第32話 美幼女は、新幹線に興奮する。
「タケ、此方シートベルトをしなくて良いのかや? この新幹線、自動車よりも早いのじゃろ?」
リーヤは僕の隣、窓際の席に座り、少し青い顔でこわごわと僕に聞く。
「大丈夫ですよ、リーヤさん。皆さんも手荷物を上の荷物入れに置いたら席に座ってくださいな」
僕は、皆を安心させるように笑顔で指示を出す。
なお、大荷物は朧やチエの所有異空間内に入れてあるので、楽チンだ。
「本当なのかや? あ、動き出したのじゃ!」
純白の車両、新幹線N700S「のぞみ号」は一路西を目指し、東京駅を16両編成で発進した。
ちなみに今回は贅沢にグリーン席、ステキな旅になりそうだ。
「あれ? 思ったほど勢いを感じないのじゃ。まだ自動車の方が勢いを感じるのじゃ!」
リーヤは車窓に流れる町並みと自分の体感速度が一致せずに不思議がる。
「新幹線は車両だけでなく、車両を走らせる線路、鉄のレールにも工夫を凝らしていまして、殆ど揺れることなく速度を上げていきます。おそらくもうすぐ時速200km、僕達がポータムで自動車を走らせる速度の5倍近く、弓矢と同じくらいの速度出ていますよ」
「なにぃ? このまったく揺れないのがかや?」
びっくり顔のリーヤ。
「なんかすっごーい! カンナちゃん分かる?」
「ギーお姉ちゃん、わたし分かんない。どーしてこんなに早いのぉ?」
理解しきれずに日本在住の精霊カンナちゃんに聞くも2人して分からないギーゼラ。
「拙者、感動でござるよぉ。東海道53次、江戸と京都が確か13日だったでござるが、それが2時間半でとは!」
時代劇から東海道の距離をなんとなく把握しているヴェイコは、速度をより理解したらしい。
「フェア、すごいわよね。街がどんどん飛んでいくわ」
「おかーたま、はやーい!」
フェアを窓際に近づけ、自分も車窓から眼が離せないマム。
「タケ、これをどうやって運用しておるのだ!? 余には全く分からぬ?」
「はい、ここまで凄すぎると帝国にどのように導入してよいのか、分かりません」
少年皇帝とお付きは、自分の想像外の事象に興奮が隠せない。
「えっとですね。確か新幹線が一番最初にここを走ったのが、前々回の東京オリンピック付近の1964年ですから、66年程前ですね。それ以前、日本に鉄道が導入されたのが、明治の最初、えーっと明治5年、新幹線から100年程前の1872年です」
僕はスマホで情報を検索して、陛下に説明した。
「お、おい! そんなに昔から新幹線や鉄道が走っておるのか?」
「はい、日本に鉄道が導入される前、1825年ですから今から200年くらい前にイギリスという国で鉄道が実用されました。この頃は江戸時代の末期、将軍様のいた徳川幕府の最後の頃ですね。そして徳川幕府時代から研究をして、明治政府が政権を得てすぐに、蒸気機関車というものを使った鉄道が日本でも使われたとありますね」
江戸期も、日本の科学技術は西洋とはそこまで差が無かったようで、持ち込まれた蒸気機関の模型から比較的早い時期に国産の蒸気機関を開発していた。
「な、なんなのだ! この日本という国はバケモノなのか? あの時代劇の時代からすぐにこのような科学とやらが進んだ国になったのか!?」
「そうですね。江戸幕府解体から70年もしないうちに世界有数の機動艦隊を作り上げて、世界に喧嘩を売っちゃった変態国家であるのは否定しませんね」
言われてみれば、日本という国は、変態技術国家。
毎年のように訪れる自然災害にもめげず、ちゃくちゃくと海外の知識を取り入れ、独自に魔改造をしていく。
「第二次大戦で国全体が焼け野原になった19年後に、新幹線を走らせているのも変態ですね」
「うむぅ、アレクよ。余は日本には学ぶものがありすぎるぞ。魔族の時間感覚で動いていたら、あっという間に魔法すらコピーされて、唯一の帝国の利点すら失ってしまう」
少し青い顔の陛下。
自分が立ち向かう「敵」の巨大さに恐怖を感じたのであろう。
「陛下、そこは心配いらぬのじゃ。陛下は今回の旅行で帝国と地球の差を身を持って理解したのじゃ。それを持ち帰って、今度は地球にも負けない国を作り上げたら良いのじゃよ。それに、日本は基本お人好し国家じゃ。協力を申し出て、利益を与えていたら、まず裏切りはせぬ。お互いに高めあえば良いのじゃ!」
陛下の横に座り、通訳もしているチエ。
心配顔の陛下に、方針を与えていた。
「チエ殿、本当に僕は帝国を日本や地球の他の国々みたいに出来るのかな?」
「安心するのじゃ! ワシ、陛下を守り導くのじゃ。任せておくのじゃ!」
不安に、皇帝では無く「少年」の顔でチエに尋ねる陛下にチエは満面の笑みで返す。
「本当?」
「もちろんなのじゃ! 魔神将の名において宣言契約するのじゃ! ワシ、岡本チエは、ミハイル2世と帝国を永久に守護するとな!」
一瞬、魔力を全開展開して陛下に対して守護宣言をするチエ。
「ありがとう、チエ殿。いえ、チエ様。では、ミハイル2世として宣言する! 魔神将チエ様を永久に帝国の守護神として奉ると!」
晴れやかな顔でチエに向かい、崇拝宣言をする陛下。
「へ、陛下、それは勘弁なのじゃぁ! ワシ、好かれるのは良いのじゃが、崇拝されるのは恥ずかしくてイヤなのじゃぁ! ワシは片付けがヘタで、お調子者、母様に叱られてばかり、ただのダメ魔神なのじゃぁぁぁ!」
恥ずかしさから、自分のダメダメさを大きな声で叫ぶチエ。
僕達はチエと陛下のやり取りを聞いて、微笑んだ。
毎度、誰かの悲鳴で終わる話ですが、大抵ギャグなのでご容赦を。(笑)
それと作品世界は2030年付近、ちゃんと東京オリンピックが2021年に開催された設定なので、それに合わせた説明になっていますから、ご注意を。
「もー、ワシ。これ以上崇拝されるのは勘弁なのじゃぁぁ!!」
自分をダメ魔神と謙遜してますが、何かと縁を大事にして人々を救っているのですから、しょうがないですよね。
「ワシ、その気は無いのじゃが、もしかして他化自在天なのかやぁぁ!」
他化自在天、またの名を第六天魔王、マーラと言い、仏教守護の十二天が一柱、伊舎那天の配下であり、あの織田信長も名乗った名前。
仏道修行を妨げる、須弥山の欲界に住む最上級の神であり魔。
この世界を自在に操り、全ての欲望を適えていく神。
欲望が全て悪では無いため、単純に悪神ともいえぬ存在。
そういう意味では、自己や他者の善なる欲望を適えて救ってゆくチエちゃんは、素質あるかもね。
「ワシ、決してそんな立派でも悪神でも無いのじゃぁぁあ!」
善悪は紙一重、欲望も善なるものから悪意に満ちたものまで千差万別。
より多くの人々、世界を救う欲望を適えるのなら、別に第六天魔王でいいんじゃないの?
「うみゅー、ワシ別に偉くなりたいのではないのじゃぁぁ! 魔王なんて名乗るつもりもないのじゃぁぁ!」
まだまだ煩いチエちゃんでした。
では、明日の更新をお楽しみに。
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