第32話 新米騎士爵は、時代劇音楽に感動しながら戦う!
「暗殺団を統べるボクに勝てるとでもお思いかい、エルフのお嬢さん」
時代劇のチャンバラ音楽をBGMに、今だ戦闘は続く。
暗殺団を管理していたフェドセイ・ゴズロフ男爵、その軽薄な顔に下品な笑みを浮かべてマムに迫る。
「ええ、貴方くらいの腕ならいくらでも」
フェドセイが振るう双剣を軽くいなすマム。
「ほう、なかなかやるねぇ。では魔法を加えたらどうかな?」
そう言った瞬間、フェドセイの姿はゆがみ消えた。
「う!」
マムは素早く動いたものの、左袖が裂け、少し血が滲んだ。
「ほう、ボクの見えない初撃を凌いだのはお嬢さんが最初だよ。じゃあ、少し遊ぼうかい?」
フェドセイは、姿をぼやかしながらマムに切りつける。
暗い室内な事もあり、マムはフェドセイの攻撃をすべては避けきれず、徐々に細かい傷を作る。
「あ!」
「ごめんね。綺麗な顔に傷作っちゃった。でもすごいよね。本当なら数回は心臓に刃が入っているはずなのに、致命傷を全部避けているのは?」
一度、攻撃をやめてマムを嬲るように見るフェドセイ。
マムの右頬に、かすかながら切り傷が出来て、血が垂れた。
「ふう。もう時間稼ぎは十分かしら。貴方バカ? 自分の手勢がどうなっているのか知らないの?」
しかし、マムは逆にフェドセイを煽る。
「何をいってやがる……って!! おい、どうなった! 暗殺団が全滅しているぞ!?」
フェドセイやマムの背後には、多数の暗殺団が倒れ伏していた。
「エレンウェイ殿、お見事です」
老獪な男、アンドレイ・マスロフ元伯爵と切り結びながらもマムに声援を送るアレク。
「ワシ、あのような女傑と戦って散りたかったぞ」
アンドレイも思わず愚痴る。
「それはお互いしょうのないこと。今は全力でお相手いたします、マスロフ殿」
「おうさ!」
アンドレイとアレクは、剣で作った結界をお互いにぶつけ合いながら戦った。
「おい、エルフ! 一体なにをした!?」
フェドセイは驚愕の顔でマムを見る。
「あら、ご自分の攻撃で味方を殺した実感は無かったのですか? わたくしは一度も剣を振るってませんわ。わたくしが避けた先に暗殺団の方々がいらしゃっただけですの」
マムは、うふふと上品に笑いながら、答えた。
「じゃあ、あの刺したり切ったりした感触は全部……!」
「はい、暗殺団の方々ですわ」
マム、フェドセイの攻撃を避ける際に暗殺団員が攻撃範囲に入る様に動き、暗殺団員を肉の盾として使用していたのだ。
「お、お前! ボクがせっかく育てた暗殺団ガァ!」
叫びながらマムに飛びかかるフェドセイ。
「残念、この程度なのね」
マムは静かに呟き、腰を落とし右手に握った細い剣を後に弓を引くように引き絞った。
「では、さようなら!」
そして音の速度を越えた数百発の突きが空中のフェドセイを襲った。
「ぐぎゃぁぁ――!」
吹き飛び壁にめり込むフェドセイ、そして後から音速を超えた際に発生する衝撃音が室内に響き渡った。
「即死しなきゃ大丈夫よ。なにせ全部すっごく痛いけど死なない逆急所ですもの」
マムは、うふふと笑った。
◆ ◇ ◆ ◇
「マム、おっそろしー!」
「此方も怖いのじゃ!」
「センパイ、あれ本当にバケ……」
「ブルーノくん、それ以上は禁句ですぅ」
僕達は支援砲撃・射撃をしながら、捜査室の全員の戦いを見ていた。
……一応、暗殺団員も数名僕が倒したけどね。でも殆どマムには支援の必要が無いのがすごいや。
3人とも、マムの歩法と視界の広さに感動しつつも、恐れおののいている。
「さりげない重心移動で動く方向を見切れないし、視線をとても広く取っているから、逆に集団の中に入った方が強いのかも」
「自分にはとても無理です。やはりエルフという時間に余裕がある種族だから出来る領域なのでしょうか?」
魔法戦士としてマムとは比較的似ている戦い方をするブルーノは、自分との違いを感じているらしい。
「あれ? ヒト族でも強い方いっぱいいますよ。辺境伯と辺境伯の叔母様とか。そうか、ブルーノ君は知らないよね。ナナさんのお母様でもあるマユコさんは、マムよりも更に上だよ」
「げぇ! 地球人でそんな方がぁ!」
びっくりしているブルーノーを横目に、ボクはマユコの姿を思い出して身震いをした。
……マムが教えを請うくらいだからねぇ。あのお母様は異世界よりも怖いよ。
「さあ、遊んでいないで仕上げしますね。残る雑魚は僕達で殲滅するよ!」
「おー!」
「のじゃ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「この小娘がぁ。ちょこまかとぉ」
「へーんだ。アタイを捕まえられるモノならつかまえてごらん!」
ヤニーナ・チェーホヴァ女男爵は肩で息をしながら、ギーゼラを睨む。
「このドワーフ風情ガァ。わたくしの魔力の前に滅びるが良いわぁ!」
ヤニーナは、黒い弾を複数展開して、ドワーフ娘に撃った。
「こんなへなちょこ弾、怖く無いもん!」
ギーゼラは身に纏う影の精霊の力を使い、自分に向かってきた黒弾を握りつぶす。
「あ、何故よぉ。それはすべてを虚無に追いやる魔力弾のはずぅ。今までわたくしに仇名す敵を全て滅ぼしたはずなのにぃ。ちきしょぉぉ!」
自分の必殺技が無力化されたので狂乱したヤニーナは、周囲の味方の事を考えずに無誘導で黒色な重力弾を撒き散らした。
「あぶなーい」
ギーゼラは、とぷんと自分の足元の影へと潜った。
「オバカさんは、ちぇっくめいと!」
そしてヤニーナの背後に現れるとヤニーナの左腹部へ掌底を押し当てて、一気に気合をこめて衝撃波を突きこんだ。
「ぐぎゃ!」
ケモノみたいな声を立てて悶絶して気絶をしたヤニーナ。
「キドニーアタック、無事せいこー。コウタさんに技聞いてて良かったの!」
ガッツポーズをしたギーゼラであった。
「ぐぅぅ、ワシの負けだ。首を取るがよい」
ヤニーナの魔力弾を避け切れなかったアンドレイ・マスロフ元伯爵。
苦痛の声を出して膝を付き、アレクの前に首を突き出した。
「いえ、処罰に関しましては陛下のご意見が大事でございますから。今しばらくはお待ち下さいませ」
アレクは最終決戦が行われている少年皇帝とヨシフ・スルコフ子爵の戦いを見守る。
「皆の衆、がんばっておるのじゃ! BGM効果もあったのかや?」
さて、どうなんでしょうか、チエちゃん。
とりあえず戦闘は、陛下と敵の親玉との一騎打ちになりました。
では、明日の更新をお楽しみに。




