第10話 新米騎士爵は、怪盗を待ち受ける。
「こちら、タケ。CP、準備完了です」
僕は屋敷の屋根裏、換気用の小さな小部屋の中で、凄腕の暗殺者ユーリの遺産たる身隠しのマントを被って待機をしている。
「CPフォルですぅ。タケお兄さんを最後に全員持ち場に付いていますよぉ」
今回の事件、なんとしても金貸しヴラドレンの私兵達よりも早く、僕達が怪盗アローペークスを逮捕・保護する必要がある。
さもないと、怪盗が殺されて、口封じをされてしまう。
一応、私兵を指揮するブルーノには圧力をかけておいたので、さすがに僕達が捕まえるのを邪魔はしないだろう。
……怪盗さんから証言取れたら、沢山の不正が見つけられそう。
「了解です。では、指揮を宜しくね、フォルちゃん!」
「はいですぅ」
建物の周囲には、魔法で不可視になったドローンが沢山飛行している、
本来であれば盗難される物が収蔵されている宝物保管庫にも、カメラやらセンサーを仕込みたかったのだが、ヴラドレンは僕達の宝物庫への侵入を一切認めなかった。
……そのかわり、昆虫型のセボット(センチ単位のロボット)は既に仕込んでいるんだけどね。それにギーゼラさんも室内に潜んでいるし。
建物外からの磁気、電波測定で貴金属の所在地は確認済みで、そこにはセボットが進入、待機済み。
ヴラドレンが滞在する執務室には、ギーゼラが影に潜んで待機している。
マムも表向き作戦の連絡員として執務室にいるが、あくまで予備。
最悪、ヴラドレンと怪盗が戦闘になった場合の犯人確保、そしてヴラドレンらが留守にした後の重要書類確保がギーゼラの任務である。
様は、この隙を狙って、一気にヴラドレンの不正まで暴こうというのが、今回の一石二鳥作戦。
僕達としては、怪盗が無事かつ盗難の阻止が出来れば、怪盗を逃がすのは構わないとマムや陛下から指令が出ている。
どっちかというと、悪徳金貸しの逮捕の方が優先だったりする。
……陛下も怪盗は絶対殺してはならぬ、逃がしても良いって言ってたし。
僕達はブルーノの話を聞いた後、夜分遅いながら無理を言って少年皇帝に連絡を付け、そこで新たな命令を貰っている。
それが、金貸しヴラドレンの逮捕。
怪盗の今までの犯行からヴラドレンが何らかの悪事に加担しているのは間違いない。
実際、ヴラドレンが関係する人物で自殺や不審死をした人物が複数居る。
そういう訳で、怪盗の逮捕よりもヴラドレンを逮捕した方が民衆受けも良いというのが、政治的理由。
あとは、陛下、個人的には怪盗のファンで、いつか一緒に時代劇ゴッコやって悪徳役人の屋敷に殴りこみしたいんだそうな。
なので、絶対殺させるなという命令付き。
……まあ、陛下らしいっていうか。
僕は思い出し笑いをしながら、夜目に慣らす為に赤色にしていたポケットランタンの光量を落とした。
「さあ、怪盗がどんな姿なのか。楽しみだねぇ」
僕は、ライフルの二脚をセットし、通風窓から騒がしくしている屋敷の庭園をイルミネーターの暗視モードで眺めた。
◆ ◇ ◆ ◇
「おい、本当に警備は大丈夫なんだろうな?」
「ええ、そのはずですわ。すでにウチのメンバーが展開していますの。本当なら宝物庫にも待機させたかったですのに」
痩せぎすで神経質そうに見える魔族種、ヴラドレンは執務室の豪華な椅子に座り、前に立っているエルフ女性に文句を言う。
しかし、優美なエルフ女性も負けずに、言い返す。
「あ、アソコには部外者は絶対に近づけさせないのだ。ワシの腹心が待機中だから絶対安全だ! しかし、子供ばかりのおまえらが本当に陛下直属なのか?」
ヴラドレンは、誤魔化すように早口で話し、逆にエルフ女性の弱みを探すように文句を付けた。
「うふふ。確かにウチの子達は若いですが、優秀ですよ。この事件が終わったら、その優秀さを『別の意味』で教えてあげますわ」
エルフ女性は、口元を手で隠して魔族男を嘲笑した。
……マムってとっても怖いのぉ!
影に潜んで室内に待機してたドワーフ娘は、エルフ女性の言っていた「意味」を理解して怖がった。
◆ ◇ ◆ ◇
「もうすぐ時間だが、準備は良いか?」
「あいよ!」
「ああ」
ブルーノは、庭に設置されている臨時指揮所の中で、いまひとつ反応が薄い雇われ兵共を見て心配になる。
……こいつらの大半も俺と同じく借金のカタに働かされているんだろうな。
士気が低い兵を使っていては勝てる勝負も落とす場合が多い。
「といって、アイツらは別の意味で心配なんだよなぁ」
誰にも聞かれない小声で愚痴るブルーノ。
彼の視線の前には、舌なめずりをするようにナイフを眺めている小男や、妙に緊張感をもったまま弓を手入れしている暗黒エルフ。
「坊や達は、怪盗を絶対に殺させない様に動くんだろうなぁ。俺、板ばさみだよ」
なおも、愚痴るブルーノ。
彼の心情的には、タケ達異界技術捜査室に近い。
怪盗といっても人殺しまではしない相手、殺す必要もあるまい。
その上、捜査室にはブルーノは、命を救ってもらったという個人的なカリがある。
そして、捜査室の圧倒的な戦力を考えれば、敵に回す事は考えたくも無い。
「隊長、来ました!」
「お! 全員、いくぞ!」
ブルーノは気持ちを切り替えて、走った。
「いよいよ怪盗の登場なのじゃ。まあ、ワシは大体予想しておるが、どうくるかのぉ」
チエちゃん、頼みますからネタばらしはご勘弁を。
「そこはワシも分かっておるのじゃ! では、明日の更新をお楽しみになのじゃ!」
毎回、台詞取られるの困るぅ。
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