園児、チナツが居る。
「おかーさん、ちーちゃん寒いのぉ」
「ごめんね、ちーちゃん。すいません、わたしこの子連れて中に入ってきますわ」
コトミは、チナツを抱っこして母屋へ入っていった。
「ごめんね、タケシくん」
「いえ、先輩。小さな子には今日は寒いですよ」
僕は、それからしばらくマサト先輩と科学系の話を楽しんだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「そういえば、ナナ殿はどうしたのじゃ?」
わたくしは、着付けをしてもらいながら、この場には必ず居るはずで賑やかなナナがどこにも居ないのが不思議になってマユコに聞いた。
「あ、あの子はねぇ……」
「ええ、ちょっとね」
マユコ、そしてマユコの母ウタコは、恥ずかしいような嬉しいような複雑な表情をする。
「あ、もしかして! それで、最近ナナ殿はポータムに来られぬのじゃな」
ポータムのあるモエシア領主夫人たるナナ、一時期は毎週のようにポータムへと来ていたが、最近は顔を見せていない。
代わりに領主のコウタはポータムへと来ているが。
「そういう事なのじゃ、リーヤ殿」
「え、なになに? どういう事なの?」
同じく着付け中のチエもにやりと笑う。
義妹は、分からないようだけど。
「うん、ナナおねーちゃん、うふふなの!」
「えー、そうなんだぁ。嬉しいなぁ。わたし、お母さんの事あまり覚えていないから、気になるの!」
実妹のアンズも、母を早くに亡くしたアリサも、状況を察した様だ。
……アンズ殿、叔母さんになるのじゃな。
「わたし、おかーさんから聞いてたよ」
「アヤメ殿は相変わらず耳が早いのじゃ! さては、コトミ殿に聞いたのじゃな」
カナミはえっへんという顔をしており、それをチエは感心していた。
「そうなのかや、ナナ殿はお母さんになるのじゃな。おめでとうなのじゃ!」
「ありがとうね。でも、まだ内緒よ。今は妊娠初期で不安定な時期、つわりも重いのよ」
マユコは少し困り顔だ。
「まー、そこいらはこのバァちゃん、いやヒーバァちゃんに任せておけ!」
確か90近いはずのウタコ、ものすごい手際でアリサの着付けを完成させていた。
「じゃが、お2人ともすごいのじゃ。あまりに手際が良いので魔法みたいなのじゃ!」
「まー、2人とも加速系の術使っているから魔法なんだけどね。それに今年は高野山組とか、ナナの同級生組、四国組にコウちゃんの教え子組が居ない分楽だわ」
「ああ、リタちゃんも向こうだし、だいぶ楽だねぇ。一時期は、何人だったっけ?」
「お母さん、確か14人くらいだったはずです」
今回は、既に着付け済みのアヤメを含めて7人、その後マユコ自身も着物を着るので8人分、実に凄いと思う。
「さあ、リーヤちゃんも仕上げるわよ!」
「御願いするのじゃ!」
「作者殿、これはどういう訳なのじゃ? 終わってはおらぬぞ!」
すいません、チエちゃん。
着付けするのがマユ姉ぇさんなので、彼女の周囲を描いたら終わりませんでした。
「まあ、ナナ殿の御懐妊はめでたいから、勘弁するのじゃ! ワシ、伯母ちゃんになるのじゃ! 嬉しいのじゃ!」
おめでとうございます。
作者としても産み出したキャラ達が成長して子供を成していくのは嬉しいです。
「ということで、今日中に後半を書くのじゃ!」
はい、続きは急いで、今年中に致します。
では、夕方以降をお待ちくださいませ。




