第35話 全て、世は事もなし。
「既に陛下には、ある程度説明していますが、そこでも疑問だった事について、ちょうどご本人がいますので聞けたらと思いますの」
少年皇帝を前にした報告会をマムが仕切り始める。
「まずは、今回の事件の発端は、保守派秘密結社が動いた事だな」
「ええ、陛下が動乱対応やら邪神退治にお忙しかったり、帝都を留守になさっている間に派手に動いたので、その証拠をレフ・ヴォリスキー様が事務処理中に見つけてしまい、それを陛下に報告しようとしたところ、不正の冤罪を擦り付けられた様です」
少年皇帝はうむと頷き、ルカも悲しそうな顔をする。
「そして更にヴラドレンによって違法金利な借金を押し付けられ、失意の中亡くなりました。ただ、急な死でもあったので、秘密結社が所有する暗殺団が関係していた可能性も否定は出来ません」
マムの説明にルカは驚く。
「そうなんですか?」
「ええ、普通簡単に魔族種は病死はしませんから。もちろん多大なストレスは命を削るので絶対ではないわ。今となっては確認のしようもないですし、そうでなくても暗殺団は全員死刑でしょうけれど」
ルカの疑問に、キャロリンが医療的立場から答える。
「そして、ここで事件が表ざたになってきたのが、怪盗の登場ですわ。さて、ここからはご本人から話していただくと助かります」
「はい。何でも答えますので、ご質問して下さい」
マムはルカに話す様促した。
「では、わたしから。ルカお兄さんは、最初から叔父様の復讐で怪盗になったの?」
フォルがルカに質問をする。
たぶん、自分が良く知る幼馴染が復讐に身を焦がすのが気になったからだろう。
「うん、最初はそうだったんだ。でも復讐ついでに盗んだお金とか宝物の扱いに困って、お金を寄付したり、宝物を元の持ち主へ返していく間に、悪事をしているヤツラを放置したら僕みたいな犠牲者が出るのに気が付いたんだ」
ルカは、ぽつぽつと話し出す。
「だから後半は、復讐よりも世直しのつもりでやっていて、叔父さんの事件に無関係だけれども、秘密結社がらみのヤツラの秘密を暴いたりしていたんだ。もちろん世の中を騒がせて、陛下共々多くの方に迷惑をかけちゃったのが悪かったよ。陛下、改めまして申し訳ありませんでした」
ルカは真摯に少年皇帝に頭を下げた。
「なるほど。後半になるほど劇場型になり、不正をしていた者たちを暴くようになったのは、そういう事なのか。まあ、もう過ぎた事だし、其方は余の部下となった。罪は社会に貢献する事で償うのだ。時々は余の『遊び』を手伝ってくれれば良い。また、『余の顔を見忘れたか?』とやってみたいぞ!」
少年皇帝は、ニコリと笑ってルカを許す。
「陛下、もうあのような『お遊び』はご勘弁を。御庭番衆に護衛騎士団、その他もろもろ大変でございましたから」
アレクは、陛下護衛組織の長として苦言を言う。
……僕も面白かったけど、もう一回と言われたら勘弁かな。準備大変だもの。
「あい、分かった。しょうがないのぉ。そうだ、タケにフォル。あの時に使った音楽を余にくれぬか? また個人的に聞くのだ。特にあのジャーンとか言う音から始まってタカタカいうのが余は好きだぞ」
「はい、今日帰るまでに陛下が聞ける形にして御渡しいたします。なるほど、それは僕も好きな大江戸の曲ですね。この曲50年ほど前のものですけど、いつ聞いてもいいですね」
どうやら陛下は、個人的に僕同様に大江戸なんたらの曲が気に入ったらしい。
「うむ、楽しみにして居るぞ。出来れば、その曲を使う時代劇とやらも見たいぞ」
「陛下、拙者のライブラリーにあるでござりますので、今晩にでもお見せするでござる」
さすが時代劇マニアのヴェイッコ、ちゃんと見ている。
「うむ、ヴェイッコよ。今晩は頼むぞ。通訳も頼むのだ」
ニコニコ顔の少年皇帝、今日はヴェイッコは寝かせてもらえないかもと僕は思った。
「では、続きをお話ししますの。ヴラドレンの事については、もう皆さんご存知でですね。彼は、秘密結社の金庫番として、または合法的に政敵を追い込むのに使われていました。そして、それをルカ君に見つかり、秘密結社からも逃げるように帝都からポータムへ逃げました」
その後もマムからヴラドレン関係の事件報告が行われる。
裏で暗殺団が暗躍し、僕達も襲われた。
「すいません、僕はひとつだけルカ君に聞きたい事があります。ルカ君が予告状として羊皮紙カードを使っていましたが、どうして字を書くのに通常の没食子インクじゃなくて日本製の万年筆インクで書いたのですか?」
「え、そこまで分かっていたんですか? タケ兄さんって凄いですね。ええ、僕はポータムの孤児院時代から地球の文化に触れていまして、字を覚えるのにも地球製の紙や筆記用具を使っていて、気に入ったんです。そして帝都に向かう際に記念品だと叔父は、僕に日本の万年筆とインクのセットをプレゼントしてくれたんです。だから、叔父の潔白を果たす為にも記念の万年筆で予告状を書いたんです」
そうやって聞いてみれば納得の理由だ。
「それが、宝石商殺人事件解決の切っ掛けになった訳で、叔父様がルカ君を守ってくれたんだと思いますよ。バカで保守な暗殺団では、旧来のインクを使う事しか頭になかったので、そこが差になって分かったんですからね」
「なるほど、それで早くから僕の事を殺人犯とは思わなかったのですね。叔父に感謝です」
ルカは大事そうに胸ポケットから万年筆を取り出し、大事そうに撫でた。
「愛用の道具っていいもんね、アタイもお父ちゃんが作ってくれた手斧愛用しているし」
ギーゼラは、ルカを微笑ましく見る。
「わたしも日本の文房具好きなの!」
「ワタクシは日本の竹製の万年筆を使ってますわ」
フォルにキャロも、当然の様に日本文具のファンだ。
「さて、後は襲撃してきた暗殺団を撃退・逮捕して、そこからは一気ね。暗殺団っていっても、大した事なかったですし、簡単に自白するんですもの。拍子抜けだわ」
マムは簡単に言うが普通、暗殺団員が自白なぞするはずもない。
自白するよりも自殺が優先のはず。
「えーっと、マムあえて聞きますが、どういう拷問なさったのですか?」
「それは企業ヒミツね。マユコさんに色々聞いてて良かったわ。医療関係者が武道やっているとすごいのね。ちゃんと死なずに済むんですもの」
……うん、もうこの件は聞かないでおこう。
「此方、こわいのじゃぁ」
「もしかして自分が敵対して、変なことしていたら……」
「ええ、ブルーノ。良かったわね、わたくし達の味方になって。そうそうボリス様への報告書を早く書いて見せてね。前見せてもらったのは、報告書になっていなかったわよ。誰に聞いてもいいから、ちゃんと事実を報告するように。間違った情報でボリス様が動いたら大変だわ」
「えー! 俺、どうなるのぉ!」
悲鳴を上げるボリス。
「ふむ、余もその報告書に興味がある。是非とも提出前に余にも見せよ。ボリスにも余が一筆書こう。お互い仲良くしたいからな」
「陛下ぁ! ご容赦をぉぉ!」
賑やかな報告会は、ボリスの悲鳴で終わろうとしていた。
「あ、タケちゃんも今回の事件の事纏めて報告書と論文書いてね。日本の科捜研同士の報告会が近いうちにあるって、マサトさんから聞いていますの。優秀な人材だから論文報告させてって頼まれていますのよ」
「え――! それ僕は初耳ですけどぉ!」
「それは今始めて話したからよ。タケちゃん、頑張ってね」
「うそぉぉぉ!!」
「タケ、此方手伝えないのかや? なれば近くでタケを応援しつつ慰めるのじゃ!」
「ごめん、リーヤさん。それ、僕リーヤさんが気になって何も出来なくなるパターンなの。あ――どうしよう!!」
せっかくイジリ対象が僕から遠ざかったと思ったのが甘かったと、僕は思った。
とっぴんぱらりのぷー!!
「今回もタケ殿の悲鳴で終わったのじゃな。まあ悲しい悲鳴じゃないのは幸いなのじゃ! ワシもタケ殿の論文読みたいのじゃ!」
仕事関係で書く論文ってネタ探し大変なんですよね。
作者も若い頃に水道水質関係で数本書きましたけど、今は通常業務多くて論文読む時間すら確保がやっとです。
「とにかく精進あるのみなのじゃ!」
はい、頑張りますね、チエちゃん。
さて、これにて第七章は御終い。
次回第八章は、しばらく執筆休養を頂いて再開したいと思います。
新作も執筆中で、そちらを一章書いたら、続き書きます。
新作は女子中学生主人公のラブコメローファンタジー、12月より公開します。
ちなみに今作の第八章は、リーヤちゃん視点主役の過去話です。
予定では第九章が、最終章になります。
なお、明日「こよみ」さんとのコラボ全4話を12時より順次公開しますよ。
では、お楽しみに。




