第50話 新米騎士爵は、仲間達と海鮮酒場で盛り上がる。
「では、かんぱーい!」
「ちあーず!」
今は夕刻、僕の実家から300m程歩いたところにある海鮮が美味しい居酒屋に来ている。
「これは、保養所での刺身よりもスゴイのじゃ!」
「リーヤおねーちゃん、瀬戸内の魚食べたら、他所じゃ食べられないくらいおいしーよ!」
僕達の前には、見事な刺身の御作り、エビ等の揚げくし、ゴマ鯖や鰹の塩ダレ、生牡蠣に牡蠣フライ、土佐地鶏の焼き物などなど。
四国の美味しいものが沢山並んでいる。
なお、他のお客さんが面子の顔見てびっくりしたら大変だから、個室を借切っている。
「母さん、ここ人気店でしょ。よく急に予約取れたよね?」
「そこはチエちゃんが定期的に情報を送ってくれていたし、わたしのコネもあるのよ」
母はえっへんとドヤ顔で、決して小さくも無い胸を張る。
……母さん、守部 智代。身長もそこそこ<あって胸もそこそこ。今も実年齢から見たら若いからねぇ。身内びいき抜いても、マユコさんといい勝負しそう。
僕は、昔から綺麗な母が自慢でもあった。
そして父が居なくなった後は、母を助け守らなきゃって思ったものだ。
〝確かに怖さ・迫力といい、若さといい、母様といい勝負なのじゃ!〟
チエが僕の顔を覗き込んで念話で伝えてくる。
……確かにさっきのリーヤさんとの顔合わせ、怖かったよぉ。
「あら、チエちゃん、タケシ。何、ひしょひしょ話しているのぉ。今は楽しまなきゃダメよ!」
「ちょ、母さん! 念話聞こえるの!」
「へー、テレパシーなんてタケシ出来るんだ?」
僕の驚きの声に、何でも無いって答えを返す母。
……あかん、こりゃカンで全部見通しているんだ!
〝野生の母のカンは怖いのじゃぁ!〟
いつまでたっても母には勝てないと思う僕であった。
「リーヤちゃん、おいしい? ウチのコになったんだから、いつでも来てね?」
「はいなのじゃ、お義母様!」
「あーん、娘がもう1人増えたのぉ!」
「ね、お母さん。リーヤおねーちゃん、かわいーよねぇ!」
すっかりリーヤを離さない妹に母。
世の嫁姑問題は、ウチには当分発生しないと思うと安心だ。
「タケ殿、ココ日本酒も多いので嬉しいでござるぅ。鯖が新鮮だと、ここまで美味しいのかでござるぅ」
ヴェイッコは、お店のお品書きを僕に読ませて美味しそうな日本酒を片っ端から呑んでいる。
……こりゃ、間違いなく今晩もダウンだね。まあ、ヴェイッコさんは気持ちのいい酔い方するから良いけど。
「このタコが美味しい! アタイ、初めてお魚とかの美味しさ分かったかも!」
ギーゼラはにっこり笑いながら、どんどん料理を食べる。
……そういえば、ドワーフって肉食べて強いお酒がっぱがっぱってイメージ強いけど、お魚を気に入ってもらって良かったよ。あと、ちゃんとノンカフェイン系のお茶飲んでて助かります。ギーゼラさん、呑むと大変だものね。
「フェア、美味しい?」
「うん、おかーたま!」
お店の大将に頼んでお子様向けメニューを出してもらったので、エビフライ食べてにっこりのフェア。
「わたくしも満足ですわぁ。生牡蠣とはクリーミィなのね」
マム、しっとりと日本酒で頬を染めながら牡蠣を味わっている。
「タケ、これは何の刺身だ? 白身なのは分かるが、透けて皿が見えるくらい薄く切ってあるが?」
「はい、これは河豚、おそらくトラフグの刺身かと。内臓と血液に毒を持つ魚ですが身はとても美味しく、古代より日本人は何処が食べられるのか、トライアンドエラーで確かめ、捌き方を確立、免許制にして調理しています」
河豚の毒、テトロドトキシンは生体内ナトリウムイオンチャンネルの沈静化による筋弛緩作用で、意識障害が無いまま呼吸筋の動きを止めてしまう。
その毒成分、河豚はエサのヒトデ、藻類、貝類などから生態濃縮して集めている。
どうやら大元は海水中のプランクトンの一種、ビブリオ菌が毒素生成しているんだとか。
なので、塩泉などの人工海水を使い、かつ人工エサを与えて養殖することで無毒フグを作る事は、実験レベルでは成功しているらしい。
……確かトリカブトの毒成分、アコニチンはナトリウムイオンチャンネルの活性化による心停止、テトロドトキシンはイオンチャンネルの沈静化。お互いに効果を打ち消しあうのと、テトロドトキシンが先に体内分解されるのを利用した、時間差毒殺保険金殺人事件があったっけ?
僕は、陛下に毒見をする意味で食べて見せる。
「あー、この皮のコリコリ感と身の味がたまりません!」
……隣の市が、河豚料理、ふぐざくを郷土料理としているけど、ポン酢ともみじおろしがマッチして美味しいよぉ!
僕はフグを堪能した後、地酒をぐいと飲み干す。
……あーん、幸せぇ。
「た、食べて大丈夫なのだな?」
「はい、どうぞ。河豚の肝、肝臓は食べられませんが、代わりに味の似たカワハギの肝が乗っていて美味しいですよ」
陛下は、こわごわと河豚を口に入れ、次の瞬間驚く。
「この味は、なんと説明したら良いのか! 海の幸、ここまで旨いとは」
「ですよね、瀬戸内の魚はすごいです。あ、これが先ほど話したカワハギの揚げ物です。これも絶品ですよ!」
「この卵と鯛と白米のハーモニーがイイわぁ」
「だよねぇ、キャロお姉さん。わたしぃ漢字読めて良かったのぉ!」
「ワシの言う通りじゃったろ。ワシ前回四国に来た時は讃岐うどんや揚げ鶏は食べたのじゃが、魚は食べなかったのじゃ! 瀬戸内の魚、恐るべしなのじゃ!」
キャロリンとフォル、チエはお品書きをフォルが読んで、宇和島名物鯛めしをこっそり追加注文した様だ。
「フォルちゃん、それは何のじゃ! 此方も食べるのじゃ!」
そして、僕達は存分に四国の味を味わったのだった。
このお店、実在のお店を参考に書いています。
実際、瀬戸内の魚は絶品ですので、こちらに来られたら美味しい店探してみてくださいな。
「しかし、この書いている情報だけで、タケの地元見つけられるのかや?」
まあ、作者の地元は公開していますし、このお店も見つけることは可能だとは思いますよ。
ヒントいっぱい書いていますし。
「そうじゃな。では、皆の衆、明日の更新を楽しみにするのじゃ!」
では、また明日!




