第9話 新米騎士爵は、事情聴取をする。
「で、ヴラドレン氏は怪盗を殺せと言ったのですね」
「ああ、そういう命令が出ている。宝を守るよりも優先で、警察や騎士団には気づかれずにヤレともな」
シームルグ号に連れ込まれたブルーノはマム、リーヤ、僕から睨まれて、色々自供をしている。
「普通は宝や金を絶対守れですよね。それよりも怪盗を殺すのが優先なんておかしいですね。怪盗に生きていられたら、ヴラドレン氏には何か不味い事でもあるのでしょうか?」
「そ、それは俺も知らない。ほ、本当だから、その物騒なものを突きつけるのは辞めてくれないか、お嬢ちゃん」
僕の質問に怯えながら答えるブルーノ。
彼にはリーヤが拳銃を突きつけている。
「此方、怒って居るのじゃ! タケに害を成すもの全部、此方の敵なのじゃ!」
ガルルと吼えそうな勢いで鼻息も荒いリーヤ。
しかしよく見ると拳銃の安全装置は入ったままだし、トリガーに指は掛けていない。
……なるほど。リーヤさん、口で言う程は怒っていないのね。相手に脅しをかける意味でのポーズなのか。たぶん初弾もチャンバーに送っていないし、アレじゃ撃てないよね。
僕は案外リーヤが冷静なのを安心しながら、机の下で冷酷にブルーノを拳銃で狙う。
ブルーノが、いかな人が良さそうでも、油断は禁物。
特に魔法戦士とあらば、一瞬の隙が命取りになりかねない。
「わ、分かったよ。ちゃんと答えるから撃たないでくれって」
「僕は、ちゃんと答えてくれたら良いです。リーヤさんもそうですよね」
「当たり前なのじゃ! 此方はタケの婚約者なのじゃ! タケを守る為には手加減なぞせぬのじゃ!」
えっへんという顔のリーヤ。
普段なら火の玉等の魔法で脅すのだが、今回は狭い車内なので、拳銃にしたのだろう。
「では、お聞きしますが、ブルーノさん。どうして拳銃や銃火器の事をご存じですか? ポータムに住む人でも、殆どの人は知らないはずなんですけど?」
僕は、まず疑問に思った事をジャブとして聞いてみた。
雑談風に答えやすい事から聞くのが尋問としても効果があるだろうから。
「それはな、坊主の活躍のおかげで、俺は命拾いをしたからなのさ。帝都に迫った怪物を坊主、いやタケ殿が銃だけで倒したのを帝都門の向こう側で見たんだよ」
意外なところで、僕とブルーノには縁があったらしい。
「あ! あの時の門の下で戦っていた兵士の中にブルーノさんがいらっしゃったのですね」
「そうだ。あの時は助けてもらって、ありがとう。あの後、俺は自分の力不足を感じて修行をするために、軍を辞めたのさ。そして色々と修行をして今があるんだ」
どうやらブルーノは、帝都動乱時に門の近辺で兵士として邪神生物と戦っていたらしい。
……なら、その修行で魔法も身に着けたのかな?
「それで魔力感知やらを身に着けたと?」
「ご名答、俺には、案外魔法の素質もあったんだとさ」
……ふむ、そんな優秀な冒険者がどうして金貸しの護衛なんかやっているんだろう?
「では、そんなご立派なブルーノさんが、どうしてよりもよってヴラドレン氏なんかの護衛なんてやっていらっしゃるんですか?」
「う、それを聞いてくるか。修行中に軍の退職金も無くなって、仕方なくヴラドレンから借金をしたのさ。そして今は借金の利子を払うべく、こき使われているんだよ」
情けそうに両手を上にあげてまいったポーズをするブルーノ。
聞いてみれば、つじつまは合う話である。
「マム、この辺りの話信じますか?」
「そうねぇ、まあ信じましょうか。で、ヴラドレンがどうして怪盗を殺したがっているというのまでは知らないのね」
マムは鋭い視線でブルーノを射抜く。
「ああ、俺はその辺りの事は何も知らない。俺には雇っている私兵の指揮を頼むとだけ言っていた。一応、俺は軍でも小隊長くらいはやっていたからな」
マムの殺気にぶるっと震えるブルーノ。
「分かりました。では、マム。こちらとしては怪盗を逮捕・確保で良いんですよね」
「ええ。わたくし達は、事件の阻止は言われていますが、殺害指示は出ていません。たぶん、陛下辺りが怪盗と話したいから直接連れて来いって言いそうね。では、そろそろ警備に戻りましょうか。ブルーノさんもありがとうございました」
苦笑しながら話を切り上げるマム。
「おい、じゃあ俺はどうしたら良いのさ? 雇い主には従わなければならんから、俺のチームは怪盗を見つけたら殺すぞ」
「そんなの分かりきってますわ。その前にわたくし達が怪盗を逮捕確保するのです。そうすれば、怪盗はわたくし達の保護下。それを害するのは領主、引いては陛下に弓引くと同じ。わたくしが話した意味は分かりますわよね」
ニヤリとしながらブルーノを威圧するマム。
「わ、分かった。それなら流石にヴラドレンも文句は言うまい」
一応、納得したブルーノ。
「大丈夫よ。たぶん、どう転んでもブルーノさんの借金は無くなりますから、ヴラドレン氏から自由になりますわよ」
そう言ってマムは席を立った。
「おい、それは一体どういう意味かよ!?」
マムの発言の意味が理解できないブルーノは、車内から去るマムの背に声をかけた。
「それはね、ヒ・ミ・ツ」
マムは振り返り。右手人差し指を立て、ピンクの唇に当てて可愛く呟いた。
「マムは、なかなかやるのじゃ。しかし、タケも見事なものじゃ。油断もせずに相手をいつでも撃てるように待機とは、すごいのじゃ!」
タケ君も色々経験して、お人好しでも油断はしないようになってきているんですよ。
それにリーヤちゃんもお勉強してますよね。
「ワシは分かるのじゃが、読者の方にリーヤ殿がどう勉強しておるのか説明したほうが良いのじゃ」
ですね。
では、補足説明します。
リーヤちゃんが、どんな勉強をしていたのか。
銃には安全装置、セーフティ機能が大抵のものに付いています。
でないと、事故で撃ってはならないものを撃っちゃう事もあります。
特に携帯する拳銃では、ほぼ必須。
リーヤちゃんが使っていますP320JPは、拳銃の扱いに慣れていない日本警察用に引き金と遊底を固定するマニュアルセーフティが追加装備されています。
今回リーヤちゃんは、ブルーノさんに向けた拳銃のマニュアルセーフティを掛けたままです。
更に自動拳銃では装弾をしても、スライドを引いて初弾をチャンバーに送らないと撃てる状態になりません。
これもリーヤちゃんはやっていませんから、初弾も入っていなければ弾を叩く撃鉄も上がっていません。
その上、トリガーに指を掛けていないので、分かる人間からすれば撃つ気が無い、ブラフでの脅しなのは分かります。
まあ、異世界人でこれを知っているのは、捜査室の面々くらいでしょうね。
「リーヤ殿もタケ殿に褒めてもらいたいから、銃の扱いも勉強したのじゃろうて」
たぶん、この後の話で褒めてって言っていることでしょう。
以上、説明終わりです。
「では、明日の更新をお楽しみなのじゃ。そろそろ怪盗も出てくるのじゃ!」




