第65話 「海ほたる」での戦闘:その6「カウンタースナイプ!」
「では、リーヤさん。打ち合わせ通りに御願い致します。ルナさんは、敵の背後から御願いします。マム、ヴェイッコさんは、ギーゼラさんの支援を宜しく御願いします。狙撃兵は僕が釘付けにします。CPは狙撃報告の分析を宜しくです」
「おー!」
僕の指示で作戦が開始される。
ここから先は時間との戦い、少しでも早く敵兵を片付ける必要がある。
ルナからの情報により、既に4階に人質が集められているのは分かっている。
今は、隠しカメラを仕込んでいて、敵兵が減って隙が出来るのを待っている状態。
……人質を使われる前に敵兵を減らさなきゃ!
「行きます!」
「おうなのじゃ!」
僕とリーヤは隠れていた自動車の影から飛び出した。
◆ ◇ ◆ ◇
「お! なんだ、アレは!!」
狙撃兵は驚く。
スコープの向こうにターゲットが居る。
そこまでは普通だが、今回は様子が大きく違う。
異世界のバケモノらしき幼女の前に緑色に輝く分厚い1m四方の何かが浮いている。
そして、その後方には狙撃銃を構えた若い男が、銃を構え狙撃兵の居る方向を狙っているのだ。
「くそう、ありゃ一体なんだ? なんでオレが居る方向が分かっていやがるんだ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「タケや、大丈夫なのかや?」
「たぶんですね。今隠れている場所から出たら最適な狙撃場所を簡単には探せないです。もうルナさんが敵の近くにいますから、動いた時点でこちらの勝ち。動かなければ……、無理やり動かす!」
僕は、敵の気配を読むことを試す。
……リーヤさん直伝、魔力レーダー!
僕は、自身の魔力を薄く展開する。
今回は前方、中間の吹き抜けを挟んだ上の階に魔力展開をする。
……もっと薄く、もっと広く……! 見つけた!!
キュピーンと恒例の効果音が脳内に聞こえた気がするけど、今は無視。
〝せっかくワシが支援して敵兵を見つけた上に、効果音出したのにイケズなのじゃ〟
案の定、無視されたのを愚痴る魔神将がいるが、今はマジで忙しいので、相手は後からにする。
僕は敵兵へ目掛けて、愛用の狙撃銃を撃った。
◆ ◇ ◆ ◇
「ひぃぃ! なんで、バレた!?」
狙撃兵は、照準器が壊れた銃を放り投げ、自分が隠れていた柱の隙間から飛び出した。
下階の男の狙う銃口は的確に狙撃兵を狙っており、銃口が自分に向けられた瞬間、恐怖から狙撃兵はスコープから眼を離した。
そして撃たれた銃弾は、スコープを正確に打ち抜いたのだ。
「こいつもバケモノかよぉ。あのままだったら、オレは……」
狙撃兵だけに自分が撃たれた後の様は、簡単に想像できる。
あの時、避けていなければスコープごと眼球から頭蓋骨をライフル弾で撃ちぬかれ、頭蓋はスイカのように破裂していた。
その恐怖から、男は這うようにして移動を開始した。
「チェックメイトね」
逃げている途中、若い女の声が聞こえたと思った瞬間、狙撃兵は細い、しかし強靭な糸に絡めとられ、糸玉になった。
◆ ◇ ◆ ◇
「こちら、ルナ。敵、狙撃兵を確保。糸玉にして軽い麻痺毒仕込んだから、もう大丈夫だよ」
僕は、ルナから送られた映像付き情報を見て、一安心する。
……殺さなくて良かったよ。あの時は殺しても構わないつもりだったけど、できれば殺したくはないもん。
どうやら僕の撃った弾は、狙撃銃のスコープを綺麗に撃ち抜いたらしく、その時点で敵の攻撃力を半分以上奪っていたらしい。
幸いなこと(?)に、その時にスコープを覗いていなかったので、狙撃兵は無事だった様だ。
「ありがとうございます。では、引き続き3階4階の監視を御願いします」
「りょーかい。敵さんぞろぞろ4階から5人程降りてきているね。たぶん、これで人質対応しているのは少なくなった筈ね」
ルナは、柱などに隠れながらも敵兵の映像を僕らに送ってくれた。
「ルナさん、助かります。CP、敵兵の位置情報・情報更新を御願いします」
「CP、了解です。さあ、一気に片付けますよ。ギーゼラちゃん、そこに隠れていて。後から挟み撃ちしますの。マムさんは、そこの柱の影に。ヴェイッコくんは、今のところに銃座を確保。わたしの合図で制圧射撃開始を」
「あいあい!」
「了解でござる!」
ココから先は全てが見えているCPからの指揮の方が確かだ。
ドラゴンも居なくなったからか、ドローンからの映像もCP経由で上がってきている。
「こちら、CPフォルですぅ。ドローンからの支援情報を皆様にお送りしますですぅ」
ドローン使いの才能もあるフォルが情報支援をしてくれている。
これで敵兵の動きは丸見え、一気に勝負にいける。
「では、リーヤさん。僕達は別行動で事件解決に行きますよ!」
「了解なのじゃ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「こちらCP、状態はどうなっている?」
「4階、人質担当Aだ。今、下に5人送った。下の情報はどうなっている!?」
人質を一箇所に集め、AKの銃口を向けている男は無線機に対して叫ぶ。
「3階の狙撃兵もやられた。一切下層の情報が見えない。そちらの情報を……」
CPが話している途中で、無線がぷつりと切れる。
「CP、CP! 一体どうした!」
男がいくら叫ぼうとも、無線機からはノイズ以外の音声は聞こえない。
「どうなっていやがる!」
男は懐からスマホを出すが、その画面にはアンテナの数が見えない。
「スマホ回線も不通なんてどうなってやがる! B、C、D! 周囲に気をつけろ。敵が仕掛けてくるぞ!」
「へい!」
完全武装した筈の男達は狼狽する。
まだ、警察や自衛隊部隊が「海ほたる」に侵入したという情報はCPからも、そして警察内部に仕込んだ「草」からも入ってこない。
更に、電波妨害に強いはずのデジタル通信に異界を経由するスマホ回線すら邪魔をする、高度な電波妨害を行使する敵が向こうに居る。
「まさか、異世界のバケモノサルがデジタル機器を使うのか!?」
テロの現場指揮官たる人質担当Aは焦る。
状況が最初の予定・想定と大きく異なるのだ。
本当なら「海ほたる」を制圧後、人質を盾にすみやかに異世界門へ進入、そこから細菌兵器を散布して門を破壊、「神」の邪魔をする異世界に破壊を与え、「神」を信じず世界の富を牛耳る日本に被害を与えるつもりだった。
その為に、あらかじめ日本の警察機構に「草」を仕込んでおり、更に自衛隊にも簡単に動けない状況を作り上げたはず。
その上で橋やトンネルを破壊して、「海ほたる」を陸の孤島にすれば、自分達の勝利は間違いないはずだった。
「異界のバケモノを手なずけてまで行った作戦が、いとも簡単に邪魔をされるとは……」
男は悔やむ、スポンサーが簡単に提示した条件があまりに上手すぎたから。
「あの時、断るべきだったのか?」
テロ準備の為の豊富な機材、人材、資金。
そして異界のドラゴンに輸送船、高度な指揮能力のある小型高速船までスポンサーは準備をしてくれた。
それは、世界から追われ資金難になっていた組織には非情にありがたい話。
しかし、時は既に過ぎ去った。
もはや動くしかないのだ。
「全員、ここを死地と思え。最悪、人質ごと自爆をして、我らの『神』への生贄とするのだ! そして我らは『千年王国』へと導かれるのだ!」
男は最後に、己の中の狂信に頼った。
「いよいよ、最終局面なのじゃな。ほう、敵も騙された口なのかや。なら、裏には別の目的がある親玉が居るのじゃな」
チエちゃん、またこっちに来て情報収集をするのは止めてよぉ。
「別にワシは構わぬのじゃ。どうせタケ殿達には限定情報しか与えぬのじゃ。物語を破綻させては、面白くないのじゃ」
まったく自由な存在を産み出してしまったものです。
「でも、こういうワシを上手く使って居るのも作者殿じゃろ? ワシに頼りすぎではないのか?」
はい、それはおっしゃるとおりでございます。
「では、明日の更新まで待つのじゃぞ!」
あーん、また台詞取られたぁ!




