第11話 新米騎士爵は、怪盗紳士に出会う。
「怪盗だ!」
「隊長、来ました!」
庭の方で、警備していた私兵達が騒ぎ出す。
時刻を見ると午前0時直ぐ。
時計は貴族しか所有していないはずの異世界で、この正確さは異常。
明らかになんらかの情報端末、若しくは正確な時刻を夜間でも示せる携帯可能な時計を持っているとしか思えない。
「どれ、怪盗は何処かな?」
僕は庭で騒いでいる兵たちの動きをイルミネーターの暗視モードで確認する。
「ふむ、この視線の方向は……。え。直ぐ横!」
僕は驚いて屋根に設置されている通気用小窓から顔を出して、怪盗がいるであろう右側を見た。
「あ、綺麗だ。けど、これは……」
僕は、そこにいた怪盗に一瞬見惚れてしまった。
痩身だが、猫を思わせる引き締まった若い男性の体型。
その身を白系タキシードと青系シャツ、そして白マント、白いシルクハット。
そして白い手袋に包まれた右手には、いかにもなステッキ。
「あまりにもステレオタイプだよねぇ。でも、これは地球の物語を知っていないと真似できないぞ。案外、怪盗の正体は地球人……、じゃないな」
怪盗がヒト族と違うのは、その尻から立派なキツネ系の茶色の尾、そしてシルクハットの隙間から同じく茶色キツネの耳が見える。
また顔は目元を仮面で覆い、左眼はレンズ越しにはっきりと見えないが、裸眼の右目は金色の瞳がはっきりと眼光鋭く輝く。
「お集まりの諸君、夜分遅くすみません。今回は、異界技術捜査室の方もいらしているとか。これから始まります、怪盗アローペークスによるショータイム、お楽しみ下さいませ!」
怪盗アローペークスは、魔法による灯りを背後に左手でマントを広げてキザな台詞を放つ。
彼に向けて地上から弓矢が数本放たれるが、彼に当る直前で、あらぬ方向へ吹き飛ばされる。
「無粋な飛び道具はご勘弁を。横で見ている坊やも、そんな危ないものはやめて下さいね」
怪盗は、身隠しのマントで見えないはずの僕の方を向き、右目をウインクした。
……あれ、矢避けの魔法だよね。それに背後に浮かしているのは、魔法の光。こいつ、高度魔法使いだ。
「坊やとは、聞き捨てならないですねぇ。僕、これでも四捨五入したら30なんですけど」
僕は、隠れている意味が無いので身隠しのマントを脱ぎ、小窓から大きく身体を出して拳銃を怪盗に向けた。
……挑発には、お相手しましょうか。それにここで時間稼ぎするのも良いですし。
「あら、それは失礼。地球人、特に日本の方は年齢が分からないので、間違えてしまいました。では、どうしますか? 僕を撃ちますか?」
怪盗は、瞳孔が縦の金色で、何処か「いたずらっ子」っぽい右眼で僕を見る。
……あれ、あの眼は魔族種の竜眼! じゃあ、こいつは魔族種と獣人種の混血? それなら、魔法を使いこなすのも理解できるけど? しかし、僕の事を日本人って、どうして知っている?
「出来れば撃ちたくは無いです。それにゆっくり話していたら、下から金貸しの私兵が上がってきます。彼らは貴方を殺すつもりです。なので、僕達に捕まって頂ければ貴方の命の保障は致します。まだ捕まるつもりが無いのでしたら……」
「へー、そんな事まで教えてくれるのですか? まるで僕に生きていてほしいと言っている様ですね」
僕は怪盗と話していて、彼の事を何処かで会っていたような気になる。
その魔力というか気配に覚えがある。
人が良さそうだけど、影があってどこかキザっぽい。
……いつ会ったんだろう? 獣人と魔族の混血? そんなの会った覚えは今までに無いよね。キツネ系の獣人って、……あ!
「ええ、ウチのフォルちゃんの幼馴染を殺させる気にはなりませんよ。ルカ君、キミには色んな事情があるんだろうけれど、盗みは良くないよ」
僕はあえて、勝負に出た。
……これで正体をばらしてくれたら、簡単だけどね。
「え、ルカお兄ちゃんなの!」
イルミネーター越しにフォルの驚いた声が聞こえる。
「……そ、そうか。タケ兄さん、何処で僕、いやオレだと分かったのかい?」
一瞬躊躇した後、怪盗アローペークス、いやルカは正体を明かした。
「カンと言えば良いかな? 僕達がここに来ていることを知っている、キツネ系獣人である、帝都から最近ポータムへ仕事で来ていた、過去に色々あった。まー、こんな連想からのバクチだったのだけどね。あ、そろそろ危ないから捕まるか、逃げるのか決めてよ。もう私兵共がこっちに近づいて来てるよ」
僕は、後ろからドタドタという足音とヴラドレンの「早く、殺せー!」という声が聞こえるのを怪盗に知らせた。
「え、逃げちゃって良いの? キミ達はオレを捕まえに来たんだよね」
僕が逃げる事を指示したので、びっくり声の怪盗。
「今回の第一目標は、ヴラドレンの悪事の発見・逮捕、第二目標はキミの犯罪阻止、第三目標がキミの逮捕なんだよ。なので、キミが盗む予定の何かさえ教えてもらったら、ヴラドレン逮捕時に回収するよ。まあ、キミが持ち主でも直ぐには返せないけどね。さあ、早く決めてよ」
僕は拳銃の銃口を怪盗から外して、怪盗に行動を促した。
「は、ははは! キミ、いやタケ兄さんは、お人好しと言われないかい? 何処の世界に、泥棒を捕まえずに逃げろっていう警察がいるんだい?」
「ここにいるんだけどね」
僕達は笑いあう。
「タケ、怪盗と和んでいる暇があったら此方を手伝うのじゃ! これ以上時間稼ぎするのは、しんどいのじゃ!」
イルミネーターからリーヤの悲鳴が聞こえる。
リーヤ経由の映像を見ると、屋敷廊下を氷像が蓋をしてヴラドレンがこちらに来るのを妨害している。
「リーヤちゃん、そいつらの反対側も蓋しておいてね。ヴラドレンが帰ってこない間に、こっちは汚職に関する資料集めておくわ」
今度はマムからイルミネーター越しの命令が聞こえる。
……マム、実にエゲツナイですぅ。
「どうやら下の連中、しばらくは大丈夫っぽいです。ルカ君、怪盗になった事情を教えてくれませんか? 僕達で出来る事ならお助けしたいと思います。もちろんルカ君には正統な裁判を受けて頂き、罪を償って頂いた後になりますけど」
僕は拳銃を仕舞い、怪盗アローペークス、いやルカに手を伸ばした。
「実に魅力的な提案ですが、今日のところは遠慮させて頂きます。オレを捕まえられなかった代わりに、オレが盗む予定だった秘宝の確保を御願いしますね。それは宝物庫にある宝剣、宝石が沢山ついた短剣です。大事なものなので、受け取りに来るまでに保管宜しく御願い致します」
ルカは一瞬仮面を外して、両の目で僕の顔を見て頼んだ。
「では、今回の怪盗ショーはこれまで! 捜査室の皆様、またお会いしましょう!」
そう舞台演劇のように叫ぶと、仮面を再び装着した怪盗は真っ白な煙に包まれた。
「あ! もーしょうがないなぁ。はい、短剣の件は頼まれました。もう危ない事はしないで下さいね」
僕の答えを聞いたかどうか、怪盗は煙が去った後には、もう居なかった。
「さあ、これからが大変かもね。リーヤさん、今から手伝いに行きます!」
「タケ、遅いのじゃー!」
僕は、苦笑いしながらリーヤのところへと走っていった。
「案外、早く正体を現したのじゃな?」
ルカくんも、タケくんや捜査室の事を先に言い当てちゃってますからね。
そこから違和感を感じて、よく見れば自ずと分かります。
「まあ、キツネだと自分から正体を言っておったし、作者殿の事だ。いかにもなフォル殿の幼馴染をいきなり登場させたら、答えを最初から言っているのも同じなのじゃ!」
思考が単純で、ごめんなさいね。
「いや、『なろう』で高度な推理ドラマは、愚か者のするパターンなのじゃ。単純くらいの方が良いのじゃ!」
それ、メタ発言にも程があるんですけど?
「ワシは、存在がメタ。どこからも自由な魔神将なのじゃ! 問題なしなのじゃ!」
とまあ、困ったチエちゃんです。
では、明日の更新をお楽しみに。




