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僕は異世界で美幼女姫様と刑事をする。〜異世界における科学捜査の手法について〜  作者: GOM
第2章 捜査その2:領主暗殺未遂並びに美幼女誘拐事件
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第3話 新米捜査官は、領主に御挨拶をする。

「タケや、此方(こなた)の話をちゃんと聞いておるのかや?」


 リーヤの声で僕は、回想から現実に戻る。

 今は、まだ運転中。

 決して夢うつつに「小人さん」による自動運転をしてはならないのだ。


 ……あっぶなーい。これ日本の首都高速とかなら大事故起こしているよ。気をつけなきゃ。


「はい! 聞いてますよ、リーヤさん」


 僕は簡潔にリーヤに答える。

 事前にリーヤの事情と思いをマムに聞いていたから、重大な問いに「満点の回答」をしてしまったけど、今後僕はどうなるのだろうか?


  ◆ ◇ ◆ ◇


「という事で、タケ。いや、モリベ巡査。貴方には任務を与えます。これより5日後、休暇に入るリーリヤ・ザハーロヴナ・ペトロフスカヤ嬢を無事、父たる領主ロード・ザハール・アレクサンドロヴィチ・ペトロフスキーの元へ無事送り届けると共に、彼女の休暇中及び帰還までの身辺警護を命じます」

「アイ、マム!」


 僕は正式にマムからリーヤの移送・身辺警護任務を任じられた。


「では、貴方には、これを渡しておきます」


 そう言って、マムは僕に蜜蝋で封印された書簡を渡してくれた。


「ロードへはリーヤ経由で別途書簡を送るのですが、それはタケ用。もし貴方とリーヤ、そしてリーヤの家族に何かあったとき、その封印を解いて中の書簡を読みなさい。そうすれば、大抵の事はなんとかなるはずよ」


 僕はマムの言葉を聞いて、手の中の書簡を凝視した。

 それは、捜査室の紋章、フラスコと剣がモチーフになっているが、それが刻まれた印を蜜蝋の上から押し当てている。

 魔力も感じられるから、多分特定の条件でないと封印が解けないのだろう。


「一体これは……?」


「うふ、今はナイショ。何も起きなければ、帰ったときわたくしに返してくださいな。勝手に開けて見ちゃダメよ。見たら減俸、いや首かしら」


 いたずらっ子風な笑顔のマム、彼女も僕をオモチャ扱いしている気がしないでも無い。


「まあ、真面目なタケなら大丈夫よね。だからここぞと思ったら、躊躇なく封印を解いてね。解除キーはタケ自身とキーワード。タケが封印を触ってキーワードを言えば封印は解けるわ。キーワードは……」


  ◆ ◇ ◆ ◇


 そうこうしている内に、自動車はアンティオキーア領の首都アンティオキーアに入った。

 街の門番の方には、ものすごく不思議そうな顔で自動車を見られた。

 車は馬車がまだまだ主流の異世界、そこに突然現れた自動車は異質に見えることだろう。


「で、では、お気をつけてお通り下さいませ」

「ありがとうございます」


 門番さん、何かバケモノのように自動車を見ていたけれど、そこから領主の娘が出てきて、領主や隣領主からの発行手形、更には捜査室の警察証を提示されて、大慌てで敬礼はするは、ぺこぺこ謝りだすは。


「のう、タケよ。この車、やはり怪しく見えるのかのぉ?」


「そうですねぇ。こちらの人から見れば、何にも引っ張られずに荷車が勝手に動くように見えますし」


 ……鉄で出来た引っ張られずに動く荷車。うん、異世界基準なら怪しまれる事請け合いだね。


「そこからお姫様が出てくれば、大騒ぎでしょ?」


「うみゅ? そのお姫様とは誰かや? まさか此方の事かや?」


「どこにリーヤさん以外のお姫様が居ますか?」


 僕の冗談半分な褒め言葉にリーヤは顔を赤くする。


「そうか、其方(そなた)は此方をお姫様に見てくれるのか。うんうん、嬉しいのじゃ!」


 ……あら、こりゃ褒めすぎちゃった?


「うふふふ。此方はお姫様かや。お父様に自慢出来るのじゃ!」


 そう嬉しそうなリーヤ。

 しかし、この時僕は気がつかなかった。

 リーヤがそれまで父親の事を話しても、一切母親について話さなかった事を。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「お父様。リリーヤ、ただ今戻りました。(なが)の間、お会いできませんで申し訳ありませんでした。」


「おお! リーヤ、良く帰ってきてくれた。今回は無理を言ってすまない。しかし、暫く見ぬ間に大きくなったな」


「いえ悲しいかな、わたくし1cmも大きくなっておりませんの」


 リリーヤと父親の領主、喧嘩別れした形だったにしては、にこやかな再会だ。


「リリーヤ、お帰りなさい。せっかく帰ってきましたのですから、向こうで花嫁修業なさった結果を見せていただけませんでしょうか?」


「お母様、リリーヤただ今戻らさせて頂きました。ポータムにおきましては、わたくしは治安維持活動に従事致しておりましたので、花嫁修業を行う時間もありませんでしたの」


 ……あれ、お父様の時と違って、お母様との会話はなんか棘棘しいぞ。


「あら、ワタクシの眼を離れたと思ったら、リリーヤ。貴方は、ペトロフスキー家を、そして領地を守る為にいずこかの上級貴族と結婚しなくてはならない身。それを忘れているのではありませんか?」


「いえ、それは重々承知いたしております。しかしながら、わたくしは依然かのような幼子の姿のままにございます。この身では、まだまだ政略結婚の(にえ)には早すぎではないかと思います。まさか、お母様は幼女趣味のお方との縁談をご計画なさっていらっしゃるのでは無いですか?」


 ……うわぁ、すごい痛々しい会話だ。とても母娘の会話とは思えないよぉ。


 この状況に居たたまれないのは、場違いな僕だけでなく、周囲にいる領主の側仕え・側近・護衛、そして領主もそうみたいだ。

 おろおろとしながら、妻と娘の戦争状態を見ている。


 ……なるほど、リーヤさんが喧嘩した相手は、お母様なのね。


 おろおろとしている領主、ロード(伯爵)・ザハール・アレクサンドロヴィチ・ペトロフスキー。

 細身でヒト種でなら四十路後半に見えるナイスミドル。

 どこかリーヤに似た、黒髪と金色の瞳を持つ、いかにも貴族という風貌。

 もちろん魔力に溢れた魔族種だというのは、僕の眼からでも分かる。


 そして領主婦人にしてリーヤの母親、レディ(領主夫人)・エカテリーナ・エドガロヴナ・ペトロフスカヤ。

 長く濃い金髪に碧眼、そして少しふくよかで高貴さを纏う、ヒト種だとアラフォーくらいに見える魔族種の貴婦人。

 ただ、(リーヤ)を見る眼は、可愛い娘というよりは、家庭を守る為に差し出す生贄を見るかのようで、僕は冷たい雰囲気を感じてしまう。


「ま、まさか! そんな変態趣味の貴族なぞ、当家の親戚になってもらっても困りますわ」


「なら、当分は時間がございますわね。今回の見合いに同意致しましたのも、お父様の立場を考えての事。お母様、少なくともわたくしが成長するまでは、今回の件や花嫁修業の事は回答お預けさせて頂きますわ」


「そ、そうね。ええ、分かりましたわ」


 どうやら、母と娘の戦いは、今回(リーヤ)の勝利に終わった様だ。

 エカテリーナのびっくりとした表情、そしてリーヤのドヤ顔、更には領主のおどろきの顔を見るに、彼女()が娘に負けたのは珍しいっぽい。

 リーヤは、日頃ギーゼラや僕達と「戦って」いるのが、対母親への良い経験になったのかも知れない。


 母娘の対決が解決したのに、ほっとしたザハールはリーヤの後方に立っている僕の方を見た。


「リーヤ、そこにおる男のヒト族は誰か? お前が最近申しておった地球人とやか?」


「はい、お父様。彼はわたくしの同僚にて地球人のタケです。タケ、自己紹介を」


「はい、リリーヤ様。ロード、レディ、お初にお目にかかります。自分はリリーヤ様の部下として御仕え致しております、タケシ・モリベと申します。ロード、レディにおかれましては、良き出会いに感謝致します」


 僕は膝を付き、精一杯の丁寧な共通語でザハールに話した。


「その方か、先日リーヤを守ってくれた者とは。父として私はその方に感謝する。地球とは色々とあるのは詮無き事。しかしながら私としては、その方が今後もリーヤを守ってくれるとありがたい」


「もったいないお言葉、ありがとうございます。今後もこの身は、リリーヤ様の盾として使わせて頂きたく思います」


「うむ、宜しく頼む」


「はっ」


 ……ふー。リーヤさんてば、僕の事どれだけお父様に報告していたのやら。随分と僕の事高く買ってくれているぞ。


「あらまあ、地球のヒト種ごときがリーリヤの盾ですって? まあいいわ。使い捨てでも一回はリリーヤを守れる事でしょう。貴方、せいぜい励みなさい」


「はい、この身に替えましても」


 エカテリーナは、まるでゴミでも見るような眼で僕を見てくる。


 ……うん、リーヤさんが実家に居たがらないのも良く分かるよ。


 以前聞いていたのだけれども、リーヤの上には姉と兄がいる。

 姉は北方の領主の息子と結婚して、一児の母となっている。

 そして、兄はまだ独身で帝国中央にて皇帝に使える文官として働いているのだそう。

 姉や兄が居ない実家は、リーヤにとっては鳥籠。

 守ってくれる代わりに窮屈で一切の自由も無く、父親からは愛されているが母親からは家を守る道具として見られている。

 家出してでもリーヤが逃げたくなるのも良く分かる。

 だから、ザハールは知人であるマムを頼って(リーヤ)を家出という形で逃がしたのだろう。


「では、お父様、お母様。わたくしは部屋に帰ります。では、また明朝お会い致します」


 リーヤは、能面に笑顔を載せたまま、丁寧な挨拶をして退席する。

 僕もリーヤに続いて部屋を出た。


「お母様のばかぁ」


 ボソッと呟くリーヤの日本語を僕は聞いた。

 彼女の眼には、うっすらと涙が見えた。

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