第30話 貴族秘密結社の闇。
暗闇の中、ゆらぐランプの炎が室内を照らす。
そこでは、大きな円卓を中心に5人の人が座っていた。
彼らは目元だけを開けた三角頭巾を被り、いかにも秘密な集会という雰囲気を醸し出している。
「この頭巾は、なんとかならんのか? オレは、随分と息苦しいぞ」
大柄な男が文句を言う。
「私は、これが秘密結社の装束と聞きましたが? 我ら保守派なら『お約束』というのを守るのも当たり前かと」
細身で若そうな男が軽薄そうに言う。
「おいおい、これは我らが嫌う地球のお約束だぞ。まあ、ワシはカッコいいとは思うがな」
老齢の男は、ガハハと豪快に笑う。
「笑い話では無いわよ、翁。これだから、オトコはいつまでたっても子供なのですわ」
中年と思われる女性が愚痴る。
「まあまあ、皆さん。今日、せっかくお集まり願えたのですから、仲間割れなぞしている暇はありませんぞ。『敵』も動いておりますから、ここいらでこちらも動かなくてはなりませぬ。甘すぎる皇帝を廃して、再び戦乱の世に戻すのです」
若いが、意思のはっきりした声で5人を纏める男。
彼らこそ、帝国内の保守過激派、少年皇帝の改革に反旗を振る者達。
それぞれ前帝の頃から帝国中枢で「旨い汁」を吸ってきたが、代替わり以降自分達の行ってきた不正が徐々に暴かれており、焦っている。
更に誰もが、以前の拡大志向で戦乱に溢れていた時代を懐かしんでいる。
しかし、先だっての帝都動乱時に保守タカ派のクレモナ伯グリゴリーがエルフ姫によりあっけなく破れ、その後のジェミラ伯オレークによる異界魔物による帝都襲撃時や邪神襲来時にも、少年皇帝は地球の力を借りながらも帝国を纏め上げた。
「あのボウズ、意外とやり手だったからな。保守派・中間派も随分と皇帝派に流れたぞ」
大柄な男が腕組みをしながら、うむうむと頷く。
「あら、貴方は『敵』を褒めるのですか?」
中年女性は、嫌味気に大柄な男に問う。
「古今東西、敵の力を見誤って滅びた例は多いですぞ。敵の優れた面も知らねば、後は負けるばかりじゃ」
老齢の男は、中年女性を窘める。
「ええ、敵はどんどん強大になっています。それにやっかいな怪盗などという輩もいます。対策を練らねばならんのですよ」
議長的な役目をしている若い男が話を締める。
「そちらですが、ポータムに逃げたヴラドレンは皇帝派の異界技術捜査室に逮捕されてしまいました。アヤツは金運用やらが得意だったので贔屓にしていましたが、怪盗怖さにポータムへ逃げて、そこでも怪盗に襲われて捕まるという失態を犯しています」
軽薄な若い男が報告をする。
「そろそろ処分すべき時期かのぉ」
老齢の男が呟く。
「そういう事で、ヴラドレンの私兵には私が管理しています暗殺団を忍ばせています。既に、情報漏えいが起きそうな辺りは『処理済み』です。ヴラドレンがポータムにて資金洗浄をしていた宝石商を怪盗が殺した形で処分しました。またヴラドレンの店の店員のうち、こちらに踏み込みすぎた者も顔を潰して廃棄済みです」
軽薄な男は、ゴミを捨てるように簡単に数人殺害を指示したことを話す。
「残るヴラドレンは、どうなのかしら?」
中年女性が軽薄な男に聞く。
「一応『釘』は打ちましたので、ヴラドレンは簡単には白状しないかと。念の為に、いつでも処分できるよう監視をおいております。また、例の捜査室にも我らに繋がる資料及び人員の処分をするべく、数名送っております。まもなく、その返答もくるはずです」
暗殺団を手足の様に使う軽薄な男。
先代皇帝の時代から皇帝や高位貴族の命を受け裏で暗躍をしていたのだが、今の少年皇帝は情報収集には熱心だが、暗殺を嫌う。
なので、最近では良い目を見ていない。
「それは、吉報を待ちましょう。そして、我らも打倒皇帝を願うのです」
議長の若い男は立ち上がり、興奮気味に叫ぶ。
そして全員が拍手をして、同意をした。
「申し訳ありません。ご主人様、急にお知らせしたい事がございます」
そんな時、ノックと共に、側仕えらしき若い男の声が分厚い扉の前から聞こえた。
「なんだ! 今は人払いをしている会議中だ。なまじな理由でそれを破るのは許さんぞ!」
議長の若い男は、ドアの向こうの側仕えに吼える。
「それが、……。先程、ご主人様と本日お越しのお客様宛てに怪盗アローペークスから予告状が来たのです!」
「なにぃ!」
議長の男、ヨシフは魔法施錠をしていたドアを開錠して開き、側仕えの男を部屋の中に入れた。
そして側仕えから渡された予告状を一瞥して驚愕した。
なんと、予告状には「ヨシフ・スルコフ子爵様、他4名の方々。貴方方の秘密を奪いに、本日7の鐘が鳴る頃にお伺い致します」と書かれていたのだ。
「7の鐘となると?」
「はい、まもなくです!」
そんな時、ヨシフ・スルコフ子爵宅の周辺で爆発音が多数鳴り響いた。
「何が起こった?」
ヨシフは驚きの声を出す?
「まさか、怪盗の仕業か?」
大柄な男、ニコライ・グリャーエフ子爵は椅子から飛び上がるように立ち上がる。
室内は騒然となる。
「何故、ここに我らが集まっているのが怪盗に分かった? それよりも、どうやってポータムに居た怪盗がこんなに早く帝都に来たのか?」
老獪な男、アンドレイ・マスロフ元伯爵も驚きを隠せない。
「そんなの分かるはずないですわ。ヨシフ、貴方なんとかしなさいな。わたくしは、こんなところで終わりたくないのですの」
中年女性、ヤニーナ・チェーホヴァ女男爵はヒステリックに叫ぶ。
「周囲を暗殺団に警備させていたはずですが。おい、早くここに兵を送れ!」
軽薄な男、フェドセイ・ゴズロフ男爵は部下達に魔法通信を送った。
「皆様、落ち着いてくださいませ。もう手遅れなのですから」
側仕えは、慌てふためく5人を冷笑する。
「お、お前一体何を言う!? というか、お前は一体誰だ? 顔を見たことが無いぞ」
ヨシフは、眼の前の見覚えのない側仕えを指差して、正体を詰問した。
「申し遅れました。私は、……」
側仕えの周囲に急に白煙が立ち上がり、白煙が消えた後には、白ずくめの男が居た。
「怪盗アローペークスにございます。皆様方の皇帝陛下への反逆証拠を頂きに参りました」
怪盗は、右手にステッキ、左手で白いマントを広げ、華麗に挨拶した。
「こ、こいつ! 警備兵、早く来て賊を殺せ!」
ヨシフが大声で叫んだ。
「見苦しいぞ、ヨシフ・スルコフ!」
ヨシフの声に対して少年の声が返ってきた。
「ま、まさか?」
ヨシフ達がうろたえた瞬間、窓側の壁に四角形の火花が走り、壁は二階の部屋から地面へと落ちていった。
そして土煙が消え、壁があったはずの向こう側、空中に浮ぶ大きな羽の生えた少年魔族が吼える。
「事務方目付け、ヨシフ・スルコフ、そして他4名。余の顔を見忘れたか?」
少年皇帝は、ドヤ顔をした。
「ワシ、こういうのが大好物なのじゃ。ワシでは出来ぬ名乗り上げじゃから、皇帝陛下が羨ましいのじゃ!」
チエちゃん、時代劇的な名乗り上げ好きですからね。
確か、黒田さんの教団強襲時にやりましたっけ?
「そうなのじゃ。時代劇や歌舞伎の見得、名乗り上げは日本の伝統文化。特撮ドラマでも定番なのじゃ!」
カッコいいですものね。
今度、「こよみサン」とのコラボを再び計画していますが、その際には爆発を背景に名乗り上やってみたいです。
「ワシ、楽しみにしておくのじゃ!」
では、明日の更新をお楽しみに。




