第69話 「海ほたる」での戦闘:その9「事件解決!」
「さあ、愚かな同盟とやらの尖兵ども。此方、リリーヤ・ザハーロヴナ・ペトロフスカヤが相手なのじゃ! 大人しく縛に付くのじゃ! さもなくば、生きていることを後悔させてやるのじゃ!!」
リーヤがミエを切りつつ大声で叫ぶ。
僕はリーヤが敵を引きつけている間に、新たなターゲットを探す。
「は? 一体?」
敵兵は指揮官を失った上に、いきなり謎の事をのたまう異世界幼女が現れたのだから、混乱するのもしょうがあるまい。
僕は、棒立ちになっていて狙いやすいヤツから撃った。
「ぎゃぁ!」
「ぐぅ!」
流れ弾が人質には当らない射角で敵兵1人の右膝を背後から狙ったのだが、1人目を貫いた弾が、もう1人の左膝を貫いた。
……あれぇ? らっきーなのかなぁ?
「あ、あぁぁ?」
唯一残った敵兵はパニックになり、リーヤに震える銃口を向ける。
「この愚か者めなのじゃ!」
射角からして僕が狙えないので急いで移動を始めた時、リーヤは小さな球電をパニック兵へと放った。
「んぎゃぁ!!」
球電が着弾した兵はビクンビクンとしながら奇声を挙げ、蒸気を出してへたり込んだ。
「峰打ち、手加減びりびりなのじゃ! 己の所業を反省するのじゃぁぁ!」
リーヤは最高のドヤ顔をした。
◆ ◇ ◆ ◇
「とりあえず、これで敵は全滅でしょうか?」
僕は糸玉にされて転がる敵兵を見て、リーヤに聞く。
「そんなの此方に分かる訳無いのじゃ! のうマムや」
「そうですわ。一応、3階の敵兵も全部倒しましたわ。上手くいったから全員生かして捕まえていますの」
リーヤは困った風にマムに聞くが、マムはとってもご機嫌な様子。
どうやら撃ち合いの隙間に割り込んで、アヤメと一緒になって存分に敵兵をズンバラリンしたらしい。
「この間の海水浴の時、マユコ様に死なないけども、とっても痛い急所を教えて頂いたのが役に立ちましたのぉ。他にもゲームやアニメ由来のワザ教えていただきましたわ。11連撃のレイピア突き技なんて、さいこぉ!」
マム、にっこり顔で恐ろしい事を呟く。
……つまり、これからは人型の敵は死なないけど悶絶するのねぇ。11連撃って、まさかあれ?
「マムもアニメ見るのじゃな。此方と今度また一緒に見るのじゃ。11連撃の突きとは、VRMMOのアレじゃな!」
僕よりも更にアニメ業界に詳しいリーヤが反応しているということは「当り」らしい。
「あのぉ、わたし分からないんですがぁ」
「だいじょーぶ、ルナっち! アタイも分かんない」
「拙者、今回出番少なかったでござるぅ」
「まあ、作戦終了はイイ事ね。CP、こちらアヤメ。どうなっていますか?」
戦闘も終了し、すっかりいつものお惚けモードの仲間達である。
「チトセ殿、もう大丈夫なのじゃ。まーくん殿、良く頑張ったのじゃな」
向こうではリーヤがチトセや彼女の息子と話している。
チトセの息子がすごく興奮してリーヤに抱きつきに行く。
「おねーさん、ありがとぉ! ほんとうにせいぎのみかたさんっていたんだぁ!」
「そうなのじゃ! 此方、悪いやつらは倒して叱り付けるのじゃ! まーくん殿も大きくなったら、お母様やお父様、そして沢山の人を助けられる立派な男になるのじゃぞ!」
「うん! ぼく、おおきくなったら、せいぎのみかたになるー!」
今回、幼子の前で誰も死ななかったのが良かった。
あの子にとっては、今回の事件は悲しくて怖いトラウマでは無くて、カッコいい正義の味方を目指す切っ掛けになったのだろう。
「すいません、どうやらまだ事件終わっていないようですぅ」
そんな時、イルミネーターからフォルの声が飛び出した。
「どうも最後の嫌がらせに、そちらに座礁させた輸送船から大型のモンスターを開放した様です」
僕達は、敵を確認すべく急いで座礁した船が見える南側の大回廊に走った。
「うぁぁ、僕ではどーにもならないよぉ」
「わたくし、困りましたの」
「拙者では、どーにもならんでござるぅ」
「アタイ、逃げようかなぁ」
「CP、こちらアヤメ。早く航空自衛隊を!」
「わたしの糸じゃ無駄だよね」
「此方、何とかするのじゃ!」
リーヤを除く僕を入れた全員が、状況を見て自らの対応範囲を超えている事を嘆く。
僕達の足元、海上に油膜の様に大きく広がってゆくスライム状、全長100mもの巨大なバケモノ。
表面がぶつぶつと泡立ち、なにやら眼のようなものが沢山見える。
「こちら、チエじゃ。アイツら、何処からか巨大なショゴスを連れてきていたのじゃな。アヤツは火炎も雷撃も物理攻撃も無効なのじゃ。アルカリ剤等の化学兵器は効くのじゃが、間に合いそうも無いのじゃぁ」
ショゴス、それはクゥトルフ神話に出てくる使役生物。
圧倒的な再生能力と数で、何でも飲み込む吸収してゆく。
そして、かつてチエやコウタ達はショゴスと戦った事があるらしい。
そのような事を、僕達は事件解決後に聞いた。
「おねーさん。あれたおせるの?」
「うん、おねーさんに任せるのじゃぁ!」
リーヤは、こちらに来ていたチトセと息子に笑いかけ、変身し限界突破で突撃しようとした。
「リーヤさん、いくらなんでも無茶だよ!」
「タケや! 無茶でもなんでもやるしかないのじゃ! ここは此方がやるべき場面なのじゃあ!」
僕の制止を振り切って、リーヤが空に飛び出そうとした時、
「CP、みんなおまたせー! わたしの出番、ちゃんとあって嬉しいのぉ!」
その時、イルミネーターから、どこか気が抜ける女の子の声が聞こえてきた。
「リタちゃん!」
「はーい、ルナさん。わたし、一発やるよぉ!」
ふと空中を見ると、輝く魔方陣を足場にして空中に誰かが居るのが見える。
「みんなー! 危ないから出来るだけ建物の中央に固まってねぇ! いくよぉ! 永久氷結地獄!!」
空中に浮くリタの持つ魔法少女ステッキに、とても大きな蒼い光が集まる。
「みんな、急いで奥へ!!」
僕達は、リタの集めた魔力で彼女が放とうとしている呪文の威力を図り、急いで建物の中央部へ逃げ込んだ。
きゅーん!!
僕達が全員テナントの奥に隠れた直後、衝撃とともに途轍もない冷気が襲ってきた。
その蒼い冷気は、触るもの全てを氷の塊にしてゆく。
「危ないのじゃぁ!」
「わたくしもぉ!」
リーヤとマム、2人が防御シールドを張ることが幸い間に合い、僕達と人質全員はリタの呪文冷気から無事逃げることが出来た。
「あ、捕まえた敵兵の事、忘れてたぁ!」
「大丈夫なの。この呪文は、生物は死なずに氷の棺に捕まるだけなの」
リタからの返答で一安心した僕達は、リタの行った攻撃の結果をみるべく再び南側の方へ向かった。
リタの言ったとおり、道中で回収できなかった敵兵は全員、氷の棺の中に閉じこめられていた。
また爆弾や、後から存在を知った細菌兵器すらも氷結し無効化されていた。
……みんな、驚愕の表情で固まっているよぉ。恐るべしリタ姫。
そして南側の窓から僕達は、驚愕の惨状を見た。
「あ、これ弁償しなきゃじゃないですか? チエさんどうしますか?」
「そ、そんなの不可抗力なのじゃぁ。元々船がぶつかったのも原因なのじゃ、すべてはバカモノ共が悪いのじゃぁ……」
僕は惨状を見て思わず弁償金について考えてしまい、チエに聞いてしまったがチエも逃げてしまった。
「海ほたる」に乗りあがって座礁していた船は、陰も形も無い。
また「海ほたる」の基部の一部も抉れたように無くなっているし、下層では3層ある駐車場が完全に氷に埋まっている。
そして海面は、半径500m以上が氷の大地。
今にも降りそうだった雨は、雪となって真夏の東京湾に降り注いでいる。
その中央部、巨大で永久に融けぬ氷の墓標の中に、いくつもの眼を表面に浮ばせて怨めしそうにこちらを見ている全長100mものショゴスが眠っていた。
……あれ、どうやって処分するんだろうかなぁ? それにこれ再利用するのにはかなり時間とお金掛かるよね。
「此方、もっと魔法を勉強するのじゃぁ! リタ殿、教えてはもらえぬかや?」
リーヤは、リタ姫の呪文威力を呆れるよりも、その力を自らが使う事を決めた。
「リーヤちゃん、じゃあ今度わたし色々教えるね!」
「リタ殿、ありがとうなのじゃぁ!」
こうして事件は一応の解決を得た。
「で、一体敵は何が目的じゃったのかや?」
「さあ、僕にも分かりません。とにかく、今日は母さんのところに帰ってゆっくりしたいです」
僕は、緊張が途切れたのと強度の疲労からか急に眠くなり、地面に大の字になって転がった。
「此方も賛成なのじゃ! 今日も瀬戸内の美味しい魚食べたいのじゃあ!」
「えー、いいなぁ。チエお姉ちゃん、わたしも一緒にお邪魔していい?」
「リタ殿。それは、ワシでは無くて、タケ殿に聞くのじゃ!」
僕はイルミネーターから、魚を求める乙女達の声を聞きながら意識を手放した。
これにて戦闘終了。
事件の詳細は、タケくん達には不明ですがどうなるのか。
まずは、皆様お疲れ様でした。
「ワシも大活躍したのじゃ! 最後の大ボスは、リタ殿にプレゼントしたのじゃがな」
まあ、怪獣サイズのバケモノ相手は、まだまだリーヤちゃん達には難しいですからね。
「精進あるのみなのじゃ!」
では、明日から再びほっこりシーンに戻ります。
更新をお楽しみに!




