第17話 新人捜査官は、立てこもり犯を狙う!
「マム、すいません。アタイが居ながら、立てこもられてしまいました」
「いえ、良く見逃さず追い詰めましたわ。後は、無事解決させて汚名は自分で返上なさい」
「アイ、マム!」
ギーゼラがマムに平謝りをしている。
ここは、サー・コンスタンティヌス・ホノリア邸宅の門前。
多くの警察、兵士が屋敷を取り囲んでいる。
魔法や電気による照明で、深夜23時過ぎにも係らず、煌々と屋敷は照らし出されている。
「で、中の様子はどうなの?」
「はい、先程アタイが見に行ったところ、執事が腕を負傷。奥様とお2人のお子様には被害はありませんでした。彼らは、食堂にて全員縛り上げられています。ヘレナは、トニーに対して怒鳴ってはいるものの、縛り上げられもしていません」
僕は、ギーゼラが潜入時に仕込んだカメラ映像をイルミネーターで見る。
「この様子だと、執事さんもすぐにどうこうという事はなさそうですね。ただ、お嬢様達の事を考えたら短期決戦にしないと……」
「ええ、寝不足とストレスは健康の大敵。子供に手を上げる外道には、手加減いりませんわ。犯人にはしゃべる口と頭さえ無事なら、後はどうなさっても結構です」
お母さんでもあるマムの怒りは、指揮官としての仮面越しにもひしひしと感じる。
「では、作戦を伝えます。警察隊はこのまま現場を包囲。ギンスター巡査は再び邸内へ潜入、最終時の犯人確保及び人質の安全確保を。この際、人質の安全を最優先、最悪犯人の殺害を許可します」
「アイ、マム!」
ギーゼラは、緊張した顔で命令を受ける。
「ペトロフスカヤ警部補は、派手に光る魔法で犯人の注目を牽引役をお願いします」
「了解じゃ、マム」
リーヤは、むふぅっといった感じでマムの話を聞いている。
「さあ、どんな魔法を見せてくれようぞぉ」
「リーヤ、一応の確認ですけど、深夜なのであまり大きな音を出すのは近所迷惑だから遠慮してね」
「わ、分かっておるのじゃ、マム」
……本当かなぁ? リーヤさん、一瞬表情に変化あったから、すっごい派手で爆音する呪文用意してたぞ、アレ。
「カルヒ巡査長は、玄関に待機。犯人を確保次第、警察隊を指揮して屋敷内へ突入をお願い」
「了解したでござる、マム!」
ゴーレムと延々戦闘をしたのに、まだ元気なヴェイッコ。
……僕、もうヘトヘトなんですけどぉ。
「さあ、キメはモリベ巡査ね。タケ、貴方の仕事は窓際までおびき寄せた犯人への狙撃。脳天一発と言いたいけど、吐かせる情報もあるし正式な裁判にひっぱらなきゃいけないから、腕の一本くらいで許してあげて」
「アイアイ、マム!」
ライフル弾なら、通常弾でも安心して窓越し狙撃が出来る。
魔法や弓矢での狙撃を警戒しているだろうけども、100m範囲以遠からの銃による狙撃は異世界人では思いつかまい。
「さあ、可愛い子達。お仕事よ!」
「アイアイ、マム!」
◆ ◇ ◆ ◇
「くそう、なんでコイツら動きが早いんだよぉ。逃げた場所まですぐに追いつくなんて」
「だから、言っただろ。地球から来たヤツラ、変な魔法を使って離れた場所から声を届かせるって。もうアタイもアンタのおかげでお終いだよ。屋敷にも居られなくなっちまった」
ヘレナは、トニーに掴みかかる勢いで話す。
「しょうがねぇじゃねーかよ。アジト襲われてオレにはオメーしか逃げる先が無かったんだから。それはお互い様だろ。オメーだってオレの処に逃げ込むつもりだったし」
「にしたって、子供達に手を出す事はないだろ! 関係ないじゃないの」
悪びれもせずに、手に持った大型ナイフを弄ぶトニー。
「そうかい? でも、関係ない訳きゃないだろ。オメーが旦那を殺したからこーなったんだから」
「今、それを言うのかい!」
ヘレナは驚愕し、思わずユスタ達を見た。
「あ、ぁぁぁぁ。アタイ、なんて事しちまったんだよぉ」
ユスタやアガタの表情が怒りでは無く、悲しみに満ちていたのを見たヘレナは、怒号する。
「そうさ、アタイが全部悪いのさ。旦那様に振り向いて欲しかったから、ムリにでもとヤク盛ったらヤクの量が多すぎて旦那様は死んだんだ。アタイが変な事を考えずに、ずっと影から旦那様を見ていれば良かったのに……」
「でも、オメーはダンナを殺したのを黙っていたんだろ。それじゃタダの人殺しと同じさ。オレと一緒になって、さっさとこの屋敷の財産かっぱらって逃げれらたのに、オメーが嫌がるから時間がかかってこーなっちまった。これもオメーが悪い。オメーは疫病神なんだよぉ!」
トニーは泣き叫ぶヘレナをあざ笑い、自分の不幸をヘレナに擦り付ける。
「こうなったら、オメーが屋敷を焼け! その隙にオレは逃げるのさ、オメー程度のオンナは何処にでもいる。オレはもっと成り上がってマフィアの大ボスになってやる!」
「貴方、トニーと言いましたか。最低ですね」
幼い、しかし凛とした声がトニーを哀れんだ。
「何、このメスガキは何言いやがるんだよぉ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「マム、ちょっと不味そうですよ。このままだとお嬢様が危ないです」
「そうねぇ。もう少し証言欲しかったけど、ド外道の台詞にも聞き飽きたわ。リーヤ、やっちゃって!」
「アイ、マム!」
僕は、照準を犯人が立てこもる食堂の窓に向けた。
◆ ◇ ◆ ◇
「貴方、トニーと言いましたか。最低ですね」
「何、このメスガキは何言いやがるんだよぉ!」
トニーは椅子に縛り付けたユスタの方へ歩み寄る。
「最低と言って何が悪いのですか。この哀れで愚かな最低男は!」
縛り上げられようとも、その気品に満ちた目に力を込めたユスタはトニーを睨み上げる。
「メスガキよぉ。オメー、怖く無いのかよ。それにオレを恨むのは筋違いだぞ。オメーのオヤジ殺したのはヘレナだぞ!」
トニーはユスタにナイフを突きつける。
その様子にアガタやユリウスは顔を青くする。
「賊め。お嬢様に何をする! 手を出すなら私にしなさい。幼子に手を上げるとは恥ずかしくないのですか?」
執事は腕についた傷の痛みに顔を歪ませても、声を上げてユスタを庇う。
「この若つくりのジジイは黙ってろ!」
「ぐぅぅ」
執事を縛りつけた椅子ごと蹴り上げて転がすトニー。
「トニー、もうやめて!」
「ヘレナ、オメーは黙ってろ! この生意気なメスガキ、黙らしてやる!」
そしてトニーは、ユスタに再び近付く。
「本当に哀れで可哀想。やって良い事と悪い事をご両親に教えてもらえなかったのね」
「あぁ? オレの親なんてあの大災害で皆死んじまったさ。だから死にもの狂いでオレは生きてきた。盗み、傷つけ、奪い、殺してきた。全部、オレが生きてく為さ。それの何が悪い!」
トニーの顔を見て尚も哀れむユスタ。
「そうなのね。貴方、誰かに叱って欲しかった、助けて欲しかったのね。でも、そうはならなかった。そして、こうなったのね。可哀想」
「そうさ。誰もオレを助けてくれなかった。このヘレナも同じさ。泥水啜っても生きてきた。そんな時、オメーのオヤジが変な気起こしてヘレナを囲い込んだから、こーなっちまったのさ。中途半端に助けたから、皆不幸になっちまったんだよ」
「でも、お父様はそんな不条理に怒っていらっしゃったわ。そして少しでも世の中を良くする為に頑張っていたの。ヘレナ、教えてくれない? 最後、お父様は苦しんだの?」
ユスタは、ヘレナに父親の最後について聞いた。
「お、お嬢様。はい、旦那様は最後までわたしにお前を救えなくてすまないと謝っておりました。そして、急に意識を無くされたので、あまり苦しんでいないとは思います」
涙ながらに話すヘレナにユスタは言う。
「そうなのね。ありがとう、ヘレナ」
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ユスタの感謝の言葉に絶叫して泣き叫ぶヘレナだった。




