第71話 終わり良ければ、全て良し。
「では、あの時襲撃した犯人は全員生きて回収できたのですね」
「こめんなさい、タケシさん。わたし、気合入れすぎたのぉ」
僕の実家で行われている宴会は、夜が更けてもなお続く。
因みに、お子様達はマユコの夫マサアキ、それにアヤメ、コトミがゲート経由でお家まで送っている。
残っているお子様は、フェアくらいだ。
フェアは少し離れた場所で夏布団を被せられて、お眠。
「しょうがないわよ。リタちゃんも頑張ったんだからね。でもタケシ、あんたすごいよね、とうとうエルフのお姫様までお友達になったんだから」
「リタおねーちゃん、日本に住んでいたなんてびっくり! わたしの学校でも一時期お姫様ブーム起きていたもん!」
僕に謝るリタの左右に母と妹が鎮座して、さっそく「魔の手」を伸ばしている。
「お母様にカナちゃん、リタちゃんはわたしの妹なの! 変なことしちゃだめよぉ!」
「ナナ、流石に大丈夫だって。ここにはマユ姉ぇも居るし。ほれ、このカツオ美味しいぞ」
「何よぉ、コウ兄ぃ! あ、ホント美味しいの!!」
ナナは、妹可愛さに飛び出しそうになっているのを旦那に止められ、口にタタキを突っ込まれて旨うましている。
「ええ、わたしも横に居ますから大丈夫よ。トモヨさん、大変でしたわよね。わたしも両親を亡くしたコウちゃんを高校生の頃から見ていましたので、女手だけで子育ての大変さは重々分かりますの」
「はい、でも2人ともいい子でしたら大丈夫でしたわ」
マユコと母が並び座り談笑している。
しかし、何か「ごごご」という効果音が聞こえそうな気がするのは僕だけだろうか?
「タケや、マユコ殿とお母様が何か怖いのじゃが……」
リーヤも怖いらしいから気のせいではないらしい。
「ま、まあ色々思うところはあるんでしょうねぇ。大丈夫、喧嘩してるわけじゃないから」
僕がそう言うと、今度は顔を赤くしたマムが僕達に絡んでくる。
「タケ、リーヤちゃん。わたくしぃの前でいちゃつくの、すこおし、辛抱してくれないかしらぁ。わたくし、寂しい夜もあるのぉ!!」
マム、ご主人を亡くして寂しくしていたのは、僕も理解してはいたが、まさか酒の席で僕に絡みたくなるくらい辛抱していたとは知らなかった。
「タケシ! あんた、少しは辛抱しなさい! リーヤちゃんも、おおっぴらにはイチャつかないでね。守部家の嫁として恥かしくないように!」
「はい」
「はいなのじゃぁ!」
僕達はハモって返答をする。
「エレンウェ様、こちらへどうぞ。つもる話もあるでしょうから、ここは女3人で姦しく呑みましょう」
「ええ、マムさんどうぞ!」
マム、ぬーっとした感じで母やマユコの隣に移動していった。
「はぁ、助かったぁ」
僕は周囲を見ると、出来上がってダウンしているヴェイッコにタクト、今日は早々に呑んで暴れてダウンのギーゼラ、フォルを抱いて寝ているキャロリンなどなど死屍累々(?)の状況。
陛下も既にこくりこくりと船を漕いでいる。
「タケ、少し夜風に当らぬかや?」
「はい」
リーヤは僕の手を取り、玄関に向かった。
「あまり星が見えぬのじゃ! しかし夜でも工場が動いて居るのじゃな」
僕達は、少し北側へ歩いて海が見えるところまで行った。
工場の明かりが夜間でも眩しく、晴天であったが木星くらいの明るい星や月以外殆ど見えない。
「リーヤさん、今回は色々ありがとうございました。それと今日は止めたりしてごめんなさい」
僕は今日の事について感謝と謝罪をした。
「タケ、こちらこそなのじゃ! で、何か此方に謝るような事があったのかや?」
リーヤは、僕を見上げて不思議そうな顔をする。
夜風に煽られて、結っていない髪がサラリとなびいていて、普段とは違うリーヤの姿に、僕はどきどきしてしまう。
「あ! えーと、確かショゴスでしたっけ? あの怪物にリーヤさんが突撃しようとしたのを止めた事です」
僕は、リーヤに見惚れていたのを誤魔化すように、早口で話した。
「あ、あの時かや? あれは此方も気が動転しておったのじゃ! 冷静に考えれば此方だけで勝てる相手では無かったのじゃ。陛下やマム、コウタ殿、チエ殿の力、それにタケの知識を借りて勝負すべきじゃったのじゃ! 此方1人では大したことなぞ出来ぬのをすっかり忘れて居ったのじゃ!」
リーヤは恥かしそうに頬を染め、バツがわるそうな表情で僕に話した。
「それは違います。僕はリーヤさん1人では危ないと思って止めただけで、リーヤさんは凄い人です。とても僕みたいな気弱で臆病者なヒトとは似合わないんです」
僕は今回、大きく役にたつことも出来ず、最終的には皆のお手伝いがやっとだった。
戦闘中には、変に自身があって射撃を行っていたが、今となってはどうして全弾命中したのか不思議なくらいだ。
「タケ、其方、自分を卑下しておるのではないかや? 此方は半人前じゃ、そしてタケも半人前。これでイイのじゃ! 半人前でも2人揃えば一人前なのじゃ!」
リーヤは僕の目の前に立ち、爪先立ちで背いっぱい背伸びをする。
「えーっと、リーヤさん何をしているんですか?」
「タケの頭を撫でてやろうと思ったのじゃ。いつも此方はタケにしてもろうておる。たまには姉で妻たる此方がタケを褒めるのじゃ!」
「妻」と自分で言って赤面するリーヤ。
僕はその様子が可笑しくて可愛くて、背を屈めた。
「これでイイですか?」
「おう、これでイイのじゃ! タケ、眼をつむるのじゃ!」
僕は言われるままに眼をつむった。
すると、唇に温かい感触と甘い吐息を感じた。
「え! リーヤさぁん! う!!!!!!」
僕は急いで眼を開けたが、リーヤは僕をしっかりと抱き、唇を離さない。
僕がしゃべって口を開けた瞬間、口の中まで進入されてしまった。
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・・
・・・
そして暫くした後、ようやくリーヤは僕の唇から己の唇を離した。
2人の唇の間に、透明な糸がしばらく繋がった。
「もう大丈夫かや? タケが不安になったときに一番効果があるのが接吻なのじゃ! これは治療行為じゃから、性的なキスとは無関係。ノーカンなのじゃぁぁ!」
リーヤは耳まで赤くした真面目ぶった顔で、大義名分を述べた。
「もー、リーヤさんたら。無理やりとか騙し討ちは違反ですよ。でも、ありがとうございました」
そう言って僕もリーヤをハグし、そっとキスのお返しをした。
「はい、これでオアイコです」
するとリーヤは茹で蛸を越えて、今にも沸騰しそうな顔で僕から眼を背けた。
「タケや、元気になったら今度は大胆すぎるのじゃぁぁ!」
そんなリーヤが、僕にはとても可愛く見えた。
「でも、今回はここまでです。続きはポータムに帰ってから。というか、あまりやり過ぎたらザハール様が怖いです。ですので、慌てずゆっくりしましょうね」
「うんなのじゃ!!」
僕とリーヤの距離は、この旅行でほぼ0になった。
……0以下になったら、一大事だけどね。
この先も色々な苦難が種族の違う2人には色々あるだろうけれども、頑張っていける。
その自信だけは今回の旅行で強くなった。
「じゃあ、帰りますか?」
「はいなのじゃ!」
僕達は手を繋ぎ、振り返った。
そして、そのまま2人とも固まってしまった。
「ど、どうして皆さん、ここにぃ……」
「何故なのじゃぁ……」
「そんなの、ワシがずっと監視しておったからに違いないのじゃ!」
「ああ、貴方。タケシは立派になりましたぁ」
「おにーちゃん、おねーちゃん。ひゅーひゅー!」
「タケ、リーヤ! わたくしの前でイチャつかないって言っても、影でこんな事するなんてぇ!」
「マムさん、まあまあここは温かい目で見ましょう。タケくん、リーヤちゃん。これからも大変だけど頑張ってね」
「マユ姉ぇ、それ予言? タケシくん、これからも大変みたいだけど頑張れ! 後、チエちゃんに捕まったら御終い、ずっとオモチャなんだよ! 俺も苦労したし」
「うん、ボク達も大変だったものね、コウ兄ぃ!」
「リーヤちゃん、おめでとー。わたしもコウお兄ちゃんやタケシさんみたいに、優しくてカッコいいカレシできないかなぁ」
「余の前で、ようもイチャつくのじゃなぁ。これはザハールに早速報告だ」
「陛下! 今回は、陛下の方がデバガメで悪うございます。見守ってあげましょう」
僕とリーヤの「行為」は、最初から皆に見られていたらしい。
「ちょ、どうして皆、僕達をそっと見守ってくれないんですかぁ!」
「だって面白いんじゃから、しょうがないのじゃ!」
満面のイタズラな笑みをする魔神将、僕達は正真正銘の悪魔に魅入られたらしい。
「此方、恥かしいのじゃぁぁ!!」
夜の瀬戸内に乙女の声が響き渡った。
とんと御終い!
「これにて、日本ドタバタ観光編はおしまいなのじゃ! 残る謎は、次の章への宿題なのじゃ!」
チエちゃん、最後にやってくれましたね。
「これくらいは役得なのじゃ。それに物語の終わりがギャグの叫びで終わるのがコメディの定番なのじゃ。せめて気持ちよく終わりたいのじゃ!」
今回は被害者もそれなりに出た事件でしたが、最後に湿っぽく終わるのも嫌ですよね。
「タケ殿が締めると、真面目に悩むパターンが多くなるのじゃ。こういうギャグ締めはワシにお任せなのじゃ!」
という事で第六章、全71話終わりです。
しばらくお休みを頂きまして、10月17日より新章に入ります。
今度は、久しぶりにポータムでの科学捜査です。
では、再開をお楽しみ下さいませ!
「ワシは今後も、後書きには来るのじゃ! では、またお会いするのを楽しみにしているのじゃ!! ブックマークなぞ宜しくなのじゃ!」
あーん、作者の台詞をどんどん取ってゆくよぉ。
では、またね。




