第2話 異世界戦隊誕生!
「そういう事だったのね。一応は理解したわ。でもね、他の皆に何も言わないで話し込んでいたら、サボっているのも同じよ。ちゃんと「ほうれんそう」は社会人ならしなさい。分かりましたか、タケ、リーヤ!」
「はい、申し訳ありませんでした」
「ごめんなのじゃぁ」
僕とリーヤは、マムに搾られている。
というのも、皆がハロウィン前日で大混雑状態の異世界門臨時税関・検閲所にて働いている中、観光客の2人と話し込んでいたから。
「そ、その! すいません! 僕達が武士さん達と話し込んでしまったせいで……」
「ウ、ウチもすんません……」
その2人、コウタとコヨミもマムに謝る。
「貴方方は別に謝らなくて良いんですよ。せっかくポータムへ観光に来られたのですから、十分楽しんでください」
マムは、慈母の表情でコウタ達に話す。
「本当にすいませんでした……そ、その、間違っていたら恐縮ですが、お姉さんはエルフ、ですよね?」
「あらぁ。お姉さんだなんて嬉しいわぁ。わたくし、これでも捜査室長ですし、子持ちですし、150歳越えているのにぃ」
ポータムではエルフ=高齢というイメージがあるので、マムがお姉さんなんて呼ばれる事はまず無い。
なので、言われ慣れていない事を聞いたマムは舞い上がってしまう。
マムは両手で頬を押さえながら嬉しそうに身体をくねくねさせていた。
「へー、このお姉さんも年齢不詳なんやなあ……」
「これで此方が100歳越えなのも理解したのかや?」
女の子2人は、どうやらまだガールズトーク中らしい。
「えっと、マム。そろそろ落ち着いてください」
「あら、ごめんなさい。若い子におねーさんだなんて、久しぶりに言われたので嬉しかったの。わたくし、エレンウェ・ルーシエンと申します。タケやリーヤと仲良くしてくれて、ありがとう」
やっと落ち着いたマム、コウタ達にちゃんと挨拶をする。
「か、上代耕太と申します」
コウタはマムに見惚れて顔を赤くする。
「こ・う・た・くん? 耕太くんは誰の夫、なんかなあ?」
コヨミ、マムに焼餅を焼いたのか、コウタの頭をガシっと掴み、自分の顔の方へ強引に向けた。
「あ、こ、こよみさん!? ち、違いますから!」
「コヨミ殿、許してやるのじゃ。男が美人に見惚れるのはしょうがないのじゃ! まあ、タケは此方以外に余所見はせぬがな」
……えーっと、それ許さないって言っているのと同じじゃないかな。
「まあまあ、そのくらいにしてあげてね。そうだ、タケ、リーヤ。貴方達、明日お2人を案内してあげなさい。これは、命令よ」
マムはコウタ達にウインクをして、僕らに予想外の命令をした。
「えー!!」
◆ ◇ ◆ ◇
「今日はすいません……なんだか、お二人にご無理をさせてしまって……」
「いえいえ、僕も前回お世話に成った借りを返したいですし、ポータムを存分に楽しんで欲しいですから」
「そうなのじゃ。せっかくこっちに来たのじゃから、此方が案内せずにどうするのじゃ!」
今日はハロウィン当日、ポータムの地球人街だけでなく市場のある下町、そして貴族街も地球人でいっぱいだ。
そのため、騎士団、ポータム警察に警視庁ポータム警察署からも多くの警備の人が動員されている。
今回、僕達がコウタ達を案内するのも、現地警備の一環。
更に別命もマムから仰せつかっている。
「ウチは耕太くんと一緒やったら、その……どこでも幸せやさかい……って、あ、あれはナンや!?」
「アレは、旅芸人のパフォーマンスじゃな。身のこなしの軽い獣人族がようやっておるのじゃ!」
市場の広場では、身軽な猫系の女性が軽業をしている。
それを自慢げにドヤ顔で説明するリーヤ、毎度その様子がおかしくて可愛い。
……なるほど、マムの読みは正解でしたね。
僕は周囲の気配に気が付き、リーヤの手を握り合図をした。
〝了解なのじゃ!〟
リーヤも接触念話で答えてくれる。
「あはは、タケシさんもさりげなくリーヤちゃんの手を握るなんて、なかなかどうして」
「ま、まあねぇ。そうだ、お2人とも案内したいところがあるんです。こちらへどうぞ」
「コヨミ殿もコウタ殿の手を握って一緒に来るのじゃ!」
赤面する2人を僕達は「予定」の場所へ連れていった。
◆ ◇ ◆ ◇
「おかしい、どんどん人気が無い方向へ行くぞ」
タケシ達4人の後ろから尾行していた貧相な男が首を捻る。
「ぐぅ?」
「いやな、あまりに襲うのに都合が良い話だからな。しかし、ワシにとっては好都合。これで『DS-V細胞』とやらを入手できれば、ワシは高田や反町を越え、真成る神として地球やこの異世界を牛耳れるのだぁ!」
男は後ろに待機している豚顔やネズミ、犬顔の獣人らしき者達の問いに答える。
「オマエらよ! 組織を追い出したヤツら、そして組織を倒したあの小娘に復讐するのだ!」
貧相な男、神埼はダークスフィアの研究員として反町や高田の下で基礎研究をしていた。
いかな万能な『DS細胞』とて、いきなり人体実験をする訳にもいかない。
その前段として動物実験を行っており、神埼はその責任者であった。
「人間に動物等の能力を付加するのではなく、動物に人間の知性や能力を付与した方が量産性が高いのを、高田は認めなかった。しかし、ワシはそれを高度に仕上げ、オマエらを造りあげたのだ。さあ、ワシらで愚かにも自滅をした高田を見返すのだ!」
「ぐぉぉ!」
神埼と配下の「怪人」達の目が妖しげに紅く光る。
◆ ◇ ◆ ◇
「さあ、そろそろ隠れる場所も無くなりますし、とっくの昔に尾行しているはバレています。出てきてはくれませんか?」
「性懲りもない悪者達なのじゃ! 早う顔を表すのじゃ!」
「もおおおお! 何やねん! せっかく耕太くんと新婚旅行を楽しんどるっちゅうのに、どこまでウチ達の邪魔をしたら気が済むねん!」
「ええと……僕も言い返したほうがいいのかなあ……」
僕達は、ポータム郊外の砕石場にいる。
それはおびき寄せた敵を、戦う上で何の心配も無い場所に追い込むためだった。
「なにぃ!」
驚愕の顔をして目深にフードを被った男が岩の陰から出てくる。
◆ ◇ ◆ ◇
「え、僕達尾行されているんですか?」
「ウチ、とっちめたるん!」
「ちょ、大声で話したらバレますから、お2人ともリーヤさんの手を握って下さいな」
僕は尾行しているヤツらにばれないようにリーヤさんからの接触念話で2人に説明をした。
「なるほど。で、ウチも戦ってもいいんやな?」
「え、コヨミさん。ヴレイウォッチはこちらに持ってきていないですよ」
「しもうたぁ!」
「まあ、そこは後から考えます。多分、ご都合主義大好きな魔神さんがなんとかしてくれますから」
「なんや? その魔神さんつーのは?」
「後からのお楽しみです」
と、まあ僕達は上手くルアーとしての役目をした訳だ。
◆ ◇ ◆ ◇
「どうして尾行がバレタのだぁ!」
「そんなの、大人数で動いたらバレますって」
僕は苦笑しながら、男を馬鹿にした。
「何! あ、そうだったぁ!」
フードを仰いで、後を見た貧相な男は、自分の後ろに整列していた「怪人」達を見た。
「し、しかし! この人数をお前たちはどう相手するのか? その小娘も変身アイテムも無いのでは戦えまいて! さあ、お前達はこの神埼の贄となり、新たなる神の素材となるのだ!」
神埼は吼える。
「待てぃ!」
幼女の声が高く採石場に響く。
「誰だ! 何処にいる!」
神埼は、急に沸いて来た声に驚く
「あー、今度はそう来たのじゃな。チエ殿、カッコいいのじゃ!」
リーヤは嬉しそうな顔をする。
どうも僕が知らないネタを使ったようだ。
「笑止! 世の中に悪が栄えた事はない。私利私欲で命を弄び悪を成す。人、それを『外道』と呼ぶ。ワシの目が黒い内は、平和は壊させないのじゃ!」
魔神将は、高台から太陽を背後にし、ギターとトランペットのBGMを背景に高らかに宣言をする。
「オマエは誰だ!」
「キサマ達に名乗る名前などない! あー、これ一度やってみたかったのじゃぁ!」
チエはトウとジャンプをして、僕達のところに着地する。
「今回、呼んでくれてありがとうなのじゃ。ご都合主義バンザイ! ワシ、なんでもやるのじゃ! どうせ今回は本編に関係ないのじゃ、やりたい放題なのじゃ! さあ、コヨミ殿、ヴレイウォッチなのじゃ。コウタ殿には『モモ』連れて来たのじゃ。タケ殿にも銃じゃ。ほれ、ついでに全員イルミネーターも付けるのじゃ」
ご都合主義の塊、魔神将チエは、慢心の笑みをして僕達に武器などを渡してくれた。
「こ……これは一体!?」
「……一体このお嬢ちゃんはナニモノなんや!? ヴレイウォッチは家に置いてきたんやで!? オマケにモモまで!?」
「まあ、チエさんの事は気にしたら負けですから」
僕はびっくり状態の2人を横目に苦笑しながら愛銃を受け取った
「拙者達もいるでござるよ!」
「アタイもね!」
「わたくしもですわ」
ヴェイッコ、ギーゼラ、マムも完全武装で登場した。
「では、打ち合わせ通りにやるのじゃ!」
「えー、わたくしもしなくてはならないのかしらぁ」
「もちろんなのじゃ、マム殿。リーヤ殿、タケ殿、コヨミ殿、コウタ殿、こうするのじゃ!」
僕達の脳裏に「お約束」が転送された。
……はずかしー。でも、この機会逃したら一生やることなんて無いよね。
「お、お前ら。一体なんなんだ! 一体何モノなんだぁ!」
驚愕の展開についてゆけない神崎と部下の怪人達。
「ワシらはのぉ!」
そして、戦隊の名乗り上げが開始された!
「ワシ、今回の出番楽しみだったのじゃ! せいっぱい遊ぶのじゃ!」
もうロム兄さん役なんてチエちゃん、美味しいところ奪うんだもん。
「じゃってこんな機会、生かさぬでどうするのじゃ。そういう作者殿もノリノリじゃろ!」
うん、そうですね。
とっても楽しく書いてます。
なんか、どんどん筆が進んで四話、1万五千字くらいになっちゃいましたからね
では、次の話をお楽しみくださいね。
「次は18時頃なのじゃ!」




