第3話 新米騎士爵は、怪盗の噂を聞く。
「そういえばタケ殿は、陛下と行動を共になさっていましたから、今の帝都を賑わす怪盗の事は御存知かな?」
食事中の話題としてザハールが面白そうな話を出してきた。
「いえ、まだ何も陛下からは聞いていませんです」
「此方も初耳なのじゃ!」
僕はもちろん、リーヤも聞いた事がないらしい。
……まだ地球でいうところの近代文化の異世界帝国で『怪盗』なんて面白いよねぇ。大体、こういう劇場型犯罪は、社会に存在を知らせてナンボだものね。
「そうか。いや、私も耳に挟んだだけで詳しくは無いのだ。聞いたレベルでは、帝都の上級役人や大商人のところに予告状を出して、予告どおりに現れては美術品や金品を盗み出し、貨幣は街の教会・神殿に寄付し、時折美術品は元の持ち主へと返しているんだそうな」
……え、なにソレ! まるでフィクションの中の怪盗、義賊じゃないですか!
「えー、まるでルパン三世とか怪盗キッド様じゃないのー」
カナが有名フィクションの怪盗の名前を出す。
「此方もそれらは知って居るのじゃ! しかし、まるでそのような物語を知っておるような行動なのじゃ! 帝国には、知れ渡った話でも無いはずなのじゃ」
リーヤが小首をかしげながら不思議がる。
確かにあまりに前例に似すぎている。
……うーむ、ルパンは劇場型だけど微妙に違うんだよね。江戸期からの古典ならネズミ小僧や白波五人衆とかあったっけ? でも、どうして犯人が、これらの物語を知っていたんだろうか? それとも偶然の一致?
僕が脳内で思う間に、チエが反応をする。
「帝都で劇場型犯罪とは、どういう事なのじゃ? ザハール殿まで情報が流れておるという事は、帝都内でも話題になっておるのかや?」
「ああ、どうやら盗む相手は大抵ろくでもない噂を聞くヤツラばかり。無理やり金品を質草などで奪った場合もあるようで、違法な証拠込みで持ち主に返しているらしい。また、最近出来た壁新聞社に彼らの悪徳な証拠を流しているそうで、陛下も先日愚痴っておったよ、『これでは、余が暴れん坊皇帝出来ぬ』とな」
苦笑しながらザハールは話す。
どうやらリーヤや陛下の影響でザハールも日本文化に順調に「汚染」されている様だ。
……確かに陛下なら、自分から悪徳役人のところに『余の顔を見忘れたか?』って殴りこみたいだろうねぇ。
「で、ザハール様。その怪盗の名前は、何と名乗っているのですか?」
「怪盗『アローペークス』だとな」
……うーむ、異世界共通語では無いよねぇ。語感からしたらラテン語系なんだけど。後から調べようかな。何か、この先関係しそうな予感がするんだよねぇ。
僕は、スマホにメモった。
この後は、怪盗話から、リーヤとカナ、更にチエが暴走して収拾が付かなくなったのは、お約束なのか。
◆ ◇ ◆ ◇
「ふー、もう皆暴走しすぎだよぉ」
僕は、あてがわれた部屋で寝る準備をしている。
最近、この屋敷も近代化改修が行われており、トイレ、浴槽、シャワーなどが帝国向き近代改修をされて設置されている。
また、冷暖房の導入も、市内への発電施設・上下水道共々と一緒に検討中らしい。
「こうやって便利になっていくのはイイ事だよね。病気とかで困る人は居ないに越したことは無いし」
普段より圧倒的に豪華、天蓋すら付いているベットに座り、僕はスマホを見ている。
「アローペークスっと」
僕は、気になった怪盗の名前をネット検索をした。
「うーん、あまり良い情報無いんだよねぇ。これはTRPGのキャラね。猫というか狐耳の子かぁ? ん? まさか!」
僕は「アローペークス・狐」と検索した。
「当りだ! 古代ギリシャ語だって? 確か異世界共通語は、ラテン語、古代イタリア語、古代ギリシャ語の融合形だったよね。ふーむ、興味深いなぁ」
僕は、気になっていた事が分かったので嬉しくなる。
「これで安心して眠れそう」
僕はランプの火を消し、豪華な布団の中に入った。
コンコン
そんなタイミングで、寝室のドアがノックされた。
「一体誰なんだろうねぇ? はい、どちら様ですか?」
僕は言語を異世界共通語に切り替えて、ドアの向こうの人に名を聞いた。
「夜分遅く済まぬのじゃ、此方なのじゃ」
すると日本語でリーヤの声が聞こえた。
「え、リーヤさん!」
僕は飛び起き、予備電池から充電中のスマホのライトを灯して、ドアを開いた。
「タケ、今日は色々ありがとうなのじゃ。礼を言うタイミングが無かったので、夜分ながらこそっと来たのじゃ!」
リーヤは小さなランプを片手にして、フリルいっぱいの夜着でドアの前に1人立っていた。
「リーヤさん、また今回もお1人ですか? いくら僕とは婚約状態でも、夜分1人で男の褥に来るのは問題ありですよ」
僕は周囲を確認した後、誰も居ないのでリーヤを咎めながらも、その頭を優しく撫でた。
「それは此方も十分分かって居るのじゃ。それに、もう無理やりはタケを襲わないのじゃ! 今回はあくまで礼を言いたかっただけなのじゃ。おかげで無事にお父様お母様とトモヨお母様の顔合わせが終ったのじゃ。これで、此方とタケは安心して付き合えるのじゃ!」
僕を見上げてキラキラとした眼をしているリーヤ。
ランプの薄明かりが、余計にリーヤを神秘的に見せている。
「それはこちらこそです、リーヤさん。今日はありがとうございました。これで母やカナも安心してくれると思います」
僕はそう言うと、リーヤを軽くハグして額にキスをした。
「タケぇぇ」
リーヤは少しびっくりした後、眼をつむり爪先立ちをして唇を前に差し出す。
「もー、しょうがないお姫様ですねぇ」
僕は更に周囲を魔力レーダーで確認した後、唇をリーヤへと寄せたのだった。
「今回もシャッターチャンスは逃さなかったのじゃ!」
あーあ、可哀想なタケ君。
こっそりと愛を育むのも許してくれないんですね。
「監視の意味も兼ねて居るのじゃぞ。R18展開は、なんとしても阻止するのじゃ!」
はいはい、デバガメ魔神将チエちゃんには困りましたねぇ。
さて、この怪盗「アローペークス」一体何モノなのでしょうねぇ。
では、明日の更新をお楽しみに。




