第22話 新米騎士爵は、悪魔幼女に翻弄される。
「つまり、ブルーノ君は、ヴラドレンの所業については詳しくは知らないんだね」
「は、はい、そうです。クヌギ閣下」
今は、スーパー浴場の浴槽にて尋問中、辺境伯にびびり気味のブルーノなのだ。
「俺は、ポータムで雇われたので、それまでの事については噂話くらいしか知りませんし、経営やらには一切関係していませんので分かりません」
ヴラドレンの金庫番たる男もヴラドレン同様逮捕されており、2人とも警視庁ポータム警察署にて留置、取調べ中だ。
共に雑談には応じるが、自分は無罪だとしか言わず、黙秘に近い状態だと僕は聞いている。
「そうかい。じゃあ、タケシ君からブルーノ君に聞きたい事はあるかい?」
「そうですねぇ。では、ブルーノさん。貴方の本当の雇い主は誰ですか?」
「そりゃ、中央のって……! おい、何言わせるんだよ!」
僕は油断しているであろうブルーノに直撃をした。
……効果抜群だね。大体おかしいんだよね。ブルーノさんクラスの人が借金するにしても悪評が高いヴラドレンから金を借りなくてもいいのにね。耳がイイ情報通なのにおかしいよ。
「やっぱりね。コウタさん、僕の予想通りだったでしょ」
「タケシ君、キミもやるねぇ。ウチのコトミちゃんは、もっとすごいけど」
コウタの友人にして僕の科捜研先輩マサトの奥様、コトミ。
情報通でかつ異能力持ち、コウタの大学後輩で天敵な存在だったそうな。
「コトミさんのお噂はナナさんからも聞いていますし、先だってのC4システム指揮で十分把握していますよ。でもありがとうございます」
「タ、タケ殿、それに閣下。どこまで俺、いえ自分の事をご存知なのですか!」
急に軍隊系の話し方に変わるブルーノ。
僕達の日本語会話が理解できないまでも、自分が話題だと理解しているようだ。
「それはですね。うーん、今は内緒にして置きましょう。ブルーノさんが素直に話してくれるかどうかで、裏取りできそうですし」
僕は意味深な笑顔をして見せる。
……よしよし、動揺しているぞ。後、一押しかな?
「コウタさん。ブルーノさんですが、正直に話したらこのまま開放しましょうか?」
「うーん。陛下や俺達の敵対勢力だった場合は、困るよねぇ。その場合は……」
「ちょ、何お話ししているんですか? 自分には日本語は聞き取れませんから、内緒話で自分の運命を決めないで欲しいですぅ」
自分の助命嘆願をするブルーノ。
その慌てふためいた様子が実に面白い。
「ですから、話してくださいな。悪いようにはしません。最悪、敵対勢力だったら、コウタさんには翻訳せずに逃がして上げますよ。その代わり、次に会ったら容赦しませんけどね」
僕はニッコリとしながら、ブルーノにプレッシャーを掛けた。
「分かった、分かりましたよぉ。正直に話します。自分、ブルーノ・フィオリーニは中央官僚ボリス・ヴェニアミノヴィチ・スダレンコフ子爵様の密偵です! 子爵様は中間派で、陛下や保守派との間で動向を調査しているんです!」
ブルーノは自分の雇い主について白状した。
……自分が聞いている情報と一致しているから間違いないよね。スダレンコフ家って何処が本家だったっけ? リーヤさんにでも聞かなきゃね。
〝ワシが2人に説明するのじゃ。スダレンコフ家は東の大貴族、公爵家じゃ。先代皇帝の甥が起した家じゃな。保守派に祭り上げられるのもイヤじゃし、自分の家の立場から簡単に陛下の味方も出来ぬ、中間派の最大勢力なのじゃ!〟
チエから補足情報が流れてくる。
今回の件についても、マム経由の情報と別ソースの情報を流してくれるので非情に助かっている。
〝という事で、女湯を……〟
〝却下です、チエちゃん!〟
すかさず、自分の欲望を適えようとする魔神将にダメ出しするコウタ。
〝かわりに、東京へ帰ったら近いうちにもう一度皆で温泉行くよ〟
〝それなら良いのじゃ! さすがは英雄殿なのじゃ! タケ殿は度量狭いのじゃぁ〟
……あのね、チエさん。毎度毎度覗きされたら、度量も広くなれませんよ。
〝むぅ、ワシ少し虐めすぎたかのぉ〟
拗ねてみせるチエ、その様子はリーヤよりも数十倍生きているはずなのに可愛いと思ってしまうのは、悪魔たる証拠なのだろうか?
〝ワシ、可愛い乙女なのじゃ!〟
悪魔と遊んでいても話は進まないので、ブルーノと話そう。
〝無視は寂しいのじゃぁ〟
……はいはい、後でお相手しますから、リーヤさんと何するか決めておいて下さいな。
〝りょーかいなのじゃ!〟
……こんな風に悪魔使いが良くなっていいんだろうか?
「しょうがないよ。俺だって、もう10年以上チエちゃんに付き合っているけど、未だに謎だものね」
僕とコウタは苦笑し合う。
「ねえ、閣下。タケ殿。自分はどうなるんですかぁ!」
ブルーノの悲鳴が浴室に広がった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ブルーノさんは、真実をスダレンコフ様にお伝えくださいな。そして、陛下に対して敵対しなければ中立でも一切問題ないともお伝えください。陛下は度量も広いし、スダレンコフ様とは血縁もあり、事情も理解なされています」
僕は、予め陛下から聞いていた事を伝える。
陛下は、密偵が敵対勢力でない限りは、自由にさせて良いと話していた。
「ああ、俺だって陛下の味方だけど、帝国全体の守護者でもある。陛下含めて俺の関係者に手出ししてこなきゃ、気にしないさ」
コウタも細かい事は気にしない風だ。
「そんなので良いんですか? 自分の一言で大変な事にもなりますよ」
ブルーノは、半分湯当り状態で、スーパー銭湯備え付けの浴衣を着て、休憩室でへたれている。
「ええ、密偵をいちいち処分していてはキリがないですし、少なくともお互いに敵にならなければ良いですよ。友好とまでいかなくても情報共有できて入れば不要な争いも起きませんしね」
「そうそう。分からない密偵に心配するよりもやり易いしな。保守派のボケ老人には中立派としても困っているだろうよ」
「はい、そういう事なら自分も了解です。しかし、何故に風呂だったのですか? 捜査室で話す事も出来ましたのに。え、これ美味しいです!」
僕が差し出したフルーツ牛乳を一口飲んでびっくりしているブルーノ。
「まず、追跡の眼を切るのと、雇い主にいらぬ心配させたくなくてです。捜査室が陛下派なのは、十分知られているでしょうし。おまけにお互い武器持ち込めないのも良いでしょ」
異世界人は、なかなか日本式のスーパー銭湯へは来ない。
料金も異世界帝国の相場からしたら少し高額なのもあるのだが、風呂、浴槽にゆっくり入るという習慣が、異世界人にはそれほど広まっていないからだ。
……ヒト族は古代ローマの末裔だから、もう少しお風呂が広まっても良いのにね。
「平たい顔族」で有名になったお風呂漫画でも語られた様に、古代ローマ帝国では公衆浴場は栄えていたし、上下水道もすでにあった。
ローマ帝国の終焉で人類史が数百年遅れたとも言われている。
「なるほどです。では、そのように致しますね、タケ殿。今後とも宜しくです」
ブルーノは、僕の顔を感心して見て、右手を差し出した。
「はい、少なくとも僕達は仲良くしましょうね」
僕は、差し出されたブルーノの右手を握り返した。
「ほう。こやつは密偵だったのかや? どうりで妙に有能だったはずじゃ。しかし、口が軽いのは弱点じゃな?」
どうでしょうか?
わざと情報を流して、こちらの反応を見ているのかもですよ。
「なら、大物じゃな。まあ、敵対せぬ密偵は便利に使うに限るのじゃ!」
チエちゃんなら、お使いや情報収集に使いそうですね。
「給金払って情報の共有をすれば、お互いにWinWinなのじゃ!」
とまあ、話は微妙に進んでいますが、明日の更新をお楽しみに。




