第5話 新米騎士爵は、猫娘の妹弟と話す。
「ふぅ。お茶、ありがとうフォルちゃん。美味しいね」
「ふむ、茶葉は一般品じゃが、入れ方が見事なのじゃ!」
僕とリーヤは、フォルの家に来て一休み中だ。
「いえ、お茶は妹のチェーリアが入れてくれたんですぅ。最近では、家事は妹の方が上手いですからぁ」
フォルは妹弟の方を温かい目で見ている。
「おねーちゃん! あたしは、まだまだだもん。いっぱい練習しているけど、お貴族様にお茶をお出しするのは難しいのぉ」
フォルの妹、チェーリア。
フォルより更に華奢な感じだが、栗色の少し長い毛並みが綺麗だ。
聞いた話ではフォルの4つ歳下、体型が女の子らしくなってきている13歳だ。
「あら、リア。貴方が今お茶を御出ししたのは全員、正真正銘のお貴族様なんだけどぉ? わたしお話していたよねぇ、お隣の領主ご令嬢様と一緒に仕事をしているってぇ。それに一応、わたしも騎士爵を陛下から頂いたの」
フォルは、コロコロと笑いながら妹に話す。
「え! あ、そういえばお嬢様には羽と尻尾があるのぉ! アタシ、ご無礼を……」
リアは、顔を青くしてリーヤに謝る。
「別に何も問題は無いのじゃ! 十分上手く茶を入れておるのじゃ。年齢からすれば、見事な腕前のじゃ! これは、どこかで習っておるのかや? 独学ではあるまい」
リーヤはニッコリとリアに笑いかけて、茶を飲む。
「は、はいです。アタシは姉のおかげでメイドの専門学校へ通っていますぅ」
最近、ポータムでも地球や帝都からの客を迎えることが多くなり、そこで接客をするメイド、執事等側仕え的な仕事の需要が増えている。
なので、そういう職業を魔族種だけで賄うのは手が足りなくなり、専門学校で技術を習得した一般市民がその役目をする事例も多くなってきている。
リアも、そういう学校に通っているので、茶の入れ方も上手いのだろう。
「そうなのかや、リアちゃん。うむうむなのじゃ。ほれ、そこの固まっておる弟君。名前は、なんと言うのじゃ?」
先ほどのお貴族発言でびっくりして固まったままの男の子。
黒髪猫のまだまだ可愛いさかり、小学生高学年くらいの坊や。
「ボ、ボクはラ、ラウロと言います、お嬢様」
ガチガチな様子が実に可愛い。
「うむ、ラウロくん。宜しくなのじゃ。2人とも此方の事はリーヤと呼ぶと良いのじゃ!」
リーヤは、にっこりとラウロに最上級の笑みを向ける。
それを見て、先ほどまで真っ青だったラウロの顔が真っ赤に変わるのを僕は見た。
……あらぁ、見惚れちゃったか。まあ、外見年齢は似たようなものだものね。でもね、リーヤさんは僕のモノだよぉ。
〝幼子に嫉妬は、恥ずかしいのじゃ〟
僕の内心呟きに、ニタニタとした顔で念話突っ込みをしてくるリーヤ。
……リーヤさん、チエさんに手口が似てきてませんか? 少々悪趣味ですよぉ。
〝え、それは困るのじゃぁ!〟
弄られ返しをして、慌てるリーヤが可愛いのを横目で見ながら、僕はフォルに気になった事を聞いた。
「フォルちゃん。さっき会った男の人、近所に居た人だって言っていたけど、どういう人なの? 見た感じでは良い人には見えたんだけど、何処か影というか、そんなものを感じたんだ」
「ルカお兄さんですよねぇ。9年前までは、こことは別の場所だけど、近所に住んでいて可愛がってもらったのぉ。お母様とお婆様と一緒に暮らしていたんだけれど、お母様はお仕事で前の領主様の御宅へ行っていた時に、皆……。その後、お婆様も御病気で亡くなって、わたしと同じく保護者を失ったルカお兄さんは、孤児院に入ったのぉ」
フォルは僕へ回答をしながら、少し寂しそうな表情で自分の左右に座る妹弟の頭を撫でる。
「あ! ごめんなさい。フォルちゃんや妹、弟さんに辛いことを思い出させる様なことを聞いちゃって」
僕は、聞いてはならない事を聞いてしまったのをフォル達に謝った。
「タケや、もう少し聞くタイミングというのも考えるのじゃ。幼子まで巻き込むのはダメなのじゃ!」
僕は、リーヤにも叱られてしまった。
「いえ、気になさらないで下さい。大丈夫だよねぇ、2人ともぉ」
「うん、おねーちゃん。アタシは、ぼんやりとしか覚えていないよ。カッコいいおにーちゃんとおねーちゃん達が助けてくれたんだよね」
「だいねーちゃんやちぃねーちゃんは、まだいいよぉ。オレなんてとーちゃん、かーちゃんの顔も殆ど覚えていないもん」
もう9年というが、まだ9年。
あの厄災は、異世界だけでなく地球も、そして他の数多くの惑星に傷を残した。
まだまだ復興が行われていない地域は、地球上ですら存在するのだ。
「本当にごめんなさい」
僕は、土下座をしそうな勢いで3人に謝った。
「タケお兄さんもお父様をあの災害で亡くされているんですよねぇ。お互い様ですよぉ。わたしも先日タケお兄さんのお母様から色々お話聞きましたしぃ」
僕が頭を上げてフォルの顔を見ると、いつもの童顔では無く、母の慈愛を感じさせる表情をしていた。
「だからだいじょーぶですぅ。さて、ルカお兄さんですけれど、私が日本の学校に行った後に孤児院を離れたと聞いていますぅ。そこから先は連絡が無かったので、今日後の事は初めて聞いたんですぅ」
あのルカという青年、彼に何か悪い事が起きなければ良いなと、僕はふと思った。
今回は200話の記念回です!
「ほう、タケ殿も良い眼をして居るのじゃ。流石はスナイパーなのじゃ!」
チエちゃん、先走りは勘弁してくださいな。
「ワシは別に種明かしをした訳では無いのじゃ! 後は、どう物語に仕上げるのか、作者殿の腕前次第なのじゃ! 励むのじゃぞ。ワシらは作者殿が書かなければ動けぬ存在なのじゃ!」
確かにそうなんだけど、チエちゃんは自由ですよね。
「そこはワシが偉いのじゃ!」
はいはい。
という事で、明日の更新をお楽しみに。




