第3話 異世界戦隊大暴れ!
「お、お前ら。一体なんなんだ! 何モノなんだぁ!」
驚愕の展開についてゆけない神崎と部下の怪人達。
今、僕達は怪人達を前にずらっと並んでいる。
「ワシらはのぉ!」
そして、戦隊の名乗り上げが開始される。
「あのぉ、本当にやらなくてはならないのかしら。わたくし、とても恥ずかしいんですけどぉ」
しかし、やっぱり恥ずかしいマムは躊躇してしまう。
「マム、ここは勢いでやるのじゃ! この間陛下と一緒に暴れん坊皇帝やったじゃろ。あのノリなのじゃ!」
「そうなのぉ、リーヤちゃん。分かったわ、チエさん、行きますわ!」
「おうなのじゃ!」
「異世界帝国異界技術捜査室、室長。ファンタジーエルフィン! エレンウエィ・ルーシエン!」
リーヤに後押しされたマムが剣を抜き、胸に掲げて騎士風に名乗り上げる。
そしてマムの背後が白い煙と共に爆発をする。
……これ、予め爆弾仕込んだのぉ?
僕は後ろをそっと見ると、遠くにシームルグ号が見える。
……なるほど、フォルちゃん。今回もノリノリなのね。
後方の指揮車から情報支援だけでなく、演出もコントロールしているらしい。
「同じく、捜査室警部補。ファンタジータイフーン! リリーヤ・ペトロフスカヤ!」
リーヤ、羽だけ限界開放をし、身を低くしながら右足を前にし、手を大きく広げた。
もちろん、すかさず爆発がリーヤの後で起こる。
「同じく、捜査室巡査長。ファンタジーウルフ! ヴェイッコ・カルヒ!」
ヴェイッコは、日本刀を居合い風に抜く。
爆発もタイミングよく起こる。
ちらりとコウタやコヨミの様子を見るに、ツッコミ入れたそうな雰囲気だ。
しかし、もはや手遅れ。
魔神将チエのたくらみに巻き込まれた我々に選択肢は無いのだ。
「同じく、捜査室巡査。ファンタジードワーフ! ギーゼラ・ギンスター!」
闇の精霊カンナを纏い、戦隊ブラックっぽいギーゼラは蹴りを交えたダンスを決め、爆発に上手く被る。
……次は僕の番かぁ。気合入れなきゃ!
「同じく、捜査室巡査。ファンタジースナイパー! 守部武士!」
僕は銃の遊底を動かし、前を狙う格好をする。
それにあわせて背後から爆音と熱風が僕を襲う。
……これ、カッコいいけど熱いし、はずかしー!
「次はコウタ殿じゃ!」
「え、僕も!」
「耕太くん……もはや諦めるしか、ないみたいやで?」
コヨミは諦め顔でコウタに頼む。
……ごめんね、チエさんの暴走がここまで酷いなんて僕も思わなかったから。
「ヴレイファイブ後方支援、そしてこのたびこよみさんと結婚した、上代耕太です!」
機動バイク、ヴレイビークル「モモ」に跨ったコウタが高らかにピンクの夫だと宣言する。
その姿はかっこよく、僕からすれば羨ましくも見えた。
いうまでもなく、「夫」宣言に被せてくる爆発。
「勇者戦隊ブレイファイブの一人、ヴレイピンク=ヴァルキュリアの上代こよみや!」
舞踊るように変身をして、巨大なランスの石突を地面にがちんとぶつける、コヨミ。
背後から誰よりも大きな爆発が起こる。
……そうか、結婚したので上代になったんだね、こよみさん。
「そして、異界の魔神にしてデウスエスマキナ! 魔神将 チエ!」
チエは、煙と共に長身で妖艶な魔神の姿に変身する。
その姿に、コウタやコヨミも眼を奪われる。
もちろん、神埼すらも。
なお、背後の爆発は、今まで違い黒色の爆炎が巻き起こる。
「われら!」
チエが掛け声をする。
……ここでハモらなきゃ、逆に恥ずかしいんだろうなぁ。
「「異世界戦隊 ファンタジーエイト!!!」」
8人の声が重なり、その瞬間背後に今までで最大の紅い爆炎が広がった。
なお、これは後から聞いたヨタ話だけれども、特撮で使う爆発。
白い煙のものは爆薬+セメント粉、赤い炎のものはガソリンの爆発だそうな。
「お、オマエラ、マジか! ようもワシの前で吼えたわ。せっかく名乗り上げを待ってやったんだ。生かしては返さんぞ! いけ、ヒト化獣よ!」
「ぐるぅぅ!」
神埼は半ば呆れたような顔をして、神埼の背後にいる怪人が吼える。
……お約束にお付き合いいただき、ありがとうです。昨今の敵って約束破りして名乗り上げなんてさせてくれないもんね。
「それってオークやコボルトと、どう違うの?」
つい、僕は突っ込む。
怪人と言いつつも、神埼の尖兵、豚顔やら犬顔。
どう見ても、こちらに住んでいる人類近縁種オークやコボルトそっくりなのだ。
……でもオークさんよりも知性低そう。
「なんだとぉ! 彼らはワシが丹精こめて豚や犬に人間の遺伝子を組み合わせたヒト化獣なのだ!」
「でもオークさんよりも賢そうに見えないし、よわそーなのじゃ!」
リーヤも思わず突っ込む。
「こ、こ、このぉ! 者共、早くいけー!」
神埼の命令で突っ込んでくる怪人。
「ほいな!」
僕は、一番前と次に向かってきた怪人の脛を撃ち抜いた。
「バカめ。ワシが作り上げた怪人が、たかがライフル弾で倒れるはずはない。DS細胞の再生能力は無敵……ん?」
無敵なはずの怪人は、撃たれた脚を抑えて暴れている。
「あのね、敵の正体が分かっているんですから対抗策を考えていて当たり前でしょ? DS細胞も所詮レトロウイルスによって書き換えを行ったもの。なれば別のレトロウイルスで書き換えれば……ね。それと対魔法能力なんてある筈ないですよね」
僕は、答えあわせをする。
他の怪人達もリーヤの雷撃呪文で悶絶をしている。
「誰だぁ。我等の悲願を邪魔するやつらはー!」
「さあ、皆さん。一気に殲滅しますわよ! 一応、手加減して出来るだけ殺さないように。後で地球送りにしますから」
「あいあい!」
マムの宣言で殲滅作戦が始まった。
「拙者、このところ楽しいでござるぅ」
ヴェイッコは、BGMに乗ってずんばらりんとザコを薙ぎ払う。
「アタイもこういうの楽しいね。 ハイ!」
ギーゼラの蹴りで犬怪人は宙に舞う。
「神埼だかなんだか知らへんけど! 行くで!」
コヨミはランスチャージを神埼に敢行するが、それをひょいと避ける。
「くそう。役に立たないヤツラめぇ。ヴレ――イピンク。オマエだけはなんとしても手に入れるぞ!」
妙に間延びをした呼び方でコヨミを呼ぶ神埼。
両手を顔の前でクロスして叫ぶ。
「変身!」
神埼の身体がボコボコとしだし、服が破れ、中から何か脚のようなものが飛び出す。
「これぞ、究極の怪人。ワレこそはカボウラスレーザーだぁ!」
神埼の全身は甲殻類の殻に覆われ、左手はシオマネキのように巨大なハサミ、そして右手には巨大な戦斧を持つ。
そして頭部にサソリの尾が付いていた。
「死ねい、ヴレ――イピンク!」
ランスチャージの後の硬直で動きが止まっているコヨミに斧を振り上げるカニ怪人。
「危ない!」
そこに「モモ」で神埼に体当たりをしかけるコウタ。
斧の軌道を逸らす事には成功するも、「モモ」ごと弾かれて吹き飛ぶ。
「ぐぅ。邪魔ものめぇ。この程度、ワシの甲羅の前には効かぬぞ!」
「オマエ……オマエエエエエエ! 耕太くんに何するんやあああああ!」
コヨミはランスを構えなおして、カニ怪人を狙う。
「ふん!」
しかし、ランスは神埼の左手、まるでシオマネキのような巨大なハサミの表面で滑らされてしまう。
「な、何やて!? ウチの“ブリューナク”が!?」
「その槍の事は研究済み、刺さらなければ効果もあるまい。ワシの体表面はシリコン樹脂を含んだ粘液で覆われておる。ヴレ――イピンクの槍先なぞ滑って刺さりはしないのだぁ!」
「ならば!」
僕は動きが止まったカニ怪人に狙撃をする。
「ザコに効いてもワシには効かんぞぉ!」
カニ怪人の言う通り、僕の撃った弾も滑って装甲を貫けない。
「さあ、死ねイ! ワシの死の光を受けるのだ」
カニ怪人の頭部にあるサソリの尾が赤く光る。
「危ないのじゃ!皆の衆、ワシの背後に来るのじゃ!」
チエの掛け声に急いで全員チエの背後に集まる。
「喰らえ、カニ光線!」
予備照射をした後、いっきに膨大な光量がカニ怪人から放たれた。
「ふぅぅ。ワシの全力のシールドで精一杯なのじゃぁ。リーヤ殿、マム殿。フォローありがとうなのじゃ」
「いえいえですわ」
「なのじゃ!」
閃光に眼をぱしぱししながら、僕達はチエが張った防御シールドによって助かった。
どうやらリーヤとマムがフォローしたおかげもあった様だ。
「ほう、ワシのビームを防ぐとはのぉ」
カニ怪人は、感心をした様だ。
「しかし、2発目を耐えられるかな?」
カニ怪人が再びチャージをし出す。
「危ないのじゃ、次にカニ光線、イブセマスジーを喰らうたら危ないのじゃ!」
「あれ、チエさん。蟹工船って井伏 鱒二さんじゃなくて、小林 多喜二さんの作品じゃなかったでしたっけ?」
僕は緊張の場面ながら、思わずチエに突っ込んでしまう。
「その突っ込みは20年以上遅れなのじゃぁ!」
……何が20年遅れなんだろう?
「危ないのぉ、みんなぁ!」
イルミネーター越しにフォルの声が聞こえる。
そしてシームルグ号の天井に設置されたRWSが火を噴き、カニ怪人に重機関銃やグレネードの雨が降り注ぐ。
「この程度、ワシに効くかぁ!」
カニ怪人のレーザー砲口がシームルグ号に向かう。
「リーヤさん、砂塵嵐でシームルグ号の前に壁を作って!」
「ほいや! ストーム!」
リーヤから放たれた暴風が採掘場の砂塵を巻き上げて壁となる。
「消えよ!」
カニ怪人から放たれたレーザーは砂塵に半分以上遮られ、また運転をしていたキャロリンの名ハンドルさばきでレーザーの直撃から逃れた。
「小生意気なガキ共がぁ。今度は全員殺す! 真なるカニ光線を喰らうがよい」
カニ怪人の両肩にレンズ状のものが現れて赤く光りだす。
「不味いのじゃ、今度はコバヤシタキジーなのじゃぁ!」
「だから蟹工船の作者は小林多喜二さんでしょ?」
「じゃから、ツッコミが古いのじゃぁ!」
僕の突っ込みに対しても、あまりボケが出来ないチエ。
どうやらかなり危険らしい。
「どうしよう、このままじゃ手詰まりだよね」
「あの妙なヌルヌルしたヤツのせいで、“ブリューナク”が刺さらへんし……」
「カニの関節を……いや、それすらも外殻と粘液で覆われていて……」
僕の愚痴に、コヨミとコウタは呟く。
……ん、粘液と甲殻の硬さで守っているって事は、逆にそれを奪えれば!
〝なんじゃ? タケ殿、秘策でも浮んだかや?〟
僕の内心まで覗きこんでくるチエ。
僕はチエに思いついた策を伝えた。
〝ふむ。やってみる価値はあるのじゃ。すくなくともコバヤシタキジーのチャージは邪魔できるのじゃ〟
それからチエは全員に策を伝えた。
「では、皆さん行くわよ!」
「おー!」
カニ怪人との最後の戦いが始まる。
「今回のネタ、律儀にタケ殿は突っ込んでくれたのじゃ!」
あれって20年くらい前のTRPG「セブン=フォートレス」のネタですよね。
カニ光線から蟹工船って連想しますが、更になぜか作者の小林多喜二さんじゃあなくて、井伏鱒二さんになるのは、今となっては謎ですけど。
「もう古いネタじゃが、分かる人には分かるのじゃ。それとカニレーザーとは仮面ライダーV3に出てくる怪人じゃな。コヨミ殿の名前を、妙に間延びして呼ぶのもカニレーザーことドクトルGネタじゃろ? 他にはリーヤ殿の名乗り上げポーズは、バルイーグルじゃな」
チエちゃん、補足説明ありがとうございます。
本来は、3話で終わる予定が盛り上がってしまい終わりませんでした。
では、続きをお楽しみに。
「最後は21時頃なのじゃ!」




