第20話 新米騎士爵は、少年皇帝のボケに呆れる。
「で、一体僕、いえ自分に何をさせたいのでしょうか、陛下?」
「それはだな、ルカ。余の密偵として働いて欲しいのだ。昨今、父上の代から仕えていた者達の間で不穏な動きが見られる。其方の叔父上たるレフもそれに巻き込まれた可能性が高いのだ」
捜査室のブリーフィングルーム、そこのメインモニターに少年皇帝と側近のアレクが映る。
◆ ◇ ◆ ◇
陛下からのメッセージを受けた僕とルカは、隠れ潜んでいたギーゼラと共に捜査室に向かった。
皇帝直々の召喚状ともなれば、ルカも納得して来るしかない。
その上、罪状が無かった事になるのだから、捜査室に行かない事はありえない。
「ルカお兄さん! もう、無茶はしないでぇ!」
捜査室に帰ると、早速フォルがルカに飛びつき、その胸で泣いた。
「フォルちゃん、心配させてごめんね。捜査室の皆様、ご迷惑をおかけ致しました。この度は自分の殺人疑惑や叔父の不正疑惑の無罪を証明して頂けるとの事、更に陛下におかれましては、帝都で行った自分の盗難の罪まで減免してくださられると。感謝してもしきれません」
ルカは、大きく頭を下げた。
「怪盗殿、どうじゃ? ウチのタケはすごいじゃろ? タケは此方の自慢な婚約者なのじゃぁ!」
リーヤは、フォルに抱きつかれたルカの前に行き、背伸びしつつも定番のドヤポーズを羽を大きく広げて行う。
……こんな時に婚約者自慢しなくても良いとおもうんだけどぉ。
「え、タケ兄さん。貴方もザハール様の関係者なんですか?」
「ま、まあ。そういう事なんですよ」
僕はしょうがないので、ドヤ顔のリーヤの頭を強めにナデナデしつつも、ルカの前から遠ざけた。
「タケや、少し痛いのじゃ。此方は大事に扱うのじゃぁ!」
「リーヤさん。今は忙しいので、また後で構ってあげますから、これで勘弁を」
「もうしょうがないのじゃぁ。此方、出番が無くてタケの横に居られなかったので寂しかったのじゃぁ」
僕に抱きつきに来るリーヤをナデナデしつつ、僕はルカの方を苦笑しながら見た。
「なるほど、理解しました。では、指揮官の方。早速ですが陛下との謁見の機会を下さりませんか?」
ルカはリーヤの事を一瞥して苦笑した後、マムの方を見て陛下と話せる準備を頼んだ。
「ええ、もう準備済みよ。こっちへどうぞ」
◆ ◇ ◆ ◇
「どうやら保守派の者共は、秘密結社たるものを作っており、それらが暗躍しておるのだ。もしかしたらレフは、その秘密に気が付いたから消されたのかもな」
画面上の少年皇帝は、呆れ顔だ。
「せっかく先日の邪神帝都襲撃時に一つに纏まったと思ったのですけど、まだまだなんですね、陛下」
「ああ、人が3人集まれば派閥が生まれるという諺が地球にあるのだろ。そういう事だ。どうやら、リタ姫の大暴れで保守派は表立って行動するのを辞めた様だ。それに最近はナナも頻繁に帝国に来ては、問題解決に力を入れてくれておる。ここいらで保守派の中心人物辺りを押さえて置きたいのだよ」
僕の問いに疲れが見える少年皇帝である。
「陛下、お疲れ様です。せっかく先日の慰労旅行でお疲れが癒せましたのに、大変でございますね」
「まあ、アレはアレで良い経験だったのだ。それにいきなり日本旅行に行ったのも考えなしでは無かったのを、今教えよう。実は余が帝都を留守した際に、保守派がどう動くのかの確認もあったのだ」
えっへんと自慢げの少年皇帝。
「陛下、タケ様や捜査室の方々の前で見栄を張るのは恥ずかしいですよ。後から思いついたのでしょう。留守を預かる諜報『御庭番』の方々が大変していましたよ?」
そこにケチを付けるアレク。
もう側近というよりはツッコミ役でしかない。
「えー、いいじゃん。せっかく久しぶりにタケと話せるんだから、見得くらい張らせてよぉ。あ! しまった。え、えっへん。ルカよ。先ほどの事は他言無用だ。その分、余の部下となった場合の給金を追加しようぞ!」
僕達捜査室の仲間だけなら問題が無かったのだが、ルカが居た事に気が付いた陛下は誤魔化すように話す。
「……は? あ! はい、陛下。喜んで、父や叔父に成り代わり御仕えしたいと思います!」
ルカは、先ほどまでの陛下とアレクの漫才でポカンとしていた顔を引き締めて、椅子から立ち上がり膝を付き陛下に対して任官を受ける儀式の姿勢をした。
「では、ルカ・ウゥルペスよ。父の家名を引き継ぎ、ルカ・ユリアーノヴィチ・ヴォリスキーと名乗るが良い。そして御庭番の1人として余に仕えるのだ!」
「ははぁ!」
……陛下ったら、すっかり時代劇の影響受けすぎじゃない? 御庭番って江戸幕府の隠密じゃないの。しかし、さっきのアレクさんの一件もしかして仕込み?
僕はふと気になりアレクの顔をじっと見た。
モニター越しに、僕の視線に気が付いたアレク、指を立てて口の前にあてウインクをした。
……つまりは、ルカ君を気持ちよく味方に付ける為の芝居なのね。でも陛下には腹芸など出来そうも無いから、アドリブなんだろうねぇ。
僕は喜ぶフォルや嬉しそうなルカの顔を見て、「まーいーか」と思った。
「陛下は忙しいのか暇なのか、分からん事をしておるのぉ。ワシも帝国を守護すると言うた手前、何かせねばならんのじゃが、別件が忙しいのじゃぁ」
チエちゃん、一体何を暗躍しているのかなぁ?
作者も気になるんですけどぉ。
「これは長い仕込み、引き込み、アンダーカヴァーなのじゃ!」
ふーん、後から教えてくださいね。
チエちゃんは作者の頭を飛び出して、何処で何やっているか分からないですもの。
「まあ、期待して待つのじゃ! では皆の衆、明日の更新を楽しみにするのじゃぞ!」
ではでは。




