第60話 「海ほたる」での戦闘:その1「風の塔攻略!」
「おい、俺達の出動が一時停止なんてどういう意味だよ。早くしないとトンネルの中で避難民が蒸し焼きになっちまう」
東京湾に浮かぶヘリコプター搭載型護衛官(DDH)「いずも」のブリーフィングルームで、待機状態の陸上自衛隊少尉が叫ぶ。
「それを言うなら、ウチからF-35Bの発艦もお預けさ。お前らの乗るヘリの護衛で上がるはずだったのに、待たされている。どうやら百里のF-2Aも同じ状態だとさ」
F-35Bのパイロットな中尉も同じく待たされている現状を嘆く。
「それなら、ウチから情報が入っているぞ。どうもウチの『隠しだま』を先行投入するらしい。以前からウチにいたらしいが、俺も今回初耳だな」
合同隊として「いずも」に乗り込んでいる警察隊の警部補から、警察経由の情報が話される。
「なんだ、その隠しだまって?」
自衛隊の士官達は興味深そうに、警部補に聞く。
「それがな、なんと魔神様なんだとさ」
「なんだ、そりゃぁぁ!」
ブリーフイングルームに野太い叫び声が響いた。
◆ ◇ ◆ ◇
「しっかし、俺達は貧乏くじだな。こんな誰も来ない場所を警備しろだなんて。ドラゴンに守られて居ちゃぁ、ヘリだろうが船だろうが来れないだろうに」
「しょうがねぇだろう。神を信じない愚か者だろうが、自衛隊とやらは油断出来ないさ。それも『作戦』が成功するまでの事、後は皆で『神の国』へ行くだけさ」
「風の塔」屋上のヘリポートでAKライフルを持った2人組が、愚痴りあっている。
塔の上空には2匹の亜竜が周囲を警戒しつつ、空を舞っている。
「そういえば、どうやってあんなバケモノを操っているんだ?」
「なんでも昔潰された、ある政府内秘密研究所で使っていた脳内埋め込み型のコントローラーだって聞いたぞ」
「そうなのかや。ゲオルギオス財団の残党共が、まだ居ったのじゃな。ワシ、破壊仕切れなかったのじゃな。つくづく困った集団なのじゃ」
警備2人は、急に英語で幼子の声が聞こえた事で驚く。
「なんだ! 今の声は」
「どこにガキが居やがる!?」
2人はお互いの背中を合わせ、アサルトライフルを構えて警戒をする。
「もう遅いのじゃ!」
次の瞬間、2人は意識を刈り取られた。
◆ ◇ ◆ ◇
「さあ、母様、カレン殿、シンミョウ殿、タクト殿。出番なのじゃ!」
チエは空間に扉を創り、そこから4人が完全装備で出てくる。
「あら、チエちゃん。仕事が早いわよね」
マユコは、手をぷらぷらさせて準備運動をしながらチエに尋ねる。
「こんなバカ、一瞬で倒せずに魔神ではおられぬのじゃ。カレン殿、羂索で、2人縛っておくのじゃ」
「はいです! オン・ハンドマダラ・アボキャ・ジャヤデイ・ソロソロ・ソワカ! 捕縛呪!」
カレンは、不空羂索観音の真言を唱えると、手に持った5色の糸を編みこんだ綱、羂索が分裂して気絶している警備兵2人をぐるぐる巻きにした。
「では、皆の衆。戦闘開始なのじゃ!」
「おー!」
◆ ◇ ◆ ◇
「こちら、タケ。CP、聞こえますか?」
僕達は今、次元門がある建物内、ポータル設置室にいる。
「はい、こちらCP、フォルですぅ」
イルミネーター越しにフォルの明るい声が聞こえる。
「チエさんの方はどうですか?」
「チエさんですが、今ほど亜竜退治を開始したところです。あ、映像回しますね。すっごいですよ」
イルミネーターから戦闘シーンが見えてきた。
「え――!!」
「此方、恐ろしいのじゃぁ。マユコ殿が味方で良かったのじゃぁ!!」
僕は、その一方的な「虐殺」に悲鳴が出てしまった。
そしてリーヤも、震えながらマユコの恐ろしさを今更ながら実感した。
◆ ◇ ◆ ◇
「風の塔」ヘリポートでの戦闘が開始される。
「タクト、一発芸いきまーす! カグツチ様、爆裂火炎槍撃ちます」
〝おうよ! 哀れな小竜よ、一撃で滅ぶのだ!〟
タクトの上に上げた両手の間にプラズマ火球が形成され、徐々に尖りミサイル状に変形していく。
「いっけー!!」
タクトはそれを右手で掴み、亜竜へ目掛けて投げつけた。
きしゃぁぁ!!
亜竜達は奇声を上げて、味方がいるはずの下方から攻撃を受けた事に驚き、回避行動と迎撃に動く。
「甘いよ。ブレイク&リターン!!」
炎のミサイルは亜竜にひょいと避けられるも、亜竜一匹の後方で10本以上に分裂し、逆側から亜竜を襲った。
ががが、という激しい爆裂音と衝撃波、煙が消えた後には、亜竜の影も形も残っていなかった。
「お見事ね、タクトくん。じゃあ、今度はわたしの番ね。シンミョウちゃん、防御。カレンちゃん、羂索で足止め」
「はい!!」
マユコは日本刀を鞘から抜き、斜め上方向に突きの構えで残る亜竜を狙う。
「ソロソロ・ソワカ! 捕縛呪!」
カレンの手元から投網のように縄が飛び出す。
しかし、亜竜は器用に縄を避け、マユコに目掛けて火球を撃ち出す。
「わたしぃが皆さんを守りますぅ」
シンミョウは、肩当て付きのマントを纏い、周囲を舞う2体の飛行体を使って、強固な防御結界を周囲に展開する。
亜竜の火球は、シンミョウんの防御結界に簡単に弾かれ、一切害を成せない。
「行くわよぉ。秘剣『滝登り』改、はぁ!!」
マユコは剣先を亜竜に向け、裂帛の掛け声から斜め上に刀を突き上げた。
その剣先からは竜巻状のもの、真空と衝撃波をミックスさせた竜巻を魔力コーティングした物騒なモノが撃ち出された。
その物騒な竜巻は、周囲を囲う羂索で身動きが出来ない亜竜を襲う。
突風とジャリジャリと嫌な音がイルミネーター越しに聞こえた後、タクトの時と同じく亜竜はチリ一つ残さずに消えた。
「バスタータイフォーン成功したのぉ!!」
マユコの能天気な声がイルミネーターから聞こえた。
「母様。溜まっておったから、手加減無しにぶっ放したのじゃ!」
チエちゃん、アレって某SF神話漫画の剣聖のワザだよね?
「母様は、愛読者で昔からアレのワザを魔力利用して再現しておるのじゃ。ワシも以前に母様から本気では無いとは言え、連撃衝撃波を食ろうた事があるのじゃ!」
恐るべし、ママさんパワーですね。
では、引き続き戦闘が続く物語を宜しく御願い致します。




