第1話 幼女は、見合いに文句を言う。
第二章の開幕です。
今回は、のじゃ悪魔っこリーヤちゃんのお見合いから始まる物語です。
どうぞ、可愛いリーヤちゃんをご覧下さいませ。
「もー、なんで此方が、見合いなぞせねば成らんのじゃぁ!!」
何回も車内で同じ話題を叫ぶリーヤ。
「別に必ず婚約をしなくてもいいのでしょう? でしたら、会うだけ会って、お父様のお顔を立ててあげても宜しいのでは無いですか?」
僕は轍にハンドルを取られないように運転をしながら、助手席に座るリーヤに話しかける。
今は、リーヤの実家のある隣領へ石畳の街道を僕の運転で移動中。
「タケは、ずっとそればかり言うのじゃ! 其方は此方が捜査室から居なくなっても構わぬのか?」
ぷんぷんモードのリーヤ、文句を言う相手が今は僕しかいないから、八つ当たりをする様に話す。
……膨れっ面も可愛いんだけど、それを言っちゃうと絶対怒るよね、リーヤさん。
「そりゃ、リーヤさんと会えなくなるのは寂しいですよ。でも、魔族の寿命を考えたら、僕が生きている間に御結婚というのは、ありえないでしょう?」
魔族は、大体1000年くらいの寿命を持つ。
特に魔力が多いリーヤ達上級貴族クラスだと、さらに長い可能性が高い。
その為か、リーヤは100歳を超えていても、未だ幼女の姿のままだ。
「タケや、此方は堅苦しい魔族や貴族の仕来りがイヤで家出をしてきておるのじゃ。毒に気をつけて冷たくなった料理を食べるような暮らしは、もー嫌なのじゃ!」
……そういえばリーヤさんってば、いつも僕が作った料理をお行儀も気にせず躊躇なく食べているよね。
「表面的には笑いながら、裏ではナイフを隠し持つ様な貴族同士の付き合い、仮面舞踏会なぞ、此方はしとうも無いのじゃ。今のように其方らと裏表なくふざけ合える関係が良いのじゃぁ!」
涙目になりながら、自らの立場を悔やむリーヤ。
「どうせ次女の此方は、政略結婚の道具、生贄にしかならぬ。毎日、やれ仕来りがどーとか、マナーがどーとか、立ち振る舞いがどーとか。そんなの、もーまっぴらなのじゃ。じゃから、此方は喧嘩別れの形で家出をしたのじゃ!」
一見、気楽に権力を振り回しているように見える貴族にも、複雑な事情がある。
もともと貴族が義務を負う、いざと言うときは領民を守るために剣を握る、そこから貴族は成り立っている。
こと、近年地球文化の流入、情報化により庶民の不満が爆発しやすいため、その責務とプレッシャーは大変であろう。
「お父様が此方の事を思ってくださって、家出や捜査室で働くことを黙認してくれておるのは、重々理解してはおる。しかし、それも此方が成人するまでなのじゃ。後は以前どおり、籠の中の鳥なのじゃ!」
……なるほど、自分の我儘をお父様が許してくれているのは理解しているんだね。だから、嫌々言いながらも実家へ帰っているんだ。
「平民、それも地球生まれの僕では、リーヤさんのお立場を全部理解する事はできません。立場には義務が生じる、そして誰しも立場はあります。リーヤさんが貴族の家に生まれた以上、そこからは逃れられないのかもしれません」
僕の言葉に、リーヤの表情は曇る。
「しかし、逆に言えば僕は、ここの身分制度からは全く関係無い存在です。だから、僕は何があっても、これからも今までと同じくリーヤさんの友人でいますよ」
今度は僕の言葉に目を輝かせるリーヤ。
「じゃあ、タケはずっと此方の側に居てくれるのか!?」
「僕自身は居たいですね。少なくとも今の仕事をしている間は、必ずリーヤさんのお側にいますよ。そうですねぇ、僕がもし首になったり、日本への強制帰還命令が来たら、リーヤさんは僕を個人的に雇って頂けますか?」
僕は、冗談半分にリーヤに聞いてみた。
実際僕にとって、この異世界には知りたい事や見てみたいことが、まだまだいっぱいなのだから。
「もちろんじゃ! タケ、其方の事は此方が一生面倒を見るのじゃ! 其方のような面白い『玩具』、他の誰にも渡しとうないのじゃ!!」
……アレ? これ、かなり不味い発言しちゃったのかな、僕。
「そうか、タケは此方と一緒に居りたいのかや。うふふ。ならば貴族社会も怖くないのじゃ。タケと一緒に社会改革をして、より良い社会を作り上げるのじゃ!!」
……そうか。僕、さっきの一言で一生を決めちゃったんだ。母さんごめんね、僕は地球では結婚できないかもしれないや。
「ちょ、リーヤさん。暴走しすぎです。僕自身にそこまでの力は無いですから。それに悲しいけど、僕の方が先に死んじゃいますよ」
「まあ、寿命については今更しょうがないのじゃ。どうぜ、タケが生きている間には此方は成人を迎えまい。それまでの間に様々な事をしていく時間があると思えば、十分なのじゃ!」
さっきまでの泣き顔からドヤ顔に変化して、くるくると頭脳を暴走させるリーヤ。
「それとも此方に一生を支配されるのは嫌かや、タケよ?」
「嫌とか言う以前にリーヤさんがそんなので良いのですか? あまり言いたくないですけれど、リーヤさんが地球生まれの余所者を飼って、キズモノにされたって噂されますよ」
……僕自身は、リーヤさんの事は可愛いし、一緒にいて楽しいとは思うよ。
けど、世間の目はボクをロリコン扱いして、リーヤさんを襲う様に見かねない。
僕自身、どう思われても構わないけど、リーヤさんに傷が付くのは嫌だよ。
「なんじゃ、そんな事を気にしておるのかや。あ、もしかしてタケは此方を抱きたいのかや?」
……ちょ、いきなり何を言うんですか!
思わずハンドルを握る手に力が入ってしまう僕。
「そ、そんな事は……、あるはずないじゃないですかぁ! 確かにリーヤさんを可愛く思うことは、いつもですよ。けれど、僕はリーヤさんの事を、そういう対象としては見ていませんからぁ!」
「そうか其方は、此方の身体には、まだまだ『せくしーさ』とやらを感じぬのか。残念じゃ! しかし、此方の事を可愛いと言ってくれたのは、とっても嬉しいのじゃ!」
自分の真っ平らな胸を見た後、満面の笑みで僕を見るリーヤ。
「何、心配せぬでも其方の結婚云々まで口出しをする気は無いわい。まあ、此方のお眼鏡に止まるような女子でなければ許さぬがな。なんならお見合いの斡旋もするのじゃ!」
うふうふとしているリーヤ。
「すいません、そこまでご面倒を見てもらう訳には……。というか、リーヤさんのお見合い話のはずが、どーして急に僕の見合い話になるんですかぁ!」
「じゃって、此方の事よりも其方の事を考えた方が面白いのじゃ! さて、タケや。契約の先払いじゃ!」
ちゅ!
左頬に何か柔らかい感触がした。
「え、えぇぇぇぇぇぇぇ!!」
……ハ、ハンドルがぁぁぁぁ!
「これで其方は此方のモノじゃ。さあ、これからの事を考えるのじゃ! そうじゃ、此方は日本語が話せるのじゃから、日本への駐在外交官になれば良いのじゃ! さすれば、貴族としての体面もつくし、其方も実家へ顔出しやすいし、此方も美味しいもの食べられるのじゃ!」
僕はハンドルを必死に抑え込んで、事故にならない様に何とか車を立て直す。
しかしながら、リーヤが僕にキスするとは全く思わなかった。
「ちょ、リーヤさん。いきなり何しでかすんですかぁ!! シートベルト締めてますよねえ? こんな事されちゃったら事故しちゃうじゃないですかぁぁぁ!」
しかし、僕のそんな動揺を一切気にしていないリーヤ。
「うふふ。そうじゃ、お父様にもタケの事、報告するのじゃ!!」
「もー、リーヤさんってば、勘弁してぇぇぇぇ!」
まだしばらく車中は賑やかになりそうだ。




