第4話 新米騎士爵は、フォルの買出しを手伝う。
「タケお兄さん、すいません。買出しにお付き合いして頂いて」
「いえいえなのじゃ。タケは、困った人を助けなければ気がすまないのじゃ。じゃから、フォルちゃんは気にせぬで良いのじゃぁ!」
「えーっと、リーヤさん。それは僕が返事する案件なんですけどぉ」
僕達は今、ポータムの市場に来ている。
ザハール様と僕の母との顔合わせは無事に終了、母と妹は日本へと帰った。
どうやら翻訳ソフト経由だけれども、母とリーヤのお母様は、定期的に電話をしているらしく、お互いの娘の問題で愚痴りあっているそうだ。
「わたしぃ、そんなの問題おこさないもん!」
「此方、そんなにお母様を困らせたのかのぉ?」
対象の乙女2人は、文句を言っている様だが。
「捜査室用じゃなくて、ほとんどがわたしの買い物なのに、お手を煩わせてごめんなさい」
フォルは僕にぺこぺこと謝る。
「リーヤさんじゃないけど、気にしないで下さい。僕が好きでやっているんですから」
「そうなのじゃ、こんな事を大変に思うほど、タケの度量は狭くないのじゃ!!」
毎度恒例のドヤポーズで自慢げに言うリーヤ。
言うまでも無く、リーヤは手ぶらだ。
フォルも、自分より小さなリーヤに荷物を持たせる気も無い。
……リーヤさんは暇だからと僕に付いてきたけど、もしかしたらフォルちゃんと僕が2人きりになるのに焼餅したのかなぁ? まあ、元々姉妹のように仲が良い2人だから、ただ単に手伝いの意味で来たのかな?
僕は、よいしょと荷物を持ち直す。
大半は生鮮食品、フォルの家族用のものだ。
……しかしリーヤさんてば、僕をまるで自分と同じみたいに自慢するんだよねぇ。まだ僕達は結婚もしていないのに、もう嫁のつもりなのかな?
僕は手荷物を多く抱えながらも、そんなリーヤが可愛くて笑ってしまう。
「何が可笑しいのかや、タケや? 荷物が重すぎておかしくなったのかや?」
そんな僕の様子を不審そうに見るリーヤ。
「いえいえ、リーヤさんが僕の事を自分の事のように自慢げに言うのがおかしくて笑ってしまいまして……」
「あ、そ、そんなのは当たり前なのじゃ! タケは此方の婚約者なのじゃからな!」
真っ赤な顔で、なおもドヤ顔をするリーヤ。
そんな様子を見て、フォルも笑ってしまう。
「うふふ。お2人ともご馳走様ですぅ。じゃあ一旦荷物をウチに置きに行きましょう。あばら屋ですが、お茶くらいはお出し出来ますぅ。どうぞ休憩しましょう」
フォルは市場近くの自宅に僕達を案内する。
因みに、捜査室にもフォルの自室はあるが、着替えとかを置いてあるくらいで、余ほどの事が無い限りは自宅に帰っている。
……まだ小さな妹さんや弟さんが心配だものね。
「そんなに謙遜する事は無いのじゃ! フォルちゃんも陛下から公安保安官助手に騎士爵の役職を正式にもろうたのじゃろ。じゃから、此方と同じ公僕、貴族なのじゃ! それに此方は元々身分は気にしないのじゃ!」
「そうそう。妹さんや弟さんを1人で養っているんですから、フォルちゃんは偉いんです」
リーヤは、何も気にしないでも良いとフォルに言い、僕もそれに同意する。
「ありがとうございますぅ。多分、今は妹弟も居ますから、煩いかもしれません」
そうフォルは話し、市場の雑踏の中を歩く。
「あ、ごめんなさいぃ」
そんな時、四つ角で右側から来た痩身の若い男とフォルが、ぶつかりそうになり、尻もちを付く。
「いえ、オレこそ……。あ! もしかしてフォルかい?」
「え……。うそぉ、ルカお兄ちゃんなの!」
犬、いや狐っぽい耳と尻尾を持つフォルタイプの獣人が、びっくりした顔でフォルを見ている。
そしてフォルも手を差し出した彼の顔をまじましと見ている。
「フォルちゃん、大丈夫なのかや?」
リーヤは、小さい身体を生かして、雑踏を掻き分けてフォルに近付く。
「リーヤお姉さん、わたしは大丈夫ですぅ」
フォルは、男から手を借りて立ち上がり、スカートに付いたほこりを叩き落とした。
因みにフォル、今日は真面目に捜査室の制服を着ている。
「それなら良いのじゃ。ん? こちらの男性はフォルちゃんの知り合いなのかや?」
リーヤはフォルに手を貸しながら、ぶつかりそうになった男をジロリと見た。
「ええ。昔近所に住んでいたお兄さんなの。あ、ルカお兄ちゃん、こちらは同じ職場で働いているリリーヤさんなの」
フォルは双方に紹介をしていた。
……ん? ルカさんとやらの視線がリーヤさんを見て一瞬揺らいだよね。
「そ、そうなのかい。すいません、オレはルカ・ウゥルペスと言います。フォルとは、同じ孤児院で育ちました」
右目を隠すような焦げ茶色の長髪をしているルカ。
どうやら彼も9年前の次元融合大災害で孤児となったのだろう。
見た感じ、フォルよりは3、4歳は歳上に見える。
「そうなのかや。此方はリーリヤ・ザハーロヴナ・ペトロフスカヤと申すのじゃ。フォルちゃんとは、異界技術捜査室で一緒に働いているのじゃ!」
リーヤがドヤポーズで自己紹介をした瞬間、ルカは微妙な反応をした。
……あれ、一体どうしてなんだろうねぇ? そういえば、フォルちゃんの制服の部隊ワッペンにも目線が行っていたし。
「そ、そうなんだ。フォルは立派になったんだねぇ。昔から賢い子だったもの」
ルカはフォルを温かい眼差しで見て、褒める。
……うーん、この感じだと悪人には見えないよね。本気でフォルちゃんの事を祝福している様に見えるし。
僕は、両手の荷物が邪魔で、やっと雑踏を抜けてフォルの元まで進んだ。
「ごめんなさい、フォルちゃん。助けに行くのが遅れました。ルカさんと言いましたよね。僕はタケシ・モリべと申します。フォルちゃんとは一緒に仕事をしています。両手が埋まっていますので、握手はご勘弁を」
僕は、ぺこりと挨拶をした。
「あ、こちらこそ」
ルカは、にこやかに僕に笑いかける。
茶色の眼差しが、とても優しい。
しかし、何か薄らと影っぽいものも感じる。
……気のせいだったのかなぁ、さっきの反応は。この人、何かあるっぽいんだよね
「ルカお兄ちゃんは何処に行ってたの? 私が日本の大学からポータムに帰ったときには、もう居なかったよね」
「連絡をしないで行っちゃってごめんね。オレは帝都で仕事を見つけて向こうで働いていたんだ。今日は、仕事の都合で一時帰郷しているんだよ」
ルカは、苦笑しながらフォルに話した。
「ふむぅ、そういう事なのかや?」
え、チエちゃんどうしたの?
「いや、何先読みをしただけなのじゃ! そうか、ならば意味が全部繋がったのじゃ」
えーっと、まだ詳しい事は何も書いていないんですが?
「そんなのは、PC上のプロットや作者殿の脳内をハッキングすれば見えるのじゃ!」
おいおい、ネタバラシしないで下さいよぉ!
「そこは安心するのじゃ。今回は、ワシは仕事をする事も無いのじゃ。裏側で暗躍をするだけなのじゃ!」
もー、勝手に動く魔神将様には困ります。
では、……
「明日の更新を待つのじゃ! ブックマーク、感想、評価、レビューにファンアートを随時募集中なのじゃ! リーヤ殿だけで無く、ワシも書いてくれると嬉しいのじゃ! なお、ワシの活躍は『功刀康太の遺跡探訪』を見るのじゃ!」
勝手に、宣伝を作者から奪い取るチエちゃんでした。




