第18話 新米騎士爵は、怪盗と語り合う。:その1
「どうぞ、冷めないうちに飲みましょうか。大丈夫、変なモノ入れてませんよ」
僕は怪盗アローペークスことルカ・ウゥルペスを地球人街にある喫茶店に案内した。
「ど、どうしてオレをここに案内したんだ? オレが怪盗だって事は分かっているのに捕まえないのか?」
かなり動揺して素が出ているルカ。
怪盗の時のような華麗さは欠片も見えない。
「だって、先だっては僕達の前に出ては来たけど何も犯罪行為はしていないよね。その場所に居たのがキミだとしても、これまで帝都で盗みをしていた怪盗と同一人物だという証拠も無いし、愉快犯で出てきたという事も考えられるしね」
僕は、紅茶を一口飲む。
「そ、それはそうだけど……。じゃあ、宝石商の殺人事件はどうなんだ? 遺体発見現場に怪盗からの予告状があったのは、事実だろ? どう見ても怪盗が殺人犯じゃないか!?」
まだ動揺気味のルカ。
僕の対応が想定外なので、困っている様だ。
……逃げたら良いのに、素直に付いてきた事からも、ルカ君これが罠という考えまで思いつかないんだろうねぇ。まあ、罠っちゃ罠だけど。
「あ、あれね。予告状の鑑定の結果、怪盗は利用されただけだと分かっているよ。そういう事だから、安心して僕の質問に答えてくれないかな? あ、一応会話の内容は記録しているし、多分本部でフォルちゃんも聞いていると思うよ」
僕は、一緒に頼んでいたショートケーキを一口食べる。
……うむ、ケーキ職人さん良い腕しているよ。日本からの輸入かな? それともこっちの職人さんだろうかな?
このところポータム界隈でも地球の食文化の研究が盛んで、地元の食生活も向上中。
その一端が、どうも僕と陛下の食レポもどきの話が関係しているらしい。
それに捜査室のメンバーから地元へ流れる話もある。
フォルなんかは、家で妹弟に僕の料理を参考にして調理をしているので、その話しが下町に広まるのも当たり前だろう。
「そ、そうなのか? なら、安心した。てっきりオレを殺人犯として捕まえる為に罠を張っていたのかと思っていたよ」
安心したのか、一口紅茶を飲み、その味に一瞬感動をしたルカ。
「まあ、罠っちゃ罠だよね。こうやって向かい合って話す為の機会を狙っていたからね」
僕は、にっこりと笑ってもう一口ケーキを食べる。
「じゃあ、机の下の拳銃は仕舞ってほしいけど」
ルカも安心したのか、ケーキを食べてほっこりとした顔をする。
「あら、ごめんなさい。一応、警戒してただけだからね。第一、撃つ気は全く無いけど」
僕は、隠していた拳銃を机の上に置いた。
……初弾をチャンバー送りしていないし、安全装置の解除もまだだし。でも、イイカンしているよね。
「じゃあ、お人好しのタケお兄さんに感謝して話すよ。何を聞きたいんだい?」
ルカは、怪盗としての華麗な顔を見せだした。
「では、まず最初に。ルカ君は自身の出生のヒミツを知っているんだよね」
「……! そうか。捜査室ではオレが誰の子まで調べているのか。ええ、そういう事です」
驚いたのか一瞬素に戻るも、すぐに怪盗として答えるルカ。
「それで、お父様の遺産の回収、そして叔父様の名誉回復の為に怪盗になったんだよね」
「ええ、その通り。僕は前モエシア領主と、下働きとして屋敷に入っていた母との間に生まれたそうです。ヴォリスキー伯爵には、母がお世話になっている主人という事で数回会った事がありますが、種族で差別する事も無く温和な方でした。奥様との間にはお子様が出来なかったそうで、今思えば僕の事を息子として見ていたのかもと思います」
ルカから聞く話は、それまでの調査内容とほぼ一致していた。
「なので、僕の片目には魔族種としての特徴、『竜眼』が出ています」
ルカは髪で隠していた右眼を露にしたが、そこにはリーヤと同じ金色で瞳孔が縦割れの竜眼があった。
「次元融合大災害時、ちょうど屋敷に居た母、そして領主夫妻は異界のバケモノ達の手によって亡くなりました……。そして、祖母に預けられていた僕も、災害後に病で祖母を失い、同じように災害で孤児となった子達と一緒に孤児院に入る事になり、そこでフォルちゃん達と知り合いました……」
訥々と途切れながら自身の半生を語るルカ。
悲しい事を思い出すのは辛いのだろう。
「ルカ君も大変だったんだね。あの災害は多くの悲劇を多くの世界で引き起こしたけど、僕の父は警官をやっていて、あの時に人々を助けて亡くなったんだ」
「え! そうなんですか。じゃあ。僕達は共にあの災害で……」
僕の事を知り、少し涙ぐんだ眼で僕を見るルカ。
「まあ、僕の場合は母が健在だったし、ルカ君よりは大きかったから、少しはマシだったかな。結局父の跡をついで警察官になっちゃったけどね」
僕は紅茶を飲みながら苦笑する。
音声を転送しているスマホをふと見ると、捜査室から日本語でメッセージが来ていて、フォルからは「ルカお兄さんを助けてあげて」、マムからは「ちゃんと証言取ってね」、リーヤからは「タケのお人好しは、筋金入りなのじゃ。でも此方、それが大好きなのじゃ!」とある。
……リーヤさん、堂々と公共電波使ってノロケは困るんですけどぉ。
「お互い父親の影からは逃れられないのかもですね」
「確かに」
僕とルカは苦笑し合った。
「その後、僕は孤児院からフォルちゃん達と共に地球式の学校へ通い、色んな事を学び知りました。その中には地球の物語があり、そこで怪盗モノを知ったんです」
「だから、怪盗スタイルが如何にも地球式なんだ。白ずくめなんて、まるで漫画やアニメの彼みたいだねぇ」
「ええ、実はそれも僕は読みました。キザなんだけど、凄腕の怪盗に少し憧れを抱いたんです」
……なるほど、これで怪盗スタイルが地球風なのも納得。キッド様かぁ。
「ルカ殿の背景が見え出したのぉ。早いうちに異世界版の漫画翻訳をしたワシの慧眼はすごいじゃろ?」
チエちゃんが関係していたのは、もう想定内ですよ
しかし、早い段階で異世界に地球式の学校が出来ていたんですね?
「これもワシの発案じゃ。せっかく地球からの支援が入ったのじゃ。今後の事を考えれば地球式の教育を取り入れることで、お互いの友好を示す形にしたかったのじゃ。それに孤児に新しい技術を覚えさせるのは、彼らの自立にも役に立つのじゃ!」
確かにモノを与えるだけの支援って大抵失敗していますものね。
大事なのは教育、これは世界が変わっても同じ。
「ふむ、では次の作品の題材には異世界教育モノなど、どうじゃ? 面白い題材になるかもなのじゃ!」
今、2作(VRMMO系、現代退魔モノ)ほどの新作案はあるのですが、考慮してみますね。
では、明日の更新をお楽しみ下さいませ。




