第55話 美幼女は、婚約者をより理解する。
「で、その後はどうなったのじゃ!」
此方はタケの事が心配になり、お母様に聞く。
「はいはい、もちろん大丈夫だったわよ。だって、今もタケシは、あのとおりでしょ」
「そういえば、そうなのじゃ! へーぼんでのほほんとしておるのじゃ!」
わたくしは、見ていると安心するタケの顔を思い出す。
「じゃあ、続きを話すわね」
「うん、おかーさん。わたしも楽しみ!」
◆ ◇ ◆ ◇
赤子を抱く妻を温かく見ながら、ヒロシは話す。
「そこで、僕はタケシに聞いたんだ。今のままで良いのかって。そうしたら泣きながら言うんだよ。『だって、僕はアイツらと同じになりたくないんだもん。お父さん、よく言ってたよね。人を傷つける暴力はダメだって。僕、いくら悪い人でも殴りたくなんて無いよ』ってね」
「あら、タケシったら貴方そっくり。警察に入って直ぐの時、よく悩んでいたわよね。『正義の力』なんて本当にあるのかって」
トモヨは、けらけらと笑いながら、ヒロシにくっつく。
「まあ、そういう時もあったよね。で、僕はタケシに言ったんだ。お父さんも昔、同じことに悩んだって」
「正義」なんて、それこそ人の数ほどある。
そして「正義」の名の下の暴力は、得てして暴走する。
人は大義名分があれば、どこまででも凶暴になれるから。
「そして聞いたんだよ……」
☆
浴槽に2人仲良く入る親子。
「タケシ、君はいったいどうしたい? 今のままタケシが我慢しつづけるのかい? そうしても誰も救われないよ。タケシも、今まで虐められていた子も、そしてイジメっ子も」
ヒロシのその言葉にタケシは、うつむいていた顔を上げた。
「イジメっ子も救う?」
「そうさ、今のままなら遠い将来、イジメっ子は必ず大変な事になる。虐めを正しい事と思い込み、それを繰り返し、そしていつか取り返しの付かないことになる。悲しいかなイジメっ子は家庭に問題があって、歯止めが利かないことが多い。これは、お父さんの仕事柄の経験だね」
父の言葉に驚くタケシ、
「え、それは大変だ」
「ああ、そして今まで虐められていた子も、タケシに対して引け目が出来てしまい、卑屈になって更に虐められるかもしれないんだ。そして、それはタケシも同じ。今は大丈夫かもしれないけど、このままなら身体だけでなくて心まで怪我をして大変な事になるかもしれない。それを父親の僕は見て見ぬふりは絶対に出来ないし、したくないんだ」
父の温かい言葉に涙を流すタケシ。
「お父さん! 僕、皆を助けたい。でもどうしたら良いのか分からないんだ!」
「そうか! よく言った、流石はお父さんの自慢の息子だよ。じゃあ、お父さんが、色々策を授けるね」
☆
「あら、パパ。何、その策って? 何か嫌な予感するんだけど。パパ、自分に対しての敵は無視するのに身内の敵には容赦無いものね」
「え、そうかい? 別に僕は普通だよ? タケシには、本を教えただけだよ。あの子は本を読むのが好きだったし、ちょうど三国志の漫画とか読みたいって言っていたしね」
◆ ◇ ◆ ◇
「そうしてパパは、タケシに『孫子』や他の戦略・戦術書、護身術の本を渡したのよ。後は凄かったわ。学校での裏工作やら敵イジメっ子集団の仲間割れによる切り崩し、そして上手く怪我しにくい様に攻撃を受けて、その虐めの現場をわざと教師に見つけさせたり、相手の親の会社に写真付きで虐めの証拠送ったり。同じく虐められていた子達も味方につけて、とことんイジメっ子達を追い込み、最後には親ごとウチに謝罪に来させたの。それもパパが非番の日にね。とても小学3年生のやることじゃないわよね」
お母様は自慢げに息子の「武勇伝」を語る。
「それは実にエゲツナイのじゃぁ。タケの策がエゲツナイのは昔からなのじゃな」
「うん、おにーちゃん怒ったら昔から怖かったよ。裏側から真綿で締め付ける感じでやるんだもん」
わたくしは、タケの戦略・戦術の始まりを知った。
……タケは、自分の為では無く、他人の為ならとことん非情になれるのは昔からだったのじゃ。じゃから、此方の為に躊躇無く射殺を出来たのじゃ。
「後は、パパが警察官としてイジメっ子の親を監督不行きで説教し、イジメっ子にも話したのよ。この先、キミ達は犯罪者になってオジサンに逮捕されたいのかって」
お母様は、お父様のカッコいいであろう姿を思い出しながら話しているのか、うっとりとした顔をする。
「その子達、青い顔になったわよ。そしてパパは話したのよ。親として、息子の同級生をそんな悲しい事にはしたくない。どうしてキミ達は虐めなんてしたんだい、って。後は、もうパパの独壇場。向こうの両親達にも色々と話して、問題点を洗い出したわ」
「お父様はすごいのじゃ! 犯罪を芽から摘み、だれもが幸せになる結末を迎えたのじゃ! 是非とも此方は、お父様に会いたかったのじゃ!」
わたくしは、タケのお父様をもっと知りたくなった。
わたくしが大好きなタケを生んで育ててくれたお父様、お母様をとても好きになったのだ。
「それは悲しいけど、ちょっと無理ね。代わりに明日、あの人の仏壇とお墓に参ってくれないかしら?」
「はいなのじゃ。仏壇とは確か家にあるのじゃろ。今からでも参るのじゃ!」
わたくしは、居てもたってもいられずに布団から飛び出す。
「はいはい! じゃあ、皆で仏壇に報告に行きましょうね」
その後、わたくしがお母様に聞いた話では、タケと虐められていた子、そしてイジメっ子達は仲良くなり、高校まで一緒に悪友として過ごし、皆立派になったそうだ。
そしてタケによると、虐められていた子とタケはお父様に、護身術や生きる上での心構えをとことん叩き込まれ、どんな時でも生きて帰る心構えをみっちり仕込まれたんだそうな。
タケくんの過去話、どうでしたか?
彼が戦術家になった切っ掛けは、虐め問題から。
人間心理を読みきり、敵の行動を操作し、自分の思い通りに誘導し、最終的に勝利をする。
優しい過ぎるからこそ、他人の痛みを知り、そして自分の痛みよりも他人の痛みを嫌がり、それを救う為に頑張る。
本当に良い子ですね。
「タケ殿の過去、面白かったのじゃ。それでタケ殿は、コウタ殿よりも精神的にタフなのじゃな。コウタ殿は過去自分が何も出来なかった事をトラウマにしておって、それを打ち破るのに苦労したのじゃ」
チエちゃん、解説どうもです。
人間、色々ありますものね。
さあ、これで夜の姦しいガールズトークは御終い。
明日の更新をお楽しみに。




