第39話 新米騎士爵は、ちゃんと話を聞いてもらう。
「誠に申し訳ありませんでした。本当に貴方は異世界帝国皇帝直属の公安保安官殿だったのですね」
オオムラ警部補、冷房が効いた会議室で大汗をハンカチで拭いながら僕に謝罪する。
「いえいえ、警部補。今回の事はウチのマムに陛下がイタズラ心出しすぎたのが原因ですから。それに便乗したチエさんも悪いですけどね。僕は一切気にしていません。同じ警察同士、喧嘩なんてしたくないですもの。敵はテロですしね」
僕は一切気にしていないとオオムラに話し、給仕してもらった冷えた麦茶を味わう。
……これ、いいとこの銘柄じゃないかな? 美味しいね。
「そう言って頂けたら、こちらも助かります。オイ、ミナカミ。オマエも言う事があるだろう!」
オオムラは横に座ってガチガチな姿勢をしたまま真っ青な顔をしているミナカミを肘で突く。
「オ、オレは……」
「はい、そこまで。巡査部長、僕達も取り調べとか実際にしていますから、お気になさらずに。それにお2人とも、僕は日本の警察機構では巡査です。ペーペーで一応25歳の僕に敬語も必要ないですよ」
言い出し辛そうなミナカミに僕は先手で謝罪不要と話し、敬語も必要ないと話した。
年齢を言ったらびっくりされたのは、今更ながらしょうがないけど。
……外交問題にもなりかねない事態だもんね。固まっちゃうのもしょうがないや。
「本当にそれで良いんですか、モリベ閣下? 今回の事件解決のヒーローなのに?」
オオムラは、尚も僕の機嫌を取りに来る。
どうやら僕との話以前に警察署長辺りといろいろあったらしい。
……署長のところには、陛下とアレクさん、警護にヴェイッコさんとギーゼラさん、そして通訳としてフォルちゃんが行っているようだ。キャロリンさんは、お手伝いで医療機関を回っているとの事。皆、仕事しているんだね。
「そこは一切気にせぬで良いのじゃ! タケは見た目の通り、心が広くて見て居たら安心できる坊やタイプなのじゃ! のう、タケや?」
そこに食いつくリーヤ。
今は僕の右横に座り、僕の腕に自分の腕を絡めて所有物宣言をさりげなくしている。
ただ、眼の前のオレンジジュースに、視線が時々動いているのは可愛い。
リーヤ、僕の外見を毎度、決して褒めていない風に説明するのだが、実際そのとおりなので、僕は苦笑一つで終わらせる。
「はいはい、リーヤさん。それより、気になるなら先にジュース飲んでてくださいな」
「もう、タケは何を見て居るのじゃ! しょうがないから飲むのじゃ!」
しょうがない風をしながら、僕の腕から手を離してジュースに一目散のリーヤ。
「これはポンの新作かや? 濃い味が美味しいのじゃ!」
僕は美味しそうにジュースを飲むリーヤを横目に見ながら、警部補達に話す。
「とまあ、リーヤさんの言う通りなので、階級なり名前なりでお呼び下さいな。オオムラさん」
「それならいいや、モリベくん。早速ですまないが、こちらの面々を紹介願えないかな?」
僕の左隣にはマムと膝に座ってジュースに夢中のフェア、そして更に左端にはチエが座っている。
……リーヤさんとチエさん、謎の幼女2人にエルフ美女&幼児。確かに地球の警察からしたら謎だよね。
「では、まずはマムから。マム、今回事態がややこしくなったのは、半分はマムの責任ですよね。自己紹介は、御自分でどうぞ!」
「えー、タケちゃんのいけずぅ! でも遊んじゃったのは確かね。まるでドラマみたいな取調べ風景は、とても参考になりましたの」
マム、僕に向けてテヘっと可愛く舌を出して謝った後、真顔に戻る。
「わたくし、異世界帝国皇帝陛下直属、異界技術捜査室、室長のエレンウェ・ルーシエンと申します。階級は警視正、子爵位ですの。これはわたくしの1人息子のフェアですわ。今回はわたくしのイタズラで皆様にご迷惑をおかけ致しました」
マム、エルフらしい端正な顔に微笑を浮かべてオオムラ達に謝罪をした。
……そういえば、マムの警察階級や爵位は初めて聞いたね。しかし、ウチはリーヤの警部補の上がすぐに警視正って歪つだねぇ。爵位も子爵なら伯爵、ザハール様の一つ下で十分な御貴族様。この間、マムとリーヤに騎士爵を陛下が贈らなかったのも納得。
「はぁぁぁ、あ! すいませんです。いえいえ、警視正殿に謝っていただく事でもありません。警察庁との連絡体制が杜撰だったこちらの手落ちでもありますから」
マムに見ほれていたオオムラ、はっとして正気に戻り、マムに謝罪をした。
……真面目にしていたらマムは絶世の美女だものね。イタズラっ娘ぽい顔もフェア君を可愛がる姿も、亡きご主人を思う悲しげな姿も綺麗だけどね。
「そう言っていただけたら幸いですわ、オオムラ様。ウチの子達良い子なんだけど、まだまだ『おこちゃま』で絡め手に弱いの。もっと勉強して欲しいものですわ」
マム、右手を頬にあてて、オホホという表情をしながら僕達の方を見る。
……人生経験で長寿のエルフ種のマムに勝てるはずないですぅ。ヒト族に無理言わないで下さいなぁ!
「はあ。しかし警視正、流暢で綺麗な日本語ですね。オレ達なんて英語すらチンプンですのに」
「いえいえ、日本には面白いコンテンツ多いですから、覚えるのが楽しいですわ。先日は吉本新喜劇を習得しましたの。時間があれば、舞台を見たかったのですが」
マム、言うに事欠いてヨシモトを推す。
その様子にオオムラ達はぎょっとしているが、日本人以外には通じないコテコテギャクを見たがるエルフには驚くのが当たり前と僕は思う。
「では、最後はワシの出番じゃな。ワシは岡本チエ。今回、異世界帝国の皆の観光案内兼保護者役なのじゃ!」
ジュースを先に飲み干していて、待ち遠しい様に出番待ちをしていたチエ。
立ち上がり、恒例のドヤ顔「無い」胸張りポーズで自己紹介をする。
「あのぉ? 警視正、本当にこのお子様が皆さんの保護者なのですか?」
「ええ、そうなの。ご存じないかしら、皆さん? 9年前に地球を救った『異界の女神様』は?」
マムはさらっとチエの異名を呟く。
「確か、次元融合大災害の時に、突如現れた異形の女神様が怪物退治するは、怪我人を助けるわとは聞いてます。ウチの署でも直接助けてもらったのがいる話ですが」
「それこそ、ワシなのじゃぁぁ!!」
後は、毎度の魔神将登場で警察署が大変になったのは、お約束、とっぴんぱらりのぷー。




