第19話 新米騎士爵は、怪盗と語り合う。:その2
「では、今度は帝都での事を教えて頂けますか? 叔父様の冤罪について、僕達も調査中なんです。是非とも協力させてください」
僕と怪盗アローペークス、いやルカとの話は続く。
「あれはフォルちゃんが日本の大学へ行った直後になります。孤児院に帝都から尋ねてきた人がいました。その方は、帝都で陛下の元で事務方をしているヴォリスキー男爵、父の弟になる方の使いでした。男爵、レフ様は僕が父の子だと言うのを生前の父から聞いていたとかで、僕の事を近くで面倒を見たいという話だったのです」
レフ・アレクサンドロヴィチ・ヴォリスキー男爵、ヴォリスキー伯爵家からすれば分家に当り、前モエシア領主ユリアン氏の弟になる。
マム情報によると、彼は兄同様武門の血筋では無く、事務方として陛下の下で働いていた。
そして今年の夏頃、急に不正を犯して公金横領を行ったという事で、事務方から解雇、爵位も没収となった。
「レフ様も父同様に温和で差別等なさる方ではありませんでした。独身で真面目な仕事ぶりだったとの事です。僕は屋敷の下働きという形で移住食をお世話になり、誰も周囲に居ない時には、叔父と甥の関係として可愛がって頂きました」
涙目になりながら話すルカ。
「しかしそんな幸せも長く続かなかったのです。レフ様は陛下に近い改革派に属していましたが、先代皇帝から続く保守派が主流の事務方では異端。あまり居心地は良くなく、仲間と言えるのも同じ改革派のヴァレリー様とレナート様くらいだったと聞いていました」
ルカが語った2人の名前に、僕は覚えがある。
「あ、そのお2人はアンティオキーア領主のザハール様のご息女の旦那様とご子息ではないですか?」
「はい、そう聞いています。どうしてお2人の名前をご存じなのですか、タケ兄さん?」
……やっぱりね。そうか、後ろ盾があるザハール様関係者には手出しできなかったけど、後ろ盾を亡くしたレフ様は保守派の攻撃対象になったんだね。
「そのお2人は、ウチのリーヤさんの義理の義兄とお兄さんなんですよ。それで話は繋がりました。最近、帝都でゴタゴタしている話があるって聞いていましたから」
「じゃあ、この間会ったお子様が隣領主のご息女ですか?」
「まあ、お子様と言ったら本人怒りそうですけど、その通りです」
案の定、今来たスマホのメッセージには、「此方、お子ちゃまじゃないのじゃー!!」とリーヤからの日本語が書かれている。
「あら、本人からお怒りの言葉が来ていますよ。なるほど、領主の兄を失ったレフ様は政変・政争に巻き込まれた訳ですね」
「ええ、おそらくは。知らない間に公金横領の罪をでっち上げられて、政府から首になり、爵位も屋敷も失いました。僕はレフ様を助けるべく、色んな仕事をして稼ぎましたが生活はどんどんと苦しくなり、僕に内緒でレフ様は残った家宝を質草にして、あのヴラドレンから借金をしました。しかし、借金を返せるはずも無く家宝はヴラドレンに奪われ、何もかも無くしたレフ様は病になり、あっという間に亡くなりました」
悲しいレフの話を聞いた僕も、涙するルカと同じく涙がこぼれた。
……なんて悲しい、そして許せない事件なんだろうか? 罪無き善良な人を死に追いやるなんて。 ん! あれ、順番がヴラドレンから聞いたのと違うぞ。
「ルカ君、悲しい話をさせてごめんなさい。もう一度確かめたいんだけど、レフ様が借金をしたのは、公職から追放された後だったんだよね?」
「はい、そうです。僕も一緒になって借金返済に協力したので覚えています」
……これはヴラドレンと中央の保守派は繋がっているな!
「分かりました。では、この事は僕達で再確認後、皇帝陛下のお耳へお伝えして置きます」
「あ、ありがとうございます。まさか、皇帝陛下にお伝えくださるなんて。これで叔父も、そして父も報われます」
感謝の涙を溢すルカ。
「そうそう。もう一個聞きたい事があってね。ルカ君は高度な幻惑魔法を使っているけど、これはレフ様に教えてもらったのかい?」
「ええ、そうです。レフ様曰く、ヴォリスキー家の者は戦闘には不向きながら強化系や幻覚系、感知系の魔法に才能がある者が多く、僕にもその素養があったので、教えて頂きました」
神出鬼没の怪盗活躍の手法が納得である。
「なるほど、それが怪盗として活躍しているタネなんだ。実はね、皇帝陛下は怪盗アローペークスに興味津々で、キミと一緒に悪徳商人の屋敷に殴りこみかけて『余の顔を見忘れたか!』って言いたんだって」
「ぷ! それはそれは。あれ? それは日本のジダイゲキとかいうものでは無いですか? 僕は孤児院時代にテレビで見ました」
「じゃあ、キミも知っているんだね。実はね、僕が先日陛下に時代劇見せちゃったんだよ。それ以降、すっかりノリが良くてね。キミが帝都で活躍中に僕達が行った日本への慰安旅行にも陛下が同行して、何かと大変だったんだよ」
「それは大変でしたね」
僕達は笑いあった。
その時、マナーモードのスマホがいつもよりも強烈に振るえ、そこに表示されたメッセージには異世界共通語で、
「余にも怪盗を紹介するのだ! 面白い事をタケは独占するのではないぞ! 僕も一緒に遊ぶんだ! ということで、捜査室へ是非にルカを案内するのだ。なお、余の一存で、これまでの怪盗アローペークスの罪一等を減する」
という陛下直々の文章と、公印付きの怪盗アローペークスの罪状減免書の写真があった。
「ぶー!!! ちょ、陛下ぁ。これ聞いていたんですかぁ!!」
「え、どういう事ですか!」
僕が噴出したので驚くルカに、僕はスマホ画面を突き出した。
「えぇぇぇぇ!! どうして皇帝陛下からのメッセージがぁ! それに罪に問わないってどういう事ですかぁぁ!!」
地球人のビジネスマンが静かに茶を愉しんでいた喫茶店の静寂は、僕達の大声で失われてしまった。
「タケっち、これじゃせっかくアタイが隠れていたのが無駄じゃないのぉ」
僕は僕の影に潜んでいたギーゼラの愚痴を聞きながら、あいも変わらない陛下のフリーダム具合に頭を抱えるのだった。
「タケ殿の事じゃから、ちゃんと伏兵は仕込んでおったのじゃな。そこは見事なのじゃ。しかし、陛下のフリーダムにも困るのじゃ。そりゃ、江戸の街では元犯罪者を捕り方補助に雇う例は多々あるしのぉ」
ええ、チエちゃん、
多分密偵として、陛下はルカ君を雇いたいんでしょうね。
「本音は、暴れん坊将軍仲間として欲しいんじゃろうて。ワシも一緒に遊びたいのじゃ!」
十分ありそうで怖いです。
まあ、これで事件の半分は解決、残るは殺人犯の逮捕とその裏に潜む者達の確保です。
「そこは作者殿の腕じゃな! 励むのじゃぞ」
はい、頑張りますです。
「では、明日の更新を待つのじゃ! ブックマーク、感想、レビューを待っておるぞ!」




