第23話 新米騎士爵は、悲惨な御遺体と対面する。
「オマエか。一体いつになればワシの裁判は始まるのか、聞いているか? 弁護士とやらも雇いたいから繋ぎを頼みたい」
「私のところには、まだ裁判についての話は来ていません。弁護士の件は分かりました。では、こちらの資料をどうぞ」
警視庁ポータム警察署の取調室にて、ヴラドレンは今現在、金融業店舗を任せている男、カルロと会っている。
カルロは平凡だが、資金計算や運用に才能があったので、雇った。
本来ならば、今共に捕まっている金庫番に業務を任せたいのだが、しょうがなくカルロに任せているのが現状だ。
なお、取調室内には異世界共通語の聞き取りが出来る警官が待機しており、2人の会話に注意しているし、ヴラドレンは知らないが監視カメラとマイクが数箇所設置されている。。
「これは何か? ん、オマエは!?」
ヴラドレンは、眼の前の男に違和感を感じた。
以前会ったときと、どこか印象が違うのだ
〝お静かに。適当に会話をしますので、念話の方に集中してください〟
何も特徴の無い男だったはずなのに、彼は今はものすごい存在感を出して、ヴラドレンに念話を送っている。
「こちらは、今月の収支でございます」
〝『上』からのご命令です。絶対に秘密を守れ。証拠に関しては、こちらで処分するから、絶対黙秘をせよ。既に宝石商は処分済みだ。さもなければ、眼の前に居るはずだった男の様になるぞ、以上でございます〟
「そ、そうか。了解した」
ヴラドレンは、酷く冷や汗を出し、寒気で震えていた。
目の前にいるはずの男が、良く知っている筈の店員じゃない。
姿形は同じなのだが、中身がすっかり違う。
「では、失礼しますね」
男は取り調べ室から、警備をしている警官に挨拶をして去ろうとしている。
「あ、カルロ!」
「はい、なんでしょうか?」
笑って振り返るカルロ、しかしヴラドレンには恐ろしいバケモノにしか見えない。
緊張を隠しきれないが、ヴラドレンは無理をして声を絞り出した。
「か、『彼』は、今どうしているかな?」
「あ、『彼』ですね。『上』の指示に従えず、上手く仕事が出来ませんでしたから、解雇しました。今頃は、高い階段を登っているんでしょうね」
にやりとしながら答える男。
「そ、そうか。分かった」
「それでは、また来ますね」
ヴラドレンは、脚が震えてしまうのを無理して我慢をした。
さっきまでここに居たはずのカルロは、既に高みに昇った。
つまり、この世から天上へと送られたのを悟ったからだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「此方面白くないのじゃ。最近、出番が少ない気がするのじゃ!」
「すまぬな。ワシがリーヤ殿の出番を奪っておるかもしれぬ。かといってワシも、タケ殿には遊ばれておるのじゃ。ここは2人でタケ殿を捕まえるのじゃ!」
捜査室で大声で話している幼女達。
その声は、廊下にいる僕の耳にも入る。
「ちょ、これは僕このまま部屋に入ったら終わりのパターンじゃないよねぇ」
「あら、タケどうしたのかしら?」
僕が廊下で立ち往生しているところに来たマム。
「実は……」
僕は、これまでの流れを説明した。
「あらぁ。それは困ったわね。とりあえず辺境伯とお話しした内容について報告書を提出してくださいませ。その為に仕事をしなくてはなりませんから、わたくしの方で2人には説明しますわね」
「ありがとうございます。では、……」
そして、僕とマムが部屋に入ろうとした時、
「大変でござる! マム殿、ポータム港に顔が無い死体が上がったとのことでござる。ポータム警察から、捜査・鑑識依頼でござるよ!」
ヴェイッコが、玄関から息を切らして走ってきた。
「分かりましたわ。皆、早速捜査に入ります。タケ、貴方はリーヤ、キャロリンと組んで現場で証拠の確認を。ヴェイッコは3人の護衛を御願いします。残る方々は、捜査準備をここでしますわ。せっかくここにいらっしゃるのですから、チエ様には、お手伝い願いしましょうか」
マムは、猫の手も借りたいのか、強引に暇をしている魔神将すらも使う気だ。
そして、一気に忙しくなる捜査室だった。
……顔が無いって、どういう事なのだろうか? エンジン船が無い異世界じゃ、ペラで顔が削れるって事もないし。蟹やシャコに食われちゃったのかなぁ。まさか、身元を隠す為の処理だったりしたら、怖いなぁ。
僕は怖い考えになりながら、鑑識の準備をした。
◆ ◇ ◆ ◇
「これは、ちょっと見たくないのじゃぁ」
「ええ、僕も直視はしたくないです。でも仕事なので辛抱します」
「はいはい! そこのお子様2人。お仕事をしますわよ!」
リーヤ、キャロリン、ヴェイッコ、僕の4人は4WD車にてポータム港に来ている。
すでに遺体は岸壁に引き上げられており、周囲はポータム警察・騎士団により閉鎖をされていて、野次馬は遠巻きに現場を見ている。
「リーヤさん、御遺体を見たくないのなら、周囲の野次馬を全員撮影しておいて下さいな。犯人は現場に帰ってくる傾向がありますから」
「了解なのじゃ!」
顔が無い遺体を見たくないので嫌そうな顔をしていたリーヤに、僕は別の仕事を与えた。
「流石はお姫様を守るナイト様ね。で、ナイト様は大丈夫かしら? ヴェイッコは大丈夫よね」
「う、あんまり大丈夫じゃないですが、辛抱します」
「拙者も望んで見たくは無いでござるよぉ」
キャロリンは僕をからかうが、僕を気遣ってくれての事だろう。
「捜査室の方には、ご無理を言ってすいません。こちらに御遺体があります」
ポータム警察の方が、僕達3人を布で隠された御遺体の前まで案内してくれた。
「ありがとうございますわ。さて、タケ、ヴェイッコ。いくわよ!」
キャロリンが気合をいれて、遺体を覆っていた布を剥いだ。
「う、うぅぅぅぅ!」
僕の眼に、悲惨な御遺体の、剥がされていて「何も無い」貌が飛び込んできた。
そして、僕は衝撃的な映像を見たことで、口の中にすっぱいものがこみ上げてくるのを感じる。
「これは中々に酷いでござる」
ヴェイッコは、顔をしかめてはいるものの、しっかりと御遺体を直視している。
「あら、これは酷いわね。タケ、無理しなくて良いから、岸壁で吐いていらっしゃいな」
僕の表情から状態を察知したのか、キャロリンは僕に遺体発見場所から動いて良いと言ってくれた。
「拙者は大丈夫でござるから、ゆっくりして来ると良いでござるよ」
「あ、ありがとう、うぅ――!」
僕は我慢しきれずに、岸壁まで走って吐いた。
「うぼぇぇぇ……」
……あんなに酷いなんて……。一体誰があんな酷い事を出来るんだ!
「はぁはぁはぁ……」
胃の中を全部吐ききっても、まだ胃液だけを吐いてしまう。
そして、黄色い唾と胃液ばかりを、僕は口から溢してしまった。
……これが、朝ごはんとの対面ってヤツかよぉ。フィクションで見るけど、自分の身に起きたらイヤだよぉ。でも、リーヤさんが同じ目に合わなくて良かったよ。
僕は、なんとか吐き気を落ち着かせて、御遺体の前に戻った。
「あら、もう大丈夫? ワタクシも、あんまり見たい『顔』じゃないから、顔だけ隠しましたの」
「タケ殿、ご無理なさらずとも、良いのでござる」
御遺体の顔の部分は布で覆われており、キャロリンやヴェイッコは悲惨な御遺体に慣れているのか、テキパキと仕事をしていた。
「大丈夫とは言えませんが、仕事します! 僕も御遺体を見ます」
僕は悲しみと怒りを糧に、仕事に挑んだ。
「やはりタケ殿は、まだ御遺体と向き合うのには慣れておらぬのじゃな」
今までは比較的綺麗な状態の遺体が多かったから大丈夫でしたが、水死体で膨らんだ上に顔が剥がされている御遺体なんて、作者もご対面はしたくないです。
「映像だけでなく、臭いもあるから現実は厳しいのじゃ。慣れて欲しくは無いが、仕事と割り切るのも必要なのじゃ!」
作者も幼少期、医者になりたいとは思いましたが、グロ耐性も体力も学力も無いので早い時期に断念した覚えがあります。
「まあ、知識だけは持って居っても役には立つのじゃ」
そうですね。
今、こうやって小説を書くのにも助かっていますし。
「何事も精進なのじゃ! 励むのが良いぞ!」
はいです!
「では、明日の更新を楽しみに待って居るぞ!」




