第32話 新米騎士爵は、母親への婚約者案内を想像する。
「これがホンモノの新幹線なのかや! 緑で綺麗なのじゃ! 確かアニメではロボットに変形したのじゃ!! あ、先に赤いのがくっついておるのじゃ!!!」
「確かにものすごっくカッコイイね、リーヤん。なんか鳥の口先にそっくりだね」
「拙者、感動したでござるぅ! これが夢の超特急でござるのか」
「おかあたま! これ、のりものなのぉ?」
「多分そうね。わたくしも初めてだから分からないの、フェア」
今、僕達は東京駅に来ている。
今日から僕の地元、西日本方面へ移動する為だ。
新幹線の勇姿に、すっかり興奮状態の捜査室の皆。
「タケ、これは何なのだ?」
「はい、陛下。これは鉄道、人間や荷物を大量かつ高速で運ぶ交通機関です。その内でも、地球上でもっとも安全に早く乗客を遠くに運ぶ新幹線という乗り物ですね。一回で確か700人くらいの人々を弓矢が飛ぶのよりも早いスピードで運びます」
調べたところ、弓矢が大体時速200km、新幹線が最高速度300km、音速が1225km。
……因みに僕の使っている対物ライフルは遅めとはいえ、拳銃弾よりも少し早い秒速425m、音速ちょいなのだ。
「なんと! そんなに早いのか。で、タケよ。これが何台あるのか?」
速度にびっくりした陛下は、列車本数を僕に尋ねる。
「えーっと、少し調べますね。……すいません、あまりに沢山ありすぎでわかりません。運行スケジュールを見るに数分置きに時間通りに何処か行きの新幹線が、ここ東京駅から出発していますね」
「なんだとぉ!!」
僕からの答えで、更に驚愕する少年皇帝。
……日本人の僕でも、新幹線の時刻表は脅威、理解の範疇越えだもん。
「そうよね、地球人のワタクシでもびっくりですもの。アメリカでも導入計画が立案されては中止ってパターンね。他所の国の鉄道なら30分遅れは当たり前だけど、日本くらいよ。1分遅れたら一大事なんて」
「あれ、タケお兄さん? こっちはタケお兄さんのお家とは逆方向じゃないですかぁ?」
キャロは自国への導入計画について話し、フォルは日本の地理に土地勘があるので、真実に気が付く。
「それは、皆に沢山の新幹線を見てもらいたかったからなのじゃ! ワシのワガママとイタズラなのじゃ!」
チエはネタバラシする。
僕は、それを理解していたので、何も最初から言わなかったのである。
「何、新幹線には何種類もあるのか?」
「アニメでも沢山あったのじゃ! 他には青白いに紫の、数字のや、他のアニメでも見たのとか、黄色いのもあったのじゃ!」
北海道、東北、上越、北陸、秋田、東海道、山陽、九州。
日本の南から北、古今東西、縦横無尽に走っている。
……僕の地元では走っていないけどね。
僕は東京駅発の新幹線を見ながら、地元の事を思った。
◆ ◇ ◆ ◇
「今日の移動は、新幹線を使うのじゃ!」
朝一番、朝食を食べている僕達の前に現れたチエ。
その発言は、僕にとっても意外だった。
「飛行機を使わないのですか? 流石に僕の地元までは遠いですよ?」
僕の地元には東京からでは800kmはある。
新幹線よりは飛行機の方があっというまに到着するはずだ。
「それがのぉ……。陛下を乗せるのが面倒なのじゃ」
「あ、乗員名簿!」
飛行機の場合、必ず登場時に事故に備えて乗員名簿を作る。
陛下の場合、お忍びなので実名で登場するとややこしい事案になる。
偽名で誤魔化す事も不可能では無いが、あきらかに異世界からの異邦人である陛下やリーヤ達は普通は行われないパスポートを提示させられる可能性があり、その際に名前が一致しなければ、大変な事になる。
「そういえば、陛下のパスポートは実名なのですか?」
僕はリーヤのパスポートは見たことがあって、可愛い笑顔と実名が異世界語と英語で併記されている。
「うむ、余は実名で来ておる。もしもの時は正体を現す必要があるのでな!」
ドヤ顔の陛下、なら飛行機での移動は不可能だ。
「ならば、確かにチエさんのおっしゃるとおり新幹線で移動するしかないですね。了解しました。で、今後の移動スケジュール、及び宿泊はどうしますか? まさか僕の実家に全員泊まるとか言いませんよね」
僕は陛下の事情から新幹線移動は納得したものの、ここから先の予定が分からないので、その事をチエに聞いた。
「帰りは、ポータルで一気にワシの実家か、この宿まで帰るのじゃ。行き位はゆっくり景色観光もするのじゃ。そういう事で、今日は関西圏観光をするのじゃ! 大阪まで新幹線に乗るのじゃあ!」
……なら、ウチの実家は明日以降だね。連絡しておかなきゃ、びっくりしちゃうよね。いきなり御貴族様や皇帝陛下、魔神将が現れるんだもの。
僕は、ふと笑みが毀れるのに気が付く。
……母さんびっくりするだろうなぁ、いきなりリーヤさんを婚約者だって連れ帰ったら。佳奈なんて驚いて、「おにーちゃん、騙されていないの? もしかして、こんな小さな子に御手付きしたのぉ!」なんて言いそう。
「タケや、何か嬉しそうなのじゃ」
「はい、母さんや妹にリーヤさんを紹介できると思うと、今からどう説明しようかと思って、笑っちゃいました。まさか、異世界行って半年で、魔族御貴族様の美少女を婚約者として連れ帰るなんて、僕自身予想外の出来事ですもの」
僕は、横に座って僕の顔を見上げているリーヤに思っている事を話す。
「それは此方も同じじゃ。タケに会うまでは、まさか地球人と婚約するなぞ、想定外だったのじゃ。今になれば自然とタケ以外の選択肢は無かったとは思うのじゃ!」
頬を赤く染め僕を見上げるリーヤ。
そのあまりに可愛い様子に、僕はリーヤを抱きしめたくなったが、いかな周囲には身内しか居ないとはいえ、見た目小学生の幼子に恋人同士のハグをして良いはずも無い。
仕方なく、僕はリーヤの頭を撫でる。
そこにリーヤも少し背伸びをして、僕の頭を撫でる手に頭を擦りつけた。
「此方、タケの手の暖かさが大好きなのじゃ!」
僕は、この旅行で更にリーヤが大事に、そして好きになった気がした。
「タケ殿が、ご母堂殿にどういう説明をするのか、今から楽しみなのじゃ! ワシ、HD撮影して永久保存にするのじゃ!」
先ほどから作者の横で騒々しいチエちゃん。
実に困ります。
「ワシ、幸せな風景を映像に収めたいだけなのじゃ! 被写体が嫌がるなら、無理にとは言わないのじゃ! 当人の幸せが一番なのじゃ!!」
幸せを「食事」とするチエちゃんらしい答えかな?
「人聞きが悪いのじゃ! 例えワシが食べられなくても、ワシはただ単に幸せが増えていくのが大好きなのじゃ!!」
ごめんなさい、私の思い違いでした。
「分かれば良いのじゃ! 所詮ワシらはお主から生まれた存在。今まで通り作品を通して愛してくれたら良いのじゃ!!
はい、これからも宜しくお願い致します。
「うむ、しかし毎回言うが、ワシに頼りすぎは良くないのじゃ。精進あるのみなのじゃ」
了解です。
「ということで、明日の更新をたのしみにするのじゃぞ!」




